海外で成功しているマネジメントクラスの日本人や欧米人と話すと、共通していることがあります。それはパフォーマンスを出すために徹底したコミュニケーションを行っていることです。逆に失敗例(この方が多い)では、圧倒的なコミュニケーション不足が見られます。

 こう書くと「そんなの当り前だろう」と言われそうですが、実はコミュニケーション不足の背景に日本人独特の課題が潜んでいることは指摘されないことが多い。

進捗管理
 たとえば、仕事の進捗管理が現地でできていないという話は、きわめてよく聞く話です。聞いてみると、ほとんどの場合、「報告・連絡・相談ができていないのに、どうして長年、業務が行われてきたのか理解できない」というわけです。

 進捗の報告をあげるように指示したけれども、なかなか報告が上がってこないとか、チームとして協力しながら業務を進めるべきなのに、あくまで個人ベースで仕事の進捗を共有しようとしないなどのナショナルスタッフへの不満をもらすケースが非常に多いのです。

 結論から言いますと「日本人はなんでも形から入ろうとして、手段が目的化しやすい」ということです。たとえば進捗管理に有効な報連相は、日本では新入社員に教える働き方のいろはですが、これが日本文化に立脚したものであることに気づく人は少ない。

 性善説を信じる日本人は、「人は嘘をつかない」「人は作り話はしない」という前提で報告や連絡を求めています。上司が「報告が上がってこない」という言い方は部下は正しい報告を上げるべきという常識があるからです。

 ところが個人評価を基本に働くグローバル企業では、自分に不利な報告はしない傾向があります。ミスを組織で吸収しようとする日本独特の考えと違い、ミスは自分の評価を下げ、ひいては解雇に繋がるからです。

 そのため従業員は自分のキャリアを優先的に考え、保身のために自分に不利な報告はしたがらないし、ましで自分の能力が見透かされる相談などしません。逆に自分への責任追求を避けるための作り話は日常茶飯事になるわけです。

 そのため、正確な情報が上がってこない可能性は高く、進捗管理の報連相のシステムを作っても適切に機能しない例が多い。では何が必要かといえば、「上司は自分に必要な情報は、自分自ら集めにいく」ということです。

 実は意志決定者である上司が必要な情報は、そのポジションにある上司しか分かりません。まずは上司自ら進捗管理のために現場に赴き、現場の責任者の顔をたてながらも、従業員一人一人とコミュニケーションを取りながら情報収集する努力が必要というわけです。

 実は報連相が成り立っている背景には、性善説だけでなく、日本独特の忖度も働いています。そんな忖度を海外でも部下に期待する日本人上司は、ほぼ失敗しています。だから双方向のフィードバックは欠かせないのです。

 しかし、もっと問題を掘り下げると、実は日本社会にはグローバルな仕事環境では考えられないほどの「常識の共有」「価値観の共有」があり、見えないルールが非常に多いことがわかります。そのベースの上で進捗管理も組織も成り立っている。

 逆にアメリカのビジネススクールで教えるようなマネジメント手法を日本に導入しても、うまくいかないのは文化の違いもあり、目的よりも形式や方法を導入しようとして失敗しているケースが多く散見されます。

 どうすればヴィジョンを達成できるのか。そのための戦略は何かが後回しになり、仕事をするための方法論や形式が先に導入されても結果は出ないわけです。

 部下と徹底したコミュニケーションを実行したら「相談に来なくてもいい」と言っても来るようになったという話を成功者から聞くにつけ、物事は外的な形式や方法論から入るものではないことが、よく分かります。