トランプ大統領は、シリアのアサド政権が反政府勢力の支配地区の空爆で化学兵器を使用したのを受け、巡航ミサイルトマホークを59発、シリア軍基地に打ち込みました。アメリカだけでなく世界中のメディアが驚きを持って報道しました。大方の見方は安保理でシリア制裁決議をロシアや中国が反対した時点まで待って、アメリカが動き出すと見られていたのが即決即断でした。
それも安部首相以来となるマイアミ・パームビーチのトランプ大統領の別荘で習近平氏と夕食を共にした直後でした。オバマ政権が実行しなかったアサド軍に対する直接攻撃を実行したことで、オバマ政権との違いを鮮明にしました。疑問符としては2013年にシリア軍が化学兵器を使用した時は、シリアへの軍事攻撃にトランプ氏は反対していた事です。
トランプ氏は大統領選の最中も「シリア問題はシリア国民が解決すべき問題だ」と主張し、大統領就任後も「私は世界の大統領ではなく、アメリカの大統領だ」「アメリカの利益にならない事はしない」と言っていました。しかし、子供や女性が無残に化学兵器で殺害されている映像に衝撃を受け、「人間は考え方を変える事もある」と述べ、ミサイル攻撃を即決しました。
無論、ロシアや中国を牽制し、北朝鮮に圧力を掛ける狙いもあったでしょうし、オバマケアの廃案で共和党内で支持を得られなかったことから、ミサイル攻撃は、アサドを政権から引きずり降ろすことに熱心な共和党議員らの支持を得る恰好の材料でもあったのでしょう。
しかし、私の印象ではトランプ氏は、なんでも話し合いで解決しようとして美辞麗句を並べ、何も結果を得られないまま多数の犠牲者を出し、何年も時を過ごしてきた政治家や外交専門家と違い、結果はともあれ、とりあえず行動を起こす政治家であろうとしているように見えます。それもかなり直感的で失敗してもへこまないタイプのようです。
専門家はミサイル攻撃した後の次のシナリオがないと指摘していますが、ロシアも中国も、あるいはイスラム国(IS)も動かざるを得ないのも確かです。シリア政府は今回の攻撃を「内政干渉」と非難していますが、アサド政権の背後にいるロシアはクリミア半島を奪い、ウクライナ紛争に関与し、内政干渉などというレベルでない行動をとっているわけですから、話になりません。
中国も南シナ海、南沙諸島で勝手に軍事基地を建設している問題や北朝鮮の核兵器開発を、アメリカが今後も放置するかどうか分らない情勢です。保護主義で自国中心主義のポピュリストと批判されるトランプ政権のシリアへの行動は、トランプ政権の今後の重要な試金石になることだけは確かでしょう。