安部雅延のグローバルワークス Masanobu Abe Global Works

国際ジャーナリスト、グローバル人材育成のプロが体験を踏まえ現在の世界を読み解きグローバルに働く人、これから働く人に必要な知識とスキルを提供。

フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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 昔、テレビを見すぎると主体性がなくなると言われた時期がありました。テレビは完全な一方通行なので人間は強力な支配を受けると受け身が染みついてしまうと言われています。テレビでアニメを見るのも同じですが、それに比べればゲームやスマホは参加型なので多少異なるという研究もあります。

 スマホの長時間使用のデメリットは一般的に視力の問題を引き起こす、就寝前のスマホ使用で睡眠障害が起きる、姿勢が悪くなり慢性的な首や肩の問題が起きる、直接、対面で接する機会が減ることで社交性が低下する、集中力や注意力の低下、放射線の影響による健康リスクなどが指摘されています。

 しかし、もっと人間の内部で深刻な影響も指摘されています。それはスマホ依存症による内省の時間の激減です。スマホと向き合う時間の急増と反比例し、自分と向き合う時間が激減し、主体性だけでなく、生きるモチベーションも減退するデメリットも心配されています。

 例えば、今流行のアート思考では、何より重要なことは自分自身の内面を深め、誰とも違うユニークなアイディアや新しい価値を生むことです。絵を描く人、音楽を作曲する人が創作活動のヒントとしてスマホを使用することはありますが、過剰に使用すると人のコピーになってしまいます。

 無論、既に存在するものの構成を変えたり、変更したりすることで、ユニークなアイディアを産むことはありますが、他のアイディアに支配されては元も子もありません。

 スマホは簡単に回答を得るツールとして利用され、特にAIによって検索回答の制度は高まっています。しかし、そこから優れた回答を導き出すことは困難です。

 たとえばAIの登場で学問の世界も大きく変わろうとしています。だからといってノーベル賞級の発見が次々に生まれるとは限りません。最終的に情報を選ぶ主体は人間であり、その人間に考え抜く力、判断を支える見識、本能的直観力等がなければ、新たな価値を見出すことはできません。

 特に注意すべきは理系思考です。理系思考は安易に回答を求める傾向があります。いわゆる合理的思考は結論を急ぐ傾向が強く、例えば企業研修でもエンジニアは役に立つ理論などが重宝されます。

 しかし、数理的思考には現実の複雑性への対処ができにくいため、例えば有能な頭脳が集まる外交官が戦争などの複雑な問題を解決できていない現実もあります。

 そもそも数理的思考には仮定を立てることが多く、その仮定が崩れる現実に遭遇したりします。新たなプロジェクトで立てたコンセプトが現実の変化で崩れてしまうこともあります。モデルの予測や結論が正確さを失うリスクがあり、しばしば調整が必要です。

 今、注目されるアート思考は、非形式的な領域の問題に対して形式的な論理や数学的手法に基づかない思考方法が求められているからです。

 IT系の企業に集める優秀人材は、例えば金融でも新たなビジネス開発でもホワイトボードの全面に数式を並べるミーティングを繰り返していますが、人文科学や芸術などの非形式的な領域は見落とされがちです。

 さらに数理的手法はデータに基づいているので、データの質や解釈の違いが結果に影響を与えます。結果的に解釈する人間の能力が問われます。一見、数学的に正しい結論が現実には不適切な場合が少なからずあり、アプローチの再検討が急がれますが、理系脳を変えるのは容易なことではありません。

 近年、イノベーションの重要性は増すばかりですが、実はそこで欠かせないのは内省です。自らの行動や経験から、改善点を見つけるのに内省は役立つからです。個人も組織も内省がなければ、改善はできません。自民党が自浄作用がないのは組織としての内省が機能していないからです。

 内省は自己や組織が自らを深く理解し、精神的な成長や洞察を得るための重要なプロセスです。典型的な悪い例は、何か深刻な問題が起きた時、内省せずに逃げたり、自己正当化したりして、根本的解決に向かわないことです。

 自分の成長には内省による洞察は不可欠です。それをスマホに回答を求めるのは、参考にする程度ならいいにしても、スマホに正解があると考えるのは大きな間違いです。内省のためには静寂の時間が必要であり。瞑想やマインドフルネスも有効です。

 日記やブログを書くこと、さらに重要なことは自分に対して深い質問を投げかけることで、内省が促進されます。アート思考もそうですが、質問を自分に向けることは重要です。さらに他の人からのフィードバックも新たな気づきにより大いに役立ちます。

 内省はストレス軽減にもなり、自信を持つやアイデンティティの確立にもつながるでしょう。


 

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 日本人が海外に駐在し、経済活動を行う上で、理解すべきことの一つが宗教です。最も大きな理由は信仰的慣習が経済活動に制約を与えるからです。特に1神教の国では日常生活そのものの隅々まで宗教ルールが適応される場合が多いので、宗教への無知がビジネスダメージに繋がる場合もあります。

 社会主義の国では、政府の決めるルールが全てなので、中国などは中国共産党が決めるルールを常にウォッチする必要がありますが、宗教の場合は単なる外的ルールだけではありません。ものの考え方そのものに重きを置いているので、それを無視すると社会的制裁に合うケースもあります。

 昔、日本商工会議所シカゴ事務所で「クリスマスになると様々な団体が寄付を募るためにやってきて困る」という話を聞いたことがあります。在シカゴ日系企業の取りまとめを行う彼ら目掛けて慈善団体が殺到するわけです。過去に断ったことが地元紙で批判されたこともあり、努力していると言っていました。

 アメリカは人道支援の寄付行為が定着しており、富裕層は寄付が当たり前になっています。背景にはキリスト教精神があるわけですが、自由な経済活動で得た利益の1部を社会に還元するのは理屈にかなっているというわけです。これは帝国主義を否定したアダム・スミスの国富論にも繋がるものです。

 一方、イスラム教では、彼らの法体系であるシャリア法の中に、金融取引で利子を取ることが禁止さえているために、イスラム系金融機関はそのルールに従っています。キリスト教でもイスラム教などの根拠にもなっている利息を取ることを禁止するルールが過去に存在しました。

 有名なのはシャークスピアの「ベニスの商人」で、当時はキリスト教徒は金の貸し借りや利息は禁じられていたので、金に困ったキリスト教徒は、それが禁じられていなかったユダヤ人の商人に金を借り、返済でもめた話が書かれています。

