安部雅延のグローバルワークス Masanobu Abe Global Works

国際ジャーナリスト、グローバル人材育成のプロが体験を踏まえ現在の世界を読み解きグローバルに働く人、これから働く人に必要な知識とスキルを提供。

フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

英西部グロスターシャーに住む男性が、自分の妻をタウン誌の「譲ります」コーナーに掲載したことが話題になっています。建設業を営むベイツ氏は結婚一年目、テレビを一緒に観ていてコメントする妻が嫌になり、「口うるさい妻!非課税、車検なし、少しさびもあるがメンテナンス良好」との広告を出したそうです。

 

リサイクルの発達したヨーロッパでは、どこの町や地域にも車や家電製品、日用雑貨などの中古の売り買いや譲渡情報の無料広告誌があります。その誌面に掲載された「妻、譲ります」広告は、出した本人のベイツ氏も、冗談だから反応はないだろうと思っていたら、問い合わせの電話が次々に掛かってきたそうです。

 

ベイツさんは、なんと釣り具と一緒に妻の広告を掲載したそうですが、「奥さんは、まだありますか?」という予想外の問い合わせに本人も驚いたそうだ。当然、これを知った妻は、最初は激怒したそうですが、次第に、この状況を楽しむようになったそうです。

 

このニュースは、本当に英国らしいユーモアに満ちたものです。英国人は感情を露わにしたり、直接的な表現をしたりするのを嫌います。最近では、アカデミー主演女優賞を今年獲得した女優のケイト・ウィンスレットが、感情を高ぶらせてスピーチしたことを理由に、「英国で最悪の話し手」に選ばれました。

 

内面を容易に表現しない英国人を見て、「気持ちが悪いほど日本人に似ている」という人もいますが、日本人と違うのは、何かにつけ、言葉のレトリックや毒のあるユーモアを好むことです。そのひねった英国人のユーモアを、フランスやイタリア人は、「理解しがたい自己満足」と言います。

 

ベイツ氏のジョークにも、毒がありますが、大人のユーモアとも言えますが、それを面白がる英国人の精神を健全と見るか、不健全と見るかは、人によるでしょう。ただ、どちらにしてもユーモアは、人の心を豊かにすることもあります。特に異文化同士の関係では、ユーモアが潤滑油になる場合が少なくありません。

 

フランス南西部ポントンクスシュルラドゥールにあるソニーフランスの工場閉鎖に伴う交渉がこじれ、今月12日夕方から、同社のフシェ社長と人事部長が会議室に軟禁されました。従業員への補償金交渉で共産統計労働組合(CGT)に組合員らと揉めたのが原因と言われ、翌日昼頃には解放されました。

 

この工場では、ビデオテープなどを生産しており、すでに25年間も操業していました。フランスのメディアの報道では、こんな過激な行動をとっても、仕事を失うことに変わりはなく、ごね得で1ユーロでも多く補償金をもぎ取ろうというのが組合員の本音だろうと言っていました。

 

大西洋に近く、スペイン国境も近い人口約2000人ポントンクスシュルラドゥールの町は文字通り、ソニーの町でした。ソニーフランスは昨年末には、今年4月の工場閉鎖を発表していましたが、解雇通告を受けた312名は、同じ町や周辺地域で次の仕事が見つかる可能性はゼロに等しい。

 

それに町は大口の税収を失い、役所、学校、郵便局などの基本的機能にも経済的影響を与え、ゴーストタウンかする恐れもあります。

 

無論、いまさら将来性のないビデオテープを生産し続けるのも愚かですが、この騒動で思い出すのは、某日系家電メーカーが、仏西部ブルターニュで工場を閉鎖して時のことです。労働組合との交渉が大荒れとなり、ある組織を通じて、情報収集を頼まれましたが、雇用法への知識が日系企業側に不足していました。

 

韓国のある企業は、工場閉鎖の際、残された工場内の資産の所有をめぐり、激しい紛争のあげく、韓国側の責任者が工場に火をつけて逃走するという過激な行動に出たこともあります。他国に生産拠点を持つ時は引き際まで想定して、しっかり知識を蓄えておく必要があるということです。

