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 世界に散在する日系企業の現場を視察して感じることの一つに、現地のナショナルスタッフが極端な保身に走っている現象を見かけることです。日本から送り込まれた駐在員の多くがストレスを感じる一つが「どうしてミスをしても誤らないのか」という話です。

 私は独自に英国の某巨大金融機関でグローバルに働く従業員を対象に「謝る」行為について調査したことがあります。調査対象にした20カ国の異なる国籍を持つ従業員らは、自分とは異なる国籍や人種の従業員と協働経験があり、顧客やパートナー企業も自分とは異なる文化的背景を持つ人たちと仕事をした経験のある人たちでした。

 その中で「どこの国の人が最も謝らないと思うか」という質問をした結果、なんと約80%の回答者が「アメリカ人」と答えました。ちなみに2位は中国人でした。逆に海外に駐在経験のある日本人に話を聞くと「ナショナルスタッフが謝らないことにストレスを感じたことが多かった」と答えた人は9割に登りました。

 あるアメリカ駐在経験のある大手製造業で働く日本人は、アメリカ人の上司の下で働いていたそうですが、自分がミスをして謝ったら、「謝るのは弱さの表れだ。謝るくらいなら別の問題解決策を持ってこい」と言われたそうです。
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 謝罪や反省文化の定着した日本では、会社や社会に存在する目に見えない約束事を守らなかった時などにも頻繁に謝罪が要求されます。しかし、日本以外の国では、上司にミスなどを指摘されると部下は言い訳を初め、人のせいにしたりする光景をよく見かけます。

 日本人は「いさぎよく謝ればいいのに」と内心思うことが多く、ストレスになっているわけです。では、ミスをした当の本人の心の中はどうなのかというと、たとえばアメリカ人の場合は、相手に謝りはしなくとも内心では悪かったと思うことが多いと言われています。言い訳しながら、自分の良心を納得させようとしたりと話は複雑です。

 謝罪しない文化の背景の一つに保身ということがあります。上司は自分を評価し、報酬や昇進に深く関係するので、間違いを追求されると、自分を守るために言い訳が始まるわけです。極端な例ですが、刑事ドラマの尋問の場面で犯人が罪を認めるまでの心理戦は、人間が窮地に立たされた時の心理状態を知る上で参考になります。

 海外の職場で、ナショナルスタッフの多くが保身に走っている現象をよく見かけます。保身に走る従業員の数が多ければ多いほど、現場のマネジメントがうまくいっていない証拠というのが私の見方です。

 ミスを組織やグループで吸収してしまう日本の企業文化では、ミスを認めても被害は少ないのですが、個人評価が中心となれば、なかなかミスは認めないものです。

 保身が蔓延る原因の一つは上司の部下へのフィードバック不足です。また、上司が部下に対する評価基準を明らかにしていないことが原因することもあります。譲れない明確な基準を示すことはグローバルな現場では極めて重要ですが、同時に文化の違いで見えにくい上司の部下への評価や価値観を、常にフィードバックする必要があるわけです。

 それと日本の謝罪文化は、海外では「誰に対して謝るか」を違えると大変なことになります。謝罪文化のない中国や韓国に謝り続けて日本は大変なことになっています。支配するかされるかという弱肉強食文化が強い場合は、謝ることのリスクは大きくなります。

 とにかく、謝罪は問題解決の本質ではないことを理解することです。会社が不祥事を起こしてトップが謝罪会見をする場面を日本ではよく見かけますが、それは問題解決の入口でしかなく、どう解決し、再発を防止するかを明確に示せなければ意味のない謝罪です。