 旧約聖書の申命記23章19節から20節に「あなたが手を貸すとき、ひとりの兄弟に金を貸してはならない。利息をとってはならない。食物を貸すときも、利息をとってはならない」と公正さと道義を説いています。そのため今と違って商人の中でも金融業は蔑まれていました。

 新約聖書でも、借金返済で人々を苦しめる金貸しや取税人は無償の愛を説くイエス・キリストから批判されています。アメリカではビルゲイツやトム・クルーズが慈善活動に熱心なことで有名です。バブルの時代の1980年代後半、円高の威力でニューヨークの不動産を買いあさった日系企業が、どんな慈善活動をするのは注目されました。

 植民地から奴隷と資源を調達して豊かさを享受した欧米諸国は、そこにキリスト教の普遍性が大きく欠けていました。植民地を持たずに経済発展するアダム・スミスの理論は大きな影響を与え、アメリカが植民地主義を取らないスタンスへ導いた過去があります。

 1980年代から90年代に欧米の研究者の間で流行った日本論では、経済活動に宗教制限がないことが指摘されています。それだけなら蔑視の対象でしたが、日本には特定の宗教には寄らない高い社会道徳が存在することで評価を受けました。

 それは明文化されておらず、一定の宗教の教義ともいえないことで日本を分かりにくくしていると欧米の研究者を困惑させました。

 今、ヨーロッパでは禁止してきた日曜営業を許可する動きが加速しています。すっかり定着した日曜営業の禁止は、本来、キリスト教で神が6日間の創造を終え、7日目に休まれたという旧約聖書に従ったものです。利点はキリスト教徒にとって週に1回、ドロドロした世俗生活を離れ、礼拝と家族で1日を過ごす精神的なるフレッシュを与えました。

 今では礼拝に行く人はフランス人の1割しかいませんが、すべての人が休むことで家族や友人が集まることができるメリットは残っています。しかし、経済活動の禁止が経済に与える影響は大きいので、取りやめる国が増えているわけです。

 この数年注目を集めてきたESG(環境、社会、ガバナンス)投資は、世界持続的投資連合(GSIA)によれば、2022年の世界のESG投資額が20年比14%減の30.3兆ドル(約4500兆円)だったとし、 減少は12年の調査開始以降初めてとなりました。

 様々な理由が考えられますが、コロナ禍やウクライナ紛争、イスラエル戦争など市場の変動や経済的な不確実性もあるでしょう。また、企業が公表するデータの信頼性が低いためリスク回避に動いていることも挙げられます。それに企業が本腰でESGに取り組んでいるか疑わしい面もあります。これはSDGsも同じです。

 そして最も大きいのは、投資は基本的に経済的優位性で行われており、慈善活動とは別物で良いことをすれば儲かるわけでもないわけです。基本金融機関は慈善団体には融資しないのが原則です。

 とはいえ、金に走りすぎた世界を変えていくには、宗教が経済活動を制約したように、より包摂的で公正な経済システムの構築が急がれています。今、アフリカや東南アジアの途上国は、後発メリットで国家の経済を発展させる理論に興味を持っています。

 アダム・スミス以降のリカード、ケインズ、フリードマンなどの気鋭の経済学者の理論がどんな方向に行くのか興味深いところです。それはキリスト教文明の進化でもあり、21世紀を大きく変えるものとなるでしょう。



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 今年は選挙の都市で直近では3月にロシアの大統領選が実施され、年末にはアメリカ大統領選が行われます。ロシアの選挙は強権のプーチン政権を打破できるまでの大物が立候補者がおらず、あるいは立候補が阻止されており、プーチン再選の流れですが、今年のハイライトはアメリカの大統領選でしょう。

 トランプ前政権とは対照的に、バイデン政権下ではウクライナとイスラエルで大規模な戦争が起き、どちらも長期化しています。トランプ氏の自慢は、在任中にアメリカが地域紛争で大規模の戦争にかかわったことのない稀有な政権だったことです。

 プーチン政権は「アメリカ第1主義」を掲げたため、保護主義、超内向き、ナショナリズム、ポピュリズムと批判されましたが、アメリカを間接的にでも攻撃した国はありませんでした。理由は国益最優先を掲げる国に被害を与えれば、報復的行動をアメリカが取ることは明白だからです。

 それは覇権主義の専制主義国家である中国、ロシア、イランなども同じことで、国益最優先で強さを前面に出す国こそ、強い抑止力を持つからです。バイデン氏のようにロシアのウクライナ侵攻直前に「ウクライナはNATOではないのでアメリカは地上軍は送らない」などと愚かな発言を行ったことが、プーチン氏にゴーサインを出す結果になりました。

 ならず者国家が多い世界で、西側諸国は舌戦ですでに負けています。無論、私個人も中国、ロシア、イラン、北朝鮮の超内向き志向には嫌悪を感じますが、これは地球規模の目的と国益追及のバランスの問題であり、国益を軽視した自由貿易であるグローバリゼーションも挫折しました。

 経済は完全にグローバル化しており、国益追及にも世界の安全、安定は不可欠です。今、紅海で起きていることは、エネルギーや物資の安定的供給に深刻な悪影響を及ぼし、各国の経済にダメージを与えています。その意味では世界各地で起きる紛争に無視、無関心は許されません。

 一般的に専制国家は内向きと言われますが、内向きにも様々なタイプがあります。最も悪質なのは自分さえよければいいという自己中心のタイプです。耳障りのいいグローバル化を表向き歌い、途上国支援で大盤振る舞いを見せながら、最終的には債務の罠にかけるのが目的というケースがそれです。

 グローバル化を口にしながら、製造工場を自国内に呼び込む一方、アメリカに積極投資しているように見せかけて、技術を盗み、主権侵害を繰り返すような態度は、内向きの悪い例です。多分、その国民にとっては何も良心の呵責は感じないのでしょう。

 ではいい意味での内向きとは何かと言えば、基本的に自国経済の発展のために世界の安定は不可欠と考え、国益追及と世界全体の利益追求のバランスを取ることです。誰もが平等にビジネスにアクセスでき、公正なルールを守り、自国だけでなく全体の繁栄を追求する姿勢です。

 なぜ、歴史的にアメリカが民主党政権になると外交に失敗する例が多いかと言えば、彼らの本質が自分から世界に向かっているのではなく、世界から自分に向かうまさに権威主義国家と同じ方向を持っているからです。アメリカで民主党支持者と話すと彼らが海外のことにいかに無知かが分かります。

