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 トルコが預かる358万人といわれるシリア難民が、国境を接するギリシャ、ブルガリアに向かう映像が世界に配信されています。2015年に大量の移民、難民が欧州連合(EU)に押し寄せた時を思い起こさせる光景です。トルコのエルドアン大統領は「ドアを開いた。今後閉じることはない」と明言しました。

 国境を開放した理由は、大量難民の流入を防ぎたいEUがトルコ政府に要請し、彼らをトルコに留め置く代わりに資金を提供すると約束しながら、約束が反故にされているとエルドアン大統領は主張しています。トルコは今、シリア内戦でトルコと国境を接する北西部イドリブ県の戦闘が激化し、新たな難民の波が押し寄せる懸念が高まっている事情もあります。

 国境解放した今月1日だけで、トルコ北西部のギリシャとブルガリアの国境地帯には欧州を目指す7万6千人を超える難民らが押し寄せ、今もギリシャやブルガリアの国境警備隊と激しく衝突しています。地中海のトルコ沿岸の目と鼻の先にあるギリシャのレスボス島にも、ボートで押し寄せ、同国の極右集団が上陸を妨害する騒ぎが報じられています。

 折しもエルドアン大統領が欧州への扉を難民に開放した今月1日、2015年の大量難民押し寄せで100万人の難民を受け入れたドイツでは、専門人材受入れの新移民法が施行されました。ドイツは大量難民を受け入れた後、様々な問題が発生し、メルケル政権の姿勢を批判する極右政党、ドイツのための選択肢(AfD)が勢いを増し、無視できない政党に成長しています。

 そんな中、人材不足は喫緊の課題ということで2018年暮れにメルケル政権は、専門性の高い人材を優先的に入れる移民法改正を閣議決定し、議会での議論を経て「高技能移民法」として可決成立し、1日に施行が始まりました。中身は従来の高技能労働者や専門家の条件とされていた大卒以上の学歴が撤廃され、門戸を拡げた形です。

 つまり、出身国で2年以上の職業訓練を受け、ドイツの資格と同等または類似の資格を取得している証明書保有者もこのカテゴリーに組み込まれるようになりました。無論、EU域外の国や地域からの申請者については、ドイツ国内にある企業との雇用契約も条件となる一方、従来あった応募するポストに適した人材がドイツ人またはEU加盟国民にいない場合に許可するという条件は撤廃されました。

 実はメルケル首相が大量難民を受けていれた背景には、人道的な観点だけでなく、深刻化する人手不足解消に教育を受けた優秀なシリア人が魅力的だったこともありました。しかし、ドイツ国内での差別や厳しい境遇に音を上げて難民が引き返す現象も起き、その間に極右政党のAfDが伸長しました。

 さらに昨年来、ドイツは経済成長が鈍化し苦戦を強いられています。そこに新型コロナウイルスが世界に蔓延し、欧州でも感染者が増え、欧州経済に暗雲が立ちこめています。EU以外の専門技能をもった人材確保にシフトするドイツですが、状況は厳しく、国内では極右も勢力を伸ばしています。

 タイミングはけっしていいとはいえない高技能移民法の施行ですが、背景にある少子化が解決しない以上、選択肢はないのかもしれません。

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