 

景気後退で、欧州内では工場での大型リストラが次々と発表され、弱者から切り捨てられています。無論、ソーシャル・セキュリティ・ネットがしっかりしているので、路頭に迷う人は少ないのですが、外国人労働者、移民、単純労働者などの弱者から順番に切り捨てられている実情は変わりません。

 

日本では、民主党の小沢一郎党首の第一秘書が、政治資金規正法違反で逮捕され、民主党の支持率が下がっています。日本の政治家の多くは、秘書に責任を押しつけ、自分に火の粉が掛からないようにする習わしがありますが、限りなく灰色でも、議員が続けられるだけでなく、鈴木宗男議員のように長期に留置されても、議員で返り咲くことができます。

 

この禊ぎという不思議な習慣は、日本独特のもので、欧米では考えにくいものです。フランスの国立レンヌ大学にある日仏経営センターの所長だったデュラン教授は、私に「日本のトップは羨ましい。欧米では一度、法に触れる大きな失敗をしたら、リベンジは困難だが、日本では可能なようだ」と言いました。

 

スキャンダルまみれになった議員が、未だに議員を続けている例は日本では多く、その議員に投票する有権者がいるところに、日本の倫理観の怪しさがあるようにも思います。フランスでは、元首相でボルドー市長でもあったアラン・ジュペ氏が、パリの助役時代に不正政治資金流用に関与したとして有罪判決を受け、政界を追われました。

 

今は、多少の政治活動をしていますが、元のような政治活動は困難な状況です。過去にはロゲ産業相が、自宅を建てるのに建築業者に格安で建てさせ、完全に中央政界から姿を消しました。企業のトップも、経営ミスで大きな損失を出すなどの失敗を犯せば、即追放です。

 

罪を憎んで人を憎まずという言葉がありますが、禊ぎで片づける日本は、罪の償いの意味が欧米とは違うようです。「誰だって罪を犯すんだから、まあ、いいでしょう」という感覚なのでしょうか。日本の政界は大混乱状態ですが、4月にはロンドンで重要な金融サミットもあり、主要国は戦々恐々としていますが、大丈夫でしょうか。

最近、フランスのカーラ・サルコジ大統領夫人が、子供が授からない場合、養子をもらう可能性があると発言し、注目を集めています。彼女は前夫との間に男の子がいるし、夫のサルコジ氏は過去2回の結婚で3人の子供がいますが、彼らは二人の間の子供を望んでいるようです。

 

一昨年、ある雑誌に、「安倍首相(当時)は養子をもらうべきでは」というコラムを書きました。一国の首相がもし、アジアの貧しい国の孤児を養子して育てたら、国際的には非常に高い評価を得られるし、首相や政治家にとっては子供育て経験は重要だと考えたからです。

 

残念ながら、安倍さんには、そんな意志はなかったようで、お酒の好きな奥様は、子育てに関心がないのかもしれません。日本と違い、欧米では、貧しい国から養子をとる習慣があります。私の大学の学生の中には、過去、何人も中国系・韓国系フランス人がいました。実は彼らは、乳児のときにフランス人家庭に養子として引き取られ、育てられた子供たちです。

 

アメリカのセレブが養子を育てていることがよく話題になりますが、カーラ夫人は「血のつながりがなくても、親子の絆は作れると思う」と言っています。私の友人のピーターは英国人ですが、フランス人の奥さんとの間に子供ができなかったので、インドから2人、バングラデシュから1人の計3人の養子をもらい、育てました。彼らは皆、明るく育ち、親子の関係はとてもよく、素晴らしい家庭を築いています。

 

確かに貧困ゆえに本当の親子が引き裂かれるのは悲劇です。しかし、スマトラ沖地震やアフリカの内戦で親を失った子供は、相当の数にのぼります。彼らを育てようという豊かな国の夫婦が現れることは、悪いことではありません。無論、人道的なものには、つねに偽善的悪が潜み、人身売買などの犯罪も存在しますが、それさえ回避できれば、素晴らしいことだと思います。