 パリで発行されているインターナショナルナル・ニューヨークタイムズ(旧名インターナショナル・ヘラルド・トリビューン)の知人だった有名なコラムニストの故ファフ氏は私に「アメリカ人の多くは国外のことに関心はないんだ」と嘆いていました。

 中でも民主党は無関心なだけでなく、自己中心的な傾向が強いため、世界の動向に多大な影響を与えるアメリカで民主党が政権を取ると世界は混乱度を増すのが常です。

 このまま、例えばアメリカの雇用情勢が改善せず、経済が不調に陥れば、共和党有利になるのは目に見えており、それはトランプ氏には追い風です。トランプ氏への懸念材料は山のようにある一方、専制国家の指導者は襟を正すのは確実です。アメリカを怒らせれば即座に反応することを知っているからです。

 

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 国際通貨基金(IMF)は1月30日、2024年のロシアの経済成長率を大幅に上方修正しました。プーチン政権による軍事支出が経済成長につながっているとの分析です。これは西側諸国が化石燃料の輸入禁止など、経済制裁を科した効果が上がっていないことを意味し、重苦しいニュースとなりました。

 IMFによれば、24年のロシアの国内総生産(GDP)伸び率の見通しは2.6%と、23年10月の前回予測から2倍以上に引き上げられた。ただ、23年の成長見通しの3%をやや下回る水準です。「インフレ率の鈍化と安定的な成長 ソフトランディングへの道開ける」とIMFの今回の経済見通しは、今年3月に大統領選を控えるプーチン氏にとっては追い風でしょう。

 制裁が効いていない原因は、例えばグローバルサウスの国々が制裁に加わっていないこと、中でもインドはロシア産石油を安くで輸入し、自国で精製してインド産として欧州などに流していることも挙げられています。ロシア経済の国内需要としては軍事産業への国の投資が上昇したことが経済を押し上げています。

 戦争=経済疲弊とは限りません。軍需産業の発展はもとより、雇用が創出され、戦場では高額の給料を受け取る兵士が消費力を高め、労働市場全体も活性化し、所得の上昇、一定の経済的な安定が生まれます。技術の進歩がもたらされ、新しい産業も生まれ、国際競争力も高まります。戦車などの移動で道路インフラが整備され、空港インフラも整備されます。

 今回は制裁によって、新たな市場開拓にも繋がっており、得意の化石燃料は思わぬグローバル展開の道を開けました。同時に安価でエネルギー供給は受けた国々に恩を売ることもできたと言えます。

 欧州連合(EU)では、ロシア制裁に反対し、ロシア寄りの外交を展開するハンガリーのオルバン首相の動向に注目が集まっています。仏マクロン大統領が表明した「アメリカがウクライナ支援を中断してもEUは続ける」というスタンスで、オルバン氏は障害になるからです。

 オルバン首相に対して4年間で500億ユーロ(約8兆円)に上るウクライナ支援の予算案を認めさせるかが焦点ですが、EUはオルバン氏が予算案に反対すればハンガリーの資金停止や拒否権の剥奪を検討する可能性があるとオルバン氏に譲歩を迫っていますが、EUは同氏に譲歩する可能性もあります。

 決められた原則はまじめに死守するドイツ人のフォンデアライエン欧州委員会委員長と、政治の駆け引きで自国の利益を追求するオルバン氏は対照的ですが、そもそも大国に囲まれ、交渉術で生き延びてきた中欧諸国(チェコやオーストリア、スロバキア)にはポピュリズが台頭しています。

 時代は原則外交ではなく交渉外交に大きくシフトしており、交渉力を持つトランプ前大統領の再登板を待望する声も、そのあたりから出てきていると言えます。

 話は元に戻りますが、ロシア制裁が効いていない現実は深刻です。G7に象徴される西側大国に新興国や途上国は従うという時代錯誤があったことは確かです。経済力で世界は動かないという教訓を学ぶべきかもしれません。



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 昨年10月、パレスチナのテロ組織ハマスがイスラエルに史上最大規模の攻撃を行って以来、イスラエル軍の報復攻撃(イスラエル側はハマスせん滅作戦と主張)は止まるところを知りません。すでにハマスの攻撃で亡くなったガザ住民はイスラエル側犠牲者の10倍以上に達しています。

 この戦争の結果、石油や物資の重要な輸送ルートとされる紅海でイエメンのフーシ派による大型タンカーの度重なる攻撃でアフリカ南端経由に輸送ルートが切り替えられ、輸送費高騰でヨーロッパ経済は直撃されています。

 ただでさえウクライナ紛争で支援負担を強いられるアメリカは、今度はイスラエル支援が加わり、今後、中国が仮に台湾への軍事侵攻を決行した場合、あるいは北朝鮮が韓国へのミサイル攻撃を行った場合、西側先進国の戦争への負担は確実に増大することが予想されます。

 四国くらいの大きさしかない国が国際社会に与える影響は、実は1948年の建国以来、常にありました。米9・11同時多発テロも主導したビンラディン(死亡)は、テロ決行に「グラナダの悲劇を繰り返すな」と言いました。パレスチナのテロ組織が使う文言で、イベリア半島を追い出された最後のイスラム勢力の砦がグラナダでした。

 イスラム聖戦主義過激派にとって、パレスチナ紛争は彼らの原点であり、イスラエル軍およびユダヤ人は彼らの最大の敵です。対立する両陣営は人心掌握に最も有効な宗教と民族主義を利用し、激しい対立を続けてきました。しかし、裏ではイスラエル及びアメリカがハマスを支援した過去もあります。

 理由はパレスチナ側を分裂させ、弱体化するためでした。イスラエル建国を実現したユダヤ勢力は、戦後一貫してメディアや司法に有能な人材を送り込み、国際世論から反ユダヤ主義を排除するため、多大な努力を続けてきました。

 日本では縁遠いようですが、1990年代、ホロコーストはなかったとする記事を掲載した雑誌「マルコポーロ」が国際ユダヤ組織の圧力で廃刊に追い込まれました。言論の封殺はアメリカ民主党だけでなく、ロシア、中国、ユダヤ勢力、イスラム勢力、さらには極左グループで横行しています。

 この問題を読み解くためには政治と宗教、経済利権、さらには土地を巡る主権問題を含め、単純ではない対立を見ていく必要があります。このまま、もし、イランが中東紛争に参戦すれば、世界戦争は避けられないでしょう。その意味でイスラエルは意までも世界の火薬庫と言えます。

