73eae349.jpg ◀インタビューした時のウンベルト・アニェッリ会長(当時)

 今年5月、イタリア最大の自動車メーカー、フィアットのトップに、若干32歳のジョン・エルカーン氏が就任し、大きなニュースになりました。エルカン氏は、フィアット帝国を築いたジャンニ・アニェッリ故元名誉会長の孫で、欧州メディアは、「若き皇帝の誕生」と報じました。

 50年以上、指揮をとってきたジャンニ・アニェッリ亡き後、フィアットの会長の座を受け継いだのは弟のウンベルト・アニェッリでした。その彼も翌2004年に他界し、アニェッリ一族の側近、ガベッティ氏がグループを率いていました。エルカン氏のトップ就任で、アニェッリ一族に経営権が戻った形ですが、苦境を脱するために貢献したエルカーン氏の手腕は、祖父譲りと指摘されています。

 ただ、世界同時不況で最も打撃を受けるといわれているのが自動車業界、誰にとっても舵取りは大変です。エルカン氏は、米ユダヤ系作家アラン・エルカーンを父に、ジャンニ・アニェッリの娘マルガリータを母に持ち、ニューヨーク生れ。徹底した英才教育を受ける一方、英国やポーランドの関連企業で、身分を明かさず、販売員などの下積みも経験したそうです。

 実はエルカン氏の大叔父にあたるウンベルト・アニェッリ氏が、フィアット財団の会長をしていたころ、インタビューしたことがあります。その時、面白い経験をしました。アニェッリ氏は、ミラノからフィアットの本拠地トリノの駅に着いた私に迎えの車を手配してくれました。

 運転してきた男性は背丈がを超え、体格はプロレスラー並で、スキンヘッドにサングラスを掛け、さながらアメリカのマフィア映画に登場するような男でした。車に乗って驚いたことは、その運転手は一度も赤信号で止まらなかったことです。彼は道路だけを注意深く見ながら、信号は完全に無視し、淡々と運転し、本社の建物に到着しました。

 無論、帰りも同じことでした。イタリア人の友人に、その話をしたら、「当たり前だ。アニェッリは、トリノの皇帝だ。警察だって、何も言えないよ」と言われました。確かにトリノ市民の多くがフィアットのお世話になっています。当時、ウンベルト・アニェッリはサッカーのユベントスの会長もしていました。