 

ヨーロッパの白人の中には、アラブ人や黒人を差別する人もいますが、自分の子供として、黒人や東洋人を育てている人もいるというのも事実です。日本も子供のいない豊かな夫婦がアジアの孤児を養子として育てたら、きっとアジアの反日感情も変わってくるかもしれません。

最近の日本の麻生降ろし報道には、何か恐ろしく意図的なものを感じます。たとえば、中川元財務大臣の酩酊辞任劇は、「世界に恥をさらした」と言っていますが、実は欧州では、それほどたいしたこととも思っていません。東京に特派員を置いているメディアは、日本のマスコミに影響されますが、欧米の友人たちは、辞任するほどのことでもなかったと言っています。

 

同じことが、クリントン米国務長官の就任初の外遊先が日本及びアジアであったことや、オバマ米大統領が最初にホワイトハウスに招いたのが麻生首相であったことに対する報道でも言えます。フランスでは麻生・オバマ会談はトップ扱いでしたし、米新政権のアジア重視の姿勢に欧州は注目しています。

 

麻生首相が冷遇されたなどという話は、どうでもいいことで、今は外国首脳と晩餐会に興じている状況でないことは、世界のマスコミの了解事項です。むしろ、アメリカの金融資本主義の信頼性が失われ、欧州がドル支配を突き崩そうと画策する中、アメリカが日本を最大のパートナーと位置づけていることに注意を払うべきと私は思います。

 

マスコミの麻生降ろし、自民党憎しの報道姿勢は、事実をも歪曲し、いつもの自虐性が頭をもたげ、世界は麻生政権を望んでいないかのような報道に走っているのは、マスコミの横暴です。フランスでも、2002年の大統領選で決選投票に極右のルペン党首が勝ち進んだ時に、マスコミあげてルペン叩きをしましたが、民主主義を無視した行動でした。

 

世論誘導といえば、メディアが極端な言論統制に走るのは、共産党一党独裁の国です。最近、イヴ・サンローランの遺品の競売で、中国・清朝時代の頭部像が、1体あたり手数料を含め1570万ユーロ(194700万円)で落札され、中国では英仏連合軍が中国から略奪した物を競売にかけたと報道で非難しています。

 

でも、中国が文化大革命でどれほど多くの歴史的文化遺産を灰にしたかは語られません。それに友人のコレクターの話では、今でも中国の博物館に行って、金額を提示すれば、簡単に展示品を売ってくれるそうです。愛国心高揚のための歪曲された報道が、言論を間違った方向に導くのは、極めて危険で文明を退化させる行為と言えるでしょう。

 

景気刺激策を含め、改革や変革に取り組んでいる国は少なくありません。フランスも一昨年誕生したサルコジ政権が、さまざまな改革を実行に移していますが、仕事が早いことで知られるサルコジ大統領に反し、仕事の嫌いな公務員たちの現場は混乱する一方という皮肉な結果になっています。

 

たとえば、失業手当の支給などを扱うアセディック(ASSEDIC)と求職支援を行うアンペウ(ANPE)が、サルコジ改革で一つになりました。細分化された行政機関は人件費と事務費を増大させ、非効率ということで、行政機関の統合・再編が進められているのです。

 

ところが、自分の仕事以外に、いっさい関心を持たないフランス人公務員は、組織の再編で行政サービスが、どう変わるかに興味がありません。昨年10月に失業した友人は、失業登録するための面談日を決めるため、電話しましたが、いつでもアンサーフォンで、メッセージを残すように言われても、連絡が来ません。

 

つまり、事務所が一つになれば、当然、押し寄せてくる人の数も増えるわけで、さらに失業率が急上昇するご時世では、対応は大変です。ところが自分の仕事以外に関心のない現場職員たちは、限られた非常に短い労働時間の中で、限られた仕事しか絶対にしません。

 