 現状把握が困難で出口も見えない中東情勢ですが、宗教や民族主義が対立を激化させてきたというよりは、政治と経済に利用されてきたという視点が重要でしょう。ハマスにイスラエルが支援した過去にはパレスチナの分断があり、パレスチナ自治区への入植活動には宗教と経済が入り込んでいます。

 分かりにくくしているのは、宗教的大義としては、旧約聖書にある「乳と蜜の出る神が準備した地」を奪い合いっているわけですが、パレスチナには冷戦時代に共産主義イデオロギーも入り込みました。そのため政治や経済利権が大きく影響しています。つまり主権を奪い合う対立が肥大化し、共存を妨げているわけです。  

 今、イスラエルは戦後最大の危機に瀕しています。それはネタニアフ政権が続けるガザ攻撃が国際世論を完全に2分しているからです。ハマスせん滅のためにガザの一般市民が犠牲になるネタニヤフ政権容認する勢力と、たとえユダヤ人を擁護してもガザ攻撃を人道上許されない行為と批判する勢力の対立は深まるばかりです。

 多くのイスラエル市民は人質解放に注目していますが、ネタニヤフ氏はハマスせん滅まで攻撃を続ける覚悟です。自分で支援し育てたハマスが牙をむけば、完全せん滅まで戦うイスラエル側の正義にも矛盾が残ります。ネタニヤフ政権を支えるユダヤ教超正統派はガザを入植地としてイスラエルが統治する主張を始めています。

 この問題を和平に導ける物が1世紀の世界のピースメーカーになるのは確実と思われますが、日本は自民党内の腐敗の露呈で、役に立ちそうにないのは残念というしかありません。
 

 

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 日本は年始早々、能登半島地震と自民党派閥の腐敗の露呈に見舞われ、日本周辺では台湾への中国の武力侵攻のリスクが高まり、朝鮮半島は北朝鮮が韓国への敵意をむき出しにしています。世界はウクライナ紛争及び中東戦争の長期化の難題を抱え、過去にない不確実な状況に陥っています。

 さらに企業は不祥事が露呈し、日本では馴れ合いの人間関係が不正を野放しにし、確実な成長をもたらす次の一手が見えない企業は経営危機に陥っています。コロナ禍で「危機をチャンスに変える」レジリエンス力が盛んに叫ばれましたが、その基本は危機の本質を見極めることです。

 今から半世紀前、左翼運動が世界を席巻した時代に問題視されたのは、既存の価値観や慣習破壊はするけれども創造はしないことへの批判でした。日本赤軍の残党のあさま山荘に立てこもり事件は、残党の仲間同士、特に兄弟、兄妹が殺し合う実態に接し、限度を超えた行動を産んだ左翼思想への嫌悪感が左翼運動離れを起こしました。

 その反省から創造のない破壊は意味がないという意識に多少変換し、反体制、反権力はいい意味を持たなくなり、同時に理想実現の挫折から、人々は自分の身を守る経済だけに目を向けるようになり、拝金主義は今日まで続いています。

 政治と金の問題も日本人が基本、金を中心に動く価値観から抜け出せないからです。私は知りませんでしたが、フランス人妻の話では、1970年代、フランスでは日本人を「お金が歩いている」と軽蔑したそうです。

 今、世界で噴出するあらゆる問題に対して、出口は見えない状況です。世界の指導者は誰も問題を解決できず、その原因の一つは極端な共感力の欠如です。平和ボケした先進国は問題解決の基本中の基本である現状を正確に把握することすらできていません。

 ダイバーシティが声高に叫ばれていますが、何でもありのダイバーシティでは問題解決は不可能なことは、多文化共存主義を追求するヨーロッパがボスニア・ヘルツェゴビナ紛争やウクライナ紛争を解決できなかったことに現れています。

 唯一共有する自由と民主主義、法による支配に問題解決能力はないようです。国際司法裁判所が人権を無視した大量虐殺を繰り返すイスラエルに対して、停戦命令を出してもイスラエルは無視しています。ロシアのプーチン大統領に対してウクライナにおける軍事作戦の即時停止と、その指揮・支援する部隊・組織が軍事作戦をこれ以上行わないことを指示しても効果はありません。

 効果があると思われるのは、今年の大統領選に立候補しているトランプ前大統領が、世界戦争の危機を訴えていることで、彼が大統領になれば、米国を攻撃する者は許さないという姿勢を打ち出していることです。ウクライナへのロシア侵攻を控え、絶対に地上軍は送らないと言ったバイデン現米大統領とは対照的です。

 世界最強の軍事力と資金力を持つアメリカが本腰を入れて介入することは、ロシアも中国もイランも北朝鮮も望んでいません。その意味でトランプ発言は権威主義の国にとって脅威になるでしょう。口ばっかりのヨーロッパ先進国が何を言っても説得力はありませんし、恐れられてもいません。

 ウクライナ紛争以降、何度か訪れたドイツで私は隣で戦争しているのに個人の豊かな生活を求めてデモを繰り返すドイツ人を見て、平和ボケが極まっていると実感します。彼らが問題解決の先頭に立つことはないでしょう。

 基本的に世界で何が起きているのか正確に把握できている人はいないように見えます。現状把握は問題解決の必須条件ですが、危機に対する感性は極度に落ち、現状把握に必要な観察力や好奇心さえ薄れているように見えます。ましてや全体像を把握する能力もないようです。

 経済活動というものは基本、受け身です。その受け身の経済に本来主体的であるべき政治がおんぶにだっこ状態なのが東西冷戦後の先進国です。物事を主体的に動かす主体は、せいぜいGAFAMくらいですが、彼らは世界を動かしていると錯覚しているだけで、世界を変える存在でないことは問題解決に無力なことで分かります。

 破壊された後には再生があり、その再生は元に戻すことではないはずです。地震や津波による破壊を受け、同じ被害が生じる町づくりをするのは愚かです。破壊からの再生は、一気に改善するチャンスです。すべては新たなヴィジョンが再生の鍵を握っています。

 自民党の派閥解消問題でお金の問題から目をそらせようという政治家も多い中、専門家なメディアから誰も「政界再編」議論が出ないのも残念です。今の時代に合わない政党なら、さっさと政界再編すべきでしょう。そもそも自由党と民主党が結合した自民党は本当は政策重視の政党の体をなしていませんでした。

