
アメリカでファイスブック社の中国人エンジニアが、無許可で中国人観光客を社内に招き入れ、同社が提供する無料の食堂「フリーミール」で食事をさせ、観光客一人一人からお金をとっていたという事実が発覚し、解雇されたというニュースが流れています。
アメリカに大量に押し寄せる中国人観光客は、グーグルやファイスブック、ツイッターなどの巨大IT企業見学を望むと言われ、そこにビジネスチャンスを見出すチャミィという中国の旅行仲介サイトが、それらの企業で働く中国人と観光客を結びつけ、にわか添乗員のような案内役になってもらい、社内を案内してもらう新サービスを展開しているそうです。
常識的に考えて、会社の情報漏洩に厳しいIT巨大企業の中を気軽に見学できるなどというのはありえない話ですが、さらに気になったのは、そのサービスを提供しているチャミィの創業者リウ・チャン氏の出した声明です。
彼は、フェイスブック社のCEOマーク・ザッカーバーグ氏に自社のサービスの趣旨を主張する公開書簡を送りつけ、「私たちのサービスは世界を変えたいだけであって、安全性を破壊したり経済競争を引き起こすものではありません」と説明したことでした。
「世界を変える」という言葉は、新しいテクノロジーやサービスを提供する人物や企業が使う常套句で、アップルのスティーブ・ジョブズが代表格と言えます。アメリカ人が好きな言葉で、インターネットやスマートフォン、ツイッターの登場で世界は劇的に変化したなどという言い方をします。
問題の多い世界に解決をもたらす人物の登場を待望するアメリカでは、スティーブ・ジョブズは教祖化し、多くの若者の支持を集め、信仰に近いものが世界に広まっています。
しかし、「世界を変える」というフレーズは、あまりにもお気軽に使われ、単に人間のライフスタイルに変化をもたらすだけでなく、価値観も変えるような勢いです。
ところが、たとえばネットの発達は、過激派組織イスラム国のようなテロ集団に、聖戦主義の流布やテロリスト養成の最強のツールをもたらしています。
しばしば、話題になるウィキリークスは、世界の政府機関の最重要極秘情報を公開し、国家に深刻なダメージを与えることも起きています。ウィキリークスの創設者のアサンジ氏は、容易には得られない機密情報を手にして、彼の判断で世界に流す、その判断の根拠はなんなのでしょうか。彼は神のように振る舞っています。
「世界を変える」と主張する新しいテクノロジーをもたらすIT系企業は、自分たちはグローバルにアクセスできる新しいプラットフォームを提供しているだけで、それ以上の意図はないと説明するでしょう。
しかし、そのプラットフォームを使うのは人間で、結果として人間社会に起きること、すなわちいい事も悪い事も実際起きている。ネットのために子供が人生を失うかもしれない。ネットで中傷された人間が自殺するケースも増えています。
自由にプラットフォームを使えると言いながら、実はなんでもありの超リベラル思想が見え隠れしています。世界を変えるための哲学的考察も宗教的アプローチ、道徳的秩序もありません。
人類が長い間苦しみ、模索してきた幸福な社会実現が、お気軽なITテクノロジーで容易にもたらされるなどということはありえない話です。子供はいい言葉より悪い言葉を先に覚えるといいますが、コミュニケーションの容易さは悪を蔓延らせているのも事実です。
世界を変えるという響きの良さから、IT系企業がお気軽に多用する軽薄さは、世界をいい方向に向かわせるとは到底思えません。特に若者の間で信仰化している背景に、実はお金の匂いがしている事も偽善的です。