組織の統合で、迷惑を被るのは一般市民ですが、そんなことに公務員たちは関心もありません。これは公務員のみならず、民間企業にも言えることです。ですから、組織を合理化する時は、それで末端のサービスがどうなるのか慎重に考える必要があります。

 

誰も全体のことを先に考えて働こうというメンタリティは希薄で、一般市民が困ろうと自分の仕事をこなすだけです。友人は面接まで1カ月半待たされ、不安な日々を過ごしたそうです。その後も電話連絡はとれず、未だに事務処理で困っているようです。まあ、フランスの公務員の態度の悪さは欧州でも有名ですが。

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◀38億3千万円で落札された「キズイセンと青・ピンクの敷物」アンリ・マティス 1911

 

パリのグラン・パレで開催された故イヴ・サンローラン氏とパートナーのピエール・ベルジェ氏の所蔵美術・工芸品の競売で、落札総額が、個人所蔵品の競売としては史上最高額の37350万ユーロ(460億円)に達しました。その要因になったのは、幾つかの巨匠の作品が出品されたからです。

 

オークション業界も、他の業界同様、世界的景気後退で、とても活気があるとは言えません。たとえば、株の世界的暴落で、投資家たちの投機マネーが、美術市場に流れ込むという話がありますが、その場合は、あくまでも値崩れがしにくく、しかも高額の巨匠の作品に限られます。

 

美術館が巨匠の名作を買いあさり、大きな作品がオークションに登場する比率は低くなりました。美術館に入ってしまえば、美術館がつぶれない限りは競売に出されることはありません。今回、落札総額が史上最高値を記録したのも、700点以上の出品作すべてに高値がついたのではなく、一部に巨匠の名作が含まれていたからです。

 

今回は初日に、マティスの油絵「キズイセンと青・ピンクの敷物」が3200万ユーロ(383千万円)で落札された他、2日目には、19世紀の画家ジェリコーの作品が900万ユーロ(11億円)、同時代のアングルの油絵が200万ユーロ(25000万円)で落札され、いずれも予想外の高値がつきました。

 

ただ、クリスティーズが2500万ユーロ(30億円)という思い切った誘導価格をつけたピカソの「小テーブルの上の楽器」は、そこまでの値がつかず、落札されませんでした。無論、落札総額が37350万ユーロ(460億円)という額には、クリスティーズも満足していることでしょう。

 

話題となったのは、中国遺産保護団体などが出品差し止めを求め、パリ地裁に却下された中国・清朝時代(18世紀)のブロンズ製の12支動物像の頭部像で、結局、1体あたり手数料を含め1570万ユーロ(194700万円)で落札されました。同作品は、約150年前のアヘン戦争当時、英仏連合軍が北京郊外にある清朝の離宮、円明園から奪ったとされ、中国政府が同ブロンズ像の返還を求めていたそうです。

 

中国政府は頭に来ているようですが、共産革命、文化大革命で、相当数の過去の遺産を破壞した独裁政権には、盗品を返せという説得力はないように思います。無論、密かに金持ちの華僑が落札した可能性もありますが。

 

日本の友人にフランスやドイツの大学の授業料が無料だというと、信じてもらえない場合がよくあります。「そんなことはないでしょう」と疑心暗鬼です。でも、本当です。基本的に入学金もありません。フランスでは国立大学にランキングもなく、どこの国立大学の学位も価値は同じです。

 

わざわざ田舎から大都市の大学に行く必要はなく、アパート生活をして親が高額の仕送りをする必要もありません。それに親の収入に応じて、返済不要な給付奨学金が受給できるので、親は子供を大学にやっても、ほとんど経済的負担がありません。

 

つまり、親が失業したからといって、子供が学校を辞めるとか、親の経済力がないために大学に行けないという事態はないわけです。七割がバカロレアに合格する時代なので、登録料約二万円さえ支払えば、誰でも大学に行けますが、ただ、卒業するのは四分の一程度です。

 

教育費が家計を圧迫している日本とは比べ物になりませんが、ただ、無料にはマイナス面もあります。それは、親が教育に関心を示さないケースも増えるからです。本人もモティベーションが低い場合は、高い授業料を払っているわけではないので、勉強に身が入らなければ、中途退学も頻繁に起きます。