 政党自身は時代に合わせて解体したり、新しい党を作ることも必要でしょう。そんな議論が出てこないところで政治改革を論じても何も変わるはずはないと思われます。ここでも日本が置かれている現状を正確に把握できていないという欠陥が見えてきます。

 共感力と好奇心があってこそ、正確に現状把握ができ、新たなヴィジョンを構築でき、最終的にレジリエンスをもたらすことに繋がると考えるべきでしょう。


  

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 フランス西部ブルターニュ半島ヴァンヌ郊外に住む85歳を超えたレイモンさんは、飼い猫が見守る中、畑仕事に余念がない。約400坪ある土地で花、野菜、果物を作って40年が経つが、農家になったことはない。作りすぎた野菜や果物は近所に配り、時にはスーパーに卸したりもしている。

 そんな姿を見るレイモンさんも娘婿は「彼を見ると羨ましい。自分が大好きな庭いじりをしながら8人の子供たちが孫を連れて遊びにやって来ると、畑で一緒に遊んでいる。「自分もあんな老後が過ごせたらと、ここに来るといつも思うが、無理な気がする」と彼は言う。

 彼は実は、フランスでは名門のエンジニア系グランゼコール(エリート養成専門大学院)を出て、ハイテク企業営業部長をしている。高級車に乗り、南仏など数か所に別荘を持ち、ヴァンヌにはヨットも所有している。義父のレイモンさんは対照的で中学しか出ておらず、16歳から工場で働いた。

 そんな義父の老後に、スーパーエリートが憧れる構図は興味深い。労働者階級出身のレイモンさんは地味で無口、大した昇進もないままに低賃金のまま退職し、すでに25年が経つ。8人の子供を育て、今は妻と一匹の猫と、趣味の畑仕事で暮らしている。

 レイモンは狩猟や釣りの趣味もあり、隣町に住む弟と出かけることも多い。取ってきた鳥やウサギ、魚は基本、自分でさばいて食べている。家父長制度が残る保守的なブルターニュでは、男は現金を稼ぐために会社で働く一方、古代から続く狩猟や釣り、畑を耕すことも怠らず生きてきた。

 ブルターニュらしく、夫婦ともに町の中心にある教会には欠かさず通い、まるで中世の時代から続くフランスの伝統的生活を垣間見るようだ。フランスでも多くの家庭が親子兄弟の関係が希薄になる中、義父を羨ましがる娘婿も、実家に帰るのは1年に1回あればいい方だ。

 レイモンさんは信仰熱心で質素倹約しながら生きてきたので、金への執着は全くと言っていいほどない。日が昇ると起き出して、コーヒーとパンを食べたらさっそく畑に出る。10時の休憩でビスケットを食べ、昼はしっかり肉を食べる。夕食は自分で育てた野菜のスープだけの時もあり、完全に日が沈む8時頃には就寝する。

 自宅は数十キロ先まで見渡せる高台にあって、ブルターニュ特有の変化の激しい天気で、小雨がやむと雲の間から太陽が大地を照らす。フランスの美しい丘陵地の変化を家の窓から眺めていると飽きることはない。時間はあまりにもゆっくり流れ、大地に身をゆだねるという言葉がふさわしい。

 レイモンはボランティアにも余念がない。カトリック教会の神父が所有する畑の管理をし、遠い巡礼地での障害を持つ巡礼者の世話は40年以上続けた。自分の好きな畑仕事も隣人の役に立っている。ミレーの名画「落ち穂拾い」のように日没に感謝の祈りを捧げる農夫の夫婦の姿を彷彿とさせる生活。

 フランスでもとっくに忘れられたような生活を送り、金で幸福を買うことのなかったレイモン夫婦は、人生の本当の意味での勝ち組かもしれない。



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 日本の自民党の派閥解消の動きは、過去の日本政治を根幹から変える契機になるかが問われていると言えそうです。政治家が収支報告書への記載のいらない金を必要としていた現実は、日本人がいかに金に左右される人間かを物語ったものと言えます。

 「その国の国民以上のレベルの政治家は生まれない」という有名な言葉があるように、政治家は選挙で有権者によって選ばれ、多数派を占める有権者の要求が反映されるわけですから、政治家はいわば国民の鏡です。金にまみれた政治家を見れば、有権者自身を見ているようなものと言えるでしょう。

 その意味で政治家を批判するのは偽善と言えるかもしれませんし、民主主義がお金と圧力団体で動いているのも、政治家を通して金儲けを有利に進めたい人々が多数を占めているからとも言えます。個人や団体が議員個人に献金ができた時代から、様々な規制が敷かれましたが、法の網を潜り抜けたのは政治家のせいだけではないでしょう。

 政治家に金を渡して利益を得たい個人や企業がいるからこそ、政治家は金を受け取り、政治家経由の接待を望んだから、金をばらまくことで選挙で勝つ慣習は簡単には変えられないでしょう。日本においての政治家の政治力とは権力と金によって物事を動かすことを意味し、そう思い込んでいたのは政治家だけではないでしょう。

 一方、人間にはいろいろな属性があり、われわれは独立した市民であると同時にサラリーマンだったら企業に帰属し、様々な団体だったら、その団体に帰属する部分もあります。選挙で圧倒的なのは、帰属先の組織票というのも、日本人が組織への帰属意識が世界的にも非常に強いからに他なりません。

 組織への帰属の前に、独立した個人、市民という感覚が希薄な民主主義には適さない風土を持つ国です。会社や組合が指示する候補者に投票するとか、とにかく徒党を組むことが好きな村社会の日本では政党や派閥は絶対不可欠です。

 アメリカでは民主党支持が多いハイテク産業でも、会社の左寄りを批判する保守的な社員もいます。組織から圧力が加わったり、人事に影響があれば、すぐに社会問題になります。

 日本以外の先進国では、個人の選択の自由は民主主義のコアな価値観と信じられており、民主主義の基本と見られています。組織や集団が選挙に圧倒的影響を及ぼす部分は卒業しており、だからこそ欧米では中間層が選挙を左右する現象が起きているわけです。

 寄らば大樹の陰、長いものに巻かれろ、出る杭は打たれろが当たり前だった日本は、団結が必要な農村社会であり、対立よりも和を尊ぶために結果として派閥も機能してきたと言えるでしょう。しかし、その組織には正義や自浄作用は働かず、正義感で政治家になっても、数カ月から数年で政治的信念は消え、権力と金に溺れる政治家が大半という事でした。

 結果的に金と権力は車の両輪として、日本政治を大きく左右してきたため、その集団を旨くさばくのが政治と勘違いする政治家が大物政治家と言われ、そこから抜け出せないくなったのが、結果的に日本の衰退に繋がったと私は見ています。

 この結果は政治家が招いたというより、日本人全体の生きる上での価値観が招いたもので、そのリセットなしに日本の再起はありえないと考えます。

 ウクライナやガザの瓦礫の中で苦しむ人々へのインタビューで「今、何が必要か」との質問に「お金や物」と答える人はいません。彼の答えは「平和」だけです。お金も物も本質的な問題解決ではないからです。その本質を日本人は忘れてしまったようです。

 日本人である以上、自民党だけの問題とは思えません。野党からも国民が納得する主張を正々堂々と行う議員は稀で、常に党を気にしながら発言するため、個人の主張に関心が集まることはありません。

 組織や集団から切り離された一人の人間として、自分の考え方や意見を持ち、同時に社会に貢献する生き方に切り替えられれば、日本は先進国になれるかもしれません。大きな岐路に立っていることだけは確かと言えそうです。




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 能登半島地震の被災地域は日本でも有数の高齢化と過疎化が進む地域です。被災者の多くは「元の生活に戻りたい」と訴えています。さらに避難所への移動に対しても消極的で「知らない土地に行くのは不安、慣れた場所を離れたくない」という人が圧倒的に多いようです。

 長く生きれば、チャレンジ精神は失われ、新しいものへの適応力は落ちていき、同じことの繰り返しの日常に安堵感を得るの人間です。個人的には被災地で認知症の人が増えないか心配しています。急激に変化した環境に適応するのは若者でも大変です。海外行きたがらない症候群も同じ現象です。

 日本は世界一安全で公共サービスが行き届き、全国どこでもコンビニがあり、清潔さも世界一です。当然、安堵感、満足感も高い一方、治安が悪く、不確実性の高い環境への適応能力は落ちてしまい、異文化適応耐性は持てなくなります。それが悪いこととは簡単には言えません。

 この状況の対極にある先進国がアメリカです。このブログにも書きましたが、アメリカに長く澄んだ芸術家の故荒川修作は、私に「長年、アメリカ人の妻と両親が住み慣れた家から1,000キロ離れた東海岸に引っ越す時、乗り込んだ車が走り出した際、自分以外は誰も住んだ家を振り返らなかった」という話をしてくれました。

 その理由は、アメリカ人は引っ越す時、「次はもっといいことがある」と思うからだと妻から説明されたと言います。そもそも移民で成り立つアメリカは、新しい希望の大地を求めてやってきた人で成り立っており、それも大陸の中を移動する開拓精神もDNAに刻まれています。

 知らない土地に行く不安より、希望の方が多いわけで、それも重く長い歴史の重圧で閉塞感が漂うヨーロッパを抜け出して理想を求めてきた国民、それも農業定着民族ではない、移動が日常化している遊牧民族のヨーロッパ人で構成されるアメリカは、日本とは対極です。

 今流行っているデジタルノマドも、彼らにはぴったりのライフスタイルです。より良い住処を求めて移動する彼らが、世界一イノベーションに優れているのも当然です。現状維持に愛着し、何でもより良くしたいという欲求がなければイノベーションは起きません。

 日本が経済成長できたのは、大量生産、大量消費に必要な得意な集団作業、ロイヤリティ、集団の意志に自分を一致化させ、組織の歯車になることを受け入れ、優れた製品を生み出す職人文化があったからです。それにオリジナリティより市場の最大公約数に質と量の商品を提供して儲ける商人文化が根付いていたからでしょう。

 しかし、そんな時代は去り、変化の激しい時代にあって、人々は生活の質を高める方法として、環境問題、持続可能な開発、弱者に配慮した生活、さらに物質による幸福ではない精神的なものを求める時代に入りました。そのけん引役がSDGsですが、日本ではSDGsに「How」で取り組む傾向がありますが、その前、「Why」という問いかけが必要です。

 これが実は日本人が最も苦手なことです。売れる車を開発する前に、「人間にとって、なぜ、車はいいものなのか」と問うことは日本では稀です。スマホが普及するデメリットを考える思考は、テクノロジーの進歩が人間を幸せにするテクノロジー便利信仰を持つ日本では、あまり疑問がありません。

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     アート思考は現代美術とは限らない(筆者が最近描いたパステル画)

 今、ビジネスに世界で盛んにアート思考が注目されています。私は長年、自身が深く芸術と関わってきたこともあり、興味深いテーマですが、日本人の精神は今、デザイン思考とは真逆の方向に進んでいるように見えます。つまり、石川県で被災した人々と同じ現象が精神的には全世代で起きています。

 あるアメリカ人の友人建築家は、東日本大震災の津波で町ごと流された光景を見て、「悲劇だけど、せっかくだから、全く新しい街づくりができるという意味ではエキサイティングだね」と言いました。

 ヨーロッパ人なら文明と都市を結び付ける構築文化なので、戦争で廃墟と化した都市を、全く同じ状態に再建したわけですが、アメリカ人は違います。

 アート思考は、まさにアメリカ的です。白いキャンパスにゼロベースで線を引き、色を塗り、新たな作品を作るのがアートです。常識にとらわれない自由な思考が基本です。それを支えているのは開拓精神であり、そこに踏み出すには勇気も必要です。海外行きたがらない症候群では話になりません。

 しかし、一歩そこに踏み出すと人生は予想をはるかに超えた喜びがあり、死んでしまった幸福追求欲が目覚め、人生を豊かにしてくれるはずです。無論、リスクを覚悟するしかありませんが、失敗したら、またナイフで描いたものを削りとるか、白いキャンパスに張り替えることもできます。

 現状維持で座して死を待つよりはいいでしょう。人生何とかなるという精神も必要です。


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 大統領候補者選びの戦いが続くアメリカのトランプ前大統領は、選挙演説で広島と長崎への原爆投下を決断した当時のトルーマン大統領について免責特権があったため実行できたとして原爆投下を引き合いに出して大統領には免責が認められるべきだとの主張を展開しました。

 日本には衝撃的発言ですが、一考に値するのでしょうか。昨年は広島のG7で首脳が原爆記念館を訪れ、その悲惨さを実感してもらったばかりです。

 発言はトランプ氏が、共和党の大統領候補者選びの第2戦、東部ニューハンプシャー州の予備選挙を前にした20日夜、州内最大の都市、マンチェスターで支持者を前に演説したときのものです。トルーマン大統領が日本への原爆投下を決定できたのは、大統領に免責特権があったからとの理屈からでした。