 

ただ、大失業時代の到来にあっては、少なくとも教育費の無料は非常に助かることは否定できません。本人にやる気さえあれば、大学卒業は可能です。無論、その後の就職の枠は、最近では狭まるばかりですが。

ベルギーのオスタンドという港町は、カジノのあるリゾート地として知られています。そのカジノのオーナーだったムッシュ・バードンクは弁護士出身でした。彼とは日本やアメリカのリゾート開発で一緒に仕事をしたことがきっかけで、親しくなりました。

 

ある時、彼は大学の同窓会に出た時の話をしてくれました。彼の出た大学はベルギー屈指の大学で卒業生の多くは会社の管理職や弁護士、国会議員などになっています。パーティーでバードンク氏はスピーチを頼まれたそうですが、司会者は紹介の中で、「本日は、われらが大学の卒業生で一人だけ道を間違えた男に話をしてもらいたいと思います」と紹介されたそうです。

 

弁護出身でカジノ・オーナーというのは、確かに変わり種といえるでしょう。本人はアメリカのギャング映画に出てくるような強面の男ではなく、いつもスマートな出で立ちで知性溢れる顔をしています。一度、カジノの中を案内されましたが、結構、日本人を見かけました。

 

バードンク氏と食事をしている時のカジノの裏話は、カジノのない日本では聞けない話ばかりです。たとえば、彼らカジノ業者は、世界を渡り歩く八百長のプロの顔判別ソフトを導入しているそうです。常に膨大なカメラが監視し、怪しい男をカメラとコンピュータで判別するそうです。

 

ただ、手口は非常に巧妙化しており、カメラでは手口を見抜けないようなテクニックもあるそうです。また、日本人の客で、一晩で一億円すった男性がいたそうです。「いい客だったね。それでも帰りの交通費は持っていたみたいだけど」と笑っていました。

 

日本のパチンコ台のメーカーが欧米カジノのスロットルマシーンを席巻していることも、彼から知らされるまで知りませんでした。カジノの経済効果は絶大で、町は大いに潤っています。無論、日本人には体質的には危険で合わないと思いますが、一度バードンクのカジノで日本の中年女性が一人でルーレットをやっていて、五分間で約百万をすっている姿を目の前で見ました。

 

今は、ヨーロッパのカジノも再編成が進み、バードンク氏は一線を退きましたが、日本にカジノが登場する日が来るのでしょうか。欧米では、町おこしの最後の切り札と言われていますが、日本でも水面下でカジノ認可の話が進められているようです。

日本企業や公官庁などから欧州に派遣されてくる人は、今も多くいますが、家族がいる場合は、子供の教育は頭の痛い問題です。日本人学校やインターナショナルスクールは一般的ですが、中には自分の子供を現地の学校に思い切って入れる親もいます。

 

子供は順応力があると一般的に言われていますが、実は子供は大人と異なり、蓄積された経験や固まった価値観が薄いことで、環境に対して柔軟性があるというだけで、環境に対する消化力はありません。これは教育心理の専門家も指摘しているところで、私も自分の子供5人を見ていて痛感するところです。

 

たとえば、フランスの公立の小中学校では、給食時に日本では考えられない光景に遭遇します。特にパリなどの大都市に多いのですが、食堂で働く男性職員が、余ったパンを食べたい生徒に向かって投げたりする光景を見かけます。生徒はそれを楽しそうに受け取っています。

 

また、重たい荷物を背負いながら、食べ物が乗ったプレートを持って席に着くときに、バランスを崩して食器を床に落とし、凄い音がしたりします。その時、なぜか皆が拍手したりします。また、授業中に先生に当てられた生徒が、ちょっとおかしな間違いをすると、周りの生徒だけでなく、先生も笑います。

 

こんなことの連続を日本から来た子供たちが経験すると、大きな戸惑いを感じ、どうにも理解ができません。それが2,3年経つと、自分も誰かが食器を落とせば拍手し、誰から間違えば先生と一緒に笑うようになるわけですが、そこから大人になるまで、そこで過ごせば別ですが、日本に帰国すると、今度はもっと混乱が生じることになります。

 

中には数年後に鬱病になったり、不登校になったりするケースもあります。子供はとても繊細です。その意味で、本当に慎重な対応が必要です。単に英語やフランス語が喋れるようになるとか、国際性が身についていいなどとは言えない消化不良で、心に傷を負うリスクもあるということです。

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◀英国向けに制作された高速鉄道向けの車両

 

「日立コンソーシアムが、英国での列車製造優先交渉権を獲得」というニュースが流れ、英国の鉄道網を走る老朽化した列車がリニューアルされるニュースが流された。これは利用者としては非常に歓迎すべきことで、民営化(といっても戦後、私鉄が国有化されていただけですが)以来、混乱が続いてきた鉄道の運営管理にも注目が集まっています。

 

老朽化した車両の凄さは、東欧なみ(失礼かもしれませんが)で、ロンドンから南東ケント州に向かう鉄道に初めて乗った時、本当に焦ってしまいました。無論、ドアはフランス同様手動でしか開かないのですが、その取っ手が外にはあるのにドアの内側には見当たらないのです。

 

それもドアは、向かい合わせに座る客席の間にあるので、出入りの時に座っている客の足を危うく踏みそうになるほどです。さて、自分が降りる時に、どうやってドアを開けたものかと不安になっていると、降りる客の驚くべき行動に目を見張りました。

 

その客はやおらドアの窓を開け、腕を窓の外に回してドアのノブをつかみ開けたのでした。幸い自分の降りる駅では何人かの乗客が降りたので、その一人がドアを慣れた手つきで開けてくれたので助かりましたが、誰もいなければ自分でやるしかありませんでした。

 

数年前、ユーロトンネルの英国側の出入り口のフォルクストーンに取材で行ったことがありましたが、港に引き込まれた鉄道線路は完全に錆びつき、雑草が生え、あたかも廃止になった線路のようでした。鉄道の元祖、産業革命の元祖の英国は、どこに行っても時間が止まったようでした。

 

日立製作所と英投資会社、英大手ゼネコンのコンソーシアムは、正式受注すれば、約12500人の雇用を英国に生み出すそうで、この不況にあって希望的な話と言えます。車両の入れ替えは、4年後から始まるそうですが、あとは複雑化した私鉄の運営管理を利用者の立場に立って利便性を高めてほしいものです。

 

景気刺激策の議会での可決に苦戦する米国のオバマ大統領は、迅速に景気対策を実施しなければ、「日本の失われた十年」のようになると言いました。日本を反面教師とすべしということです。この発言はさぞかし日本の識者たちを困惑させたことでしょう。

 

なぜなら、多くの日本の識者が、世界が金融危機に陥って以来、事あるごとに「日本はバブル崩壊以降、不良債権処理を行い、乗り切ってきた経験があるので、アドバイスできることは多い」と言ってきたからです。昨年11月にワシントンで行われたG20金融サミットでも、日本の経験が有効と日本の識者は言っていましたが、相手にされませんでした。

 

欧州では今、経済危機の救済に追われていますが、その一方で、この機に米国一極支配・ドル支配を終わらせ、国連やIMFを舞台に経済危機対策を行う方向で動いています。つまり、通貨の多極化を推進し、新ブレトンウッズ体制の構築をめざしています。

 

無論、それが正しい方向かどうかは分かりません。というのも覇権を画策するロシアや中国が台頭することは、けっして世界に幸福をもたらすとは思えないからです。とはいえ、米国に完全依存する日本も、「米国にアドバイスすることはたくさんある」などと呑気なことは言っている暇はありません。

 

本当に今後の世界は、どんな方向に行くのか、まったく見えません。オバマ発言は、「もしかしたら経済政策音痴を表したものかしれない。」とフランスの友人の経済学者は言っていました。本当に前が見えない恐ろしい世界になったものです。