 トランプ氏は現在も2021年の国会議事堂襲撃事件の首謀者として係争中ですが、大統領には免責特権が適用されると訴えて連邦控訴裁判所で争っています。民主主義政治で政治指導者にどこまでの特権を与えるかは大きな議論です。

 トランプ氏は広島、長崎への原爆投下は「決していいことではなかったが、戦争を終わらせた」との認識を示しました。昨年は理論物理学者のJ・ロバート・オッペンハイマーが最初の核兵器を開発し「原爆の父」と呼ばれるようになった過程を描いた映画「オッペンハイマー」が公開されました。日本の20万人を超える犠牲者の惨状への描写がないと日本内外から批判されています。

 トランプ氏の原爆認識は、アメリカで一般的に流布されている原爆投下の正当性を主張する彼らしい浅知恵を感じますが、アメリカの保守派には説得力を持つかもしれません。

 理由は、対中貿易戦争、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの無差別攻撃、北朝鮮のミサイル開発、イランの戦争への参戦危機など、意思決定の早い専制主義体制の国の攻勢に対して意思決定に時間の掛かる民主主義国家が劣勢に回った近年の教訓があるからです。

 ウクライナのゼレンスキー大統領にバイデン米大統領が大量の武器供与を含む莫大な支援を約束しても、議会で反対に合えば、約束は履行されない、あるいは遅れたりしています。特に外交においては迅速な意思決定が求められるケースが多く、専制主義陣営との勝負に民主主義の弱点が露呈しています。

 しかし、トルーマンが日本への原爆投下を決定した背景には、いろいろなことが言われており、例えば、敵国日本蔑視の当時のアメリカの風潮から、トルーマンが猿に近い日本人を核兵器実験対象にしたという説もあります。国の指導者に与えられる免責特権が大きいほど、個人の無知無能が大きなリスクを招く可能性があります。

 トランプ氏は大統領時代、多くの無知を露呈しました。特に新型コロナウイルスへの軽視は内政の大失敗と言われ、2020年の大統領選挙の敗北にも結び付いています。指導者の免責特権は個人の能力への依存度が高いため、国を左右する高いリスクが伴うものです。

 建前上、民主主義で内実は専制主義のロシアでは、プーチンの決断が全てであり、反対意見は警察権力によって封殺されています。イスラエルのネタニアフ首相の強権政治によるガザ市民の大量虐殺や、人質解放が実現できていないことに対して政権交代を叫ぶ運動が増しています。

 トランプ氏が主張するレベルでの免責特権を大統領に与えるのであれば、議会か監査委員会が大統領の権力乱用を監視し、交代させる仕組みを作る必要があるでしょう。それは内政と外交では異なる視点が必要でしょう。

 ただ、民主主義陣営の弱点が露呈し、一方でロシアや中国を支持するグローバルサウスの国々が増える中、特にアメリカの意思決定プロセスの脆弱性には、何らかの改善が必要でしょう。無論、無知で高い見識を持たない政治家を選ばないことが基本にあるのも確かですが。


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 能登半島地震に被災した電子部品を主力とする村田製作所は19日、稼働を停止している石川県穴水町の穴水村田製作所について、生産開始が5月中旬以降になるとの見通しを明らかにしました。発表では設備と建屋の補修に4カ月以上かかる見込みということで、石川県内ではほかに七尾市のワクラ村田製作所の再開時期が未定となっているようです。

 世界シェアNo. 1の製品を数多く供給する同社の海外売上比率は90%以上で、まさに日本企業の先頭を走るグローバル企業です。今回地震が襲った石川県の2つの工場では家電向けのノイズ対策部品やスマートフォン用基板などが生産されており、生産が止まる場合の他産業のダメージは計り知れません。

 同社は、サプライチェーンの混乱を回避するため、ワクラ村田製作所は被害の少ない石川県能美市か富山市の工場での代替生産を検討中とし、穴水村田製作所も代替生産へ向けた調整を進めているとしています。同社は石川、富山、福井の3県にあるほかの10工場で順次生産を再開していますが、代替生産が進むと思われます。

 村田製作所のリスク発生後の対応は迅速で適切と思われます。彼らが国内よりリスクの多いグローバル展開で養ってきたリスクマネージメントが生かされていると見られます。最新のリスクマネジメントでは、リスク対応マニュアルの選択肢にプラン3までの対応策を準備すべきとあります。これはコロナ禍の経験、ウクライナやイスラエル紛争、気候変動で、ますますん重要さが増しています。

 というのも製造業に限らず、停電による通信網の切断を含めリスクの連鎖が、想定外の規模のリスクに繋がる例が多いからです。そこで思い出すのは1995年1月の阪神淡路大震災で被災した神戸製鉄所工場(現在の神戸線条工場)への対応プロセスです。同社も世界に製鉄製品を大量に供給するグローバル企業です。

 縁あって高校の先輩が当時の工場責任者だったことから、詳しい経緯を本人から聞かされ、リスクマネジメント、特にリスク発生後の対応で多くの教訓を学びました。彼は地震発生後の壊滅的被害状況を受け、最初はパニックに陥った後、死ぬ気になって完全に捨て身で対応する覚悟を決め、全従業員にもそれを伝えたそうです。

 彼はまず、最初に被災した全従業員の安全と生活確保を最優先に取り組み、部下にも指示を出したと言います。彼の中には「企業は人なり」との考えがあり、従業員あっての会社という意識が強く、従業員の協力なしに再建は不可能と思ったからと言っていました。

 その後、従業員が再建の意思を固めてくれたことで、現状把握に努めた結果、同工場が供給している特殊製鋼製品が世界の車のブレーキ部分で使用され、供給が止まると世界の自動車産業に深刻な被害をもたらし、ひいては世界経済にも深刻な影響をあることが判明したそうです。

 そこで部下が強く懸念を表す中、自社の他工場では対応できないものに関して、他の鉄鋼メーカーに対して半世紀にわたって培った技術を開示し生産をお願いし、供給を止めない決断をしたそうです。ビジネスセオリーではありえない決断でしたが、結果的に多くの顧客が再建後、戻ってきたそうです。

 さらに社長が現場を訪れ、被害の大きさを見て再建に疑いを持たれたにも関わらず、彼は「やらせてください」と願い出て、社長が「じゃあ、やってみろ」とその意思を尊重してくれたことだったと言います。社長は「本社ができる支援はすべて行う」と約束して工場長に全幅の信頼をしたことが再建に繋がった要因の一つだと言っていました。

 このケースでは、製鉄所の心臓部の炉の火が消えたことが被害で最も大きかったわけですが、想定以上の速さで炉に火を入れることができ、復旧できたことを全員が奇跡と感じたそうです。神戸製鋼は自社の経験から東日本大震災や今回の能登半島地震で見舞い支援金や物資を積極的に送っています。

 再建が従業員1人1人の強い意志に委ねられたことや、リーダーの捨て身の決断は、NHKのプロジェクト召任眈匆陲気譴泙靴拭従業員を下僕のように使うブラック企業ではできなかったことでした。

 私はグローバルリスクマネジメントを専門に25年以上、多くの事例を扱ってきましたが、激動する世界では絶対不可欠なスキルの一つです。ただ、性善説の日本では意識の高まりが欧米ほどにはなく、日本企業はリスクに弱いとも言われています。

 一般的に、スウェーデン、スイス、シンガポール、ニュージーランドなどがリスクに対して比較的強いとされ、これらの国々では、安定した経済、強力な社会制度、効果的な政府の機能、そして自然災害への備えなどが挙げられています。中でもガバナンスは今最も重視されています。

 その意味で神戸製鋼再建の成功は、ガバナンスがしっかりしていたことが主な要因かもしれません。ITやハイテク産業は、そこが弱いという見方もあります。昔ながらの会社に対する従業員のロイヤリティを強調する大手製造業は、上下関係が強く、逆にIT系は会社と従業員が対等の関係にあるエンゲージメントが重視されます。

 日本は過渡期ですが、エンゲージメントの比重が大きくなっていることは確かといえます。自然災害の復興では個別案件が大量に発生するため、柔軟性が求められ、現場のリスクに近いリスクオーナーの役割が重要なため、エンゲージメントが極めて重要です。

 グローバルビジネス経験を積む村田製作所のような企業が増えることで、日本経済が強靭になることを期待したいものです。



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 富士通の英子会社、富士通サービシーズが英郵便局に1999年に提供した会計システムの欠陥が原因で、英国で700人以上の郵便局長らが現金を盗んだ横領罪などで起訴された同国史上最大規模の冤罪事件は、評価の高いはずの日系企業のグローバル市場での大きな汚点となりました。

 16日には英議会で、同社のポール・パターソンCEOが証言し、被害者に賠償する「道義的責任がある」と認め、謝罪とともに被害者の郵便局長らへの補償にも真摯に取り組む意志を示しました。パターソン氏は富士通本体の執行役員も務めており、同社の欧州におけるサービス事業を統括する立場です。

 富士通の時田社長も出席したダボス会議中にメディアからの質問攻めに合いました。メディアの批判には、発生したバグについての原因究明の説明がされていないとの批判があるわけですが、企業側は一方で同問題に真摯に取り組む姿勢を見せつつ、企業に不利になる事実には蓋をしたいという側面もあるでしょう。

 同事件は逮捕され、冤罪で収監されたり、職を失ったり、自殺した局長ら及び、その家族の救済が最優先ですが、同時に日本を代表する電機メーカーの失態は、日本企業全体の世界的評価の失墜にも繋がる内容で、グローバル展開に避けられない日本企業にとって、定着していた評価を崩壊させる深刻なものというべきでしょう。

 議会審議の結果次第では、最悪10億ポンド(約1570億円)の補償金を支払わされる上に、偽証の汚名まで着せられる可能性があると言われます。重厚長大産業より将来性があると言われるハイテク産業の電機メーカーが引き起こした失態は、一企業にとどまらない日本経済の斜陽を印象付ける躓きだったと言えます。

 企業側は原因究明、再発防止策策定を急いでいるはずですが、ミスを組織や集団で吸収する日本独特の慣行は、徹底した不祥事対策に繋がらないケースが多いのも事実です。史上最悪の経営不振に陥った東芝は、アメリカの不良巨大企業を買収した経営判断ミスが企業を窮地に追いやりました。

 今回も富士通が買収した英企業で開発された会計システムの不具合が原因だったことを考えると、富士通本体の管理に問題があったと追求されても弁解はできません。英政府も被害者の補償に本腰を入れる構えです。

 国内よりはるかに多い地雷が埋め込まれているグローバルビジネスの現場で、リスクをマネジメントし、結果を出すには、特別な知識と経験が必要です。個別案件に一定の普遍性はないように見えますが
、経験よりもグローバルビジネスは日本の慣行の延長線上に取り組むのは危険です。

 日本企業が過去に培った実力の基本は、全て日本人が中心になって行ったものです。グローバルビジネスはそれでは通用しません。たとえば日本人同士であれば、共通のコンテクストが共有され、高い信頼関係も前提なのだ成果を出しやすい環境にあります。

 ところがグローバル環境で多文化の人々が協業する状態では、日本人同士で共有できる常識や信頼関係は望めません。容易に誤解が生じ、多くのリスクが見逃され、そもそも意思決定の権限や役割分担に曖昧さを持つ日本企業では責任の所在も明確ではありません。

 今回の英国事例でも提供したシステムのバグについて個人やグループの責任を徹底追及するレベルにはいかないでしょう。伝統ある大企業であれば余計に古いマネジメントスタイルが想像されます。その一つが性善説です。グローバルリスクマネジメントで性悪説が常識です。

 そのため、基本性悪説の欧米企業と異なり、基本的認識を切り替える作業が必要です。海外で買収した企業の製品を日本の自社ブランドで提供するには、それなりの覚悟も必要です。

 発生する不祥事の多くにあるのは、コミュニケーション不足です。企業が衰退する時のほとんどが性善説に寄り掛かり、パートナー企業とのなれ合いでズブズブの関係に陥り、コミュニケーションが極端に不足する状態に陥っているのをよく見ます。

 グローバルビジネスでは、見えないエアポケットも多く生じます。日産のゴーン元会長の事件では、グローバルに動く経営トップにチェックされていないブラックボックスが生じていました。つまり、グローバル企業には一段階上のガバナンスが必要ということです。

 いずれにせよ、20年以上も経つ古い事件ですから、徹底した原因解明と再発防止で、多くのグローバル日本企業が今回の事例を教訓に進化することを願うばかりです。