神戸製鋼のデータ改ざん問題が大きく報じられる中、この数年、大企業の不祥事発覚は枚挙に暇がありません。東芝、日産、東洋ゴム、タカタ、オリンパスなど、粉飾決算、無資格者不正検査、データ改ざんなど、グループ企業全体を揺るがす問題に発展しています。

 同時に、企業トップの社長や会長、CEOと呼ばれる人たちが、ほとんどの場合、不正が発覚するまで事実を把握していなかったことも明らかになっています。組織が巨大化すれば、一人の人間の管理できることは限られてくるのは当然ですが、それでも不祥事は起きてはならないことです。

 私の高校の先輩で、阪神淡路大震災に直撃された当時の神戸製鋼製鉄所の所長で、副社長にもなった光武先輩の武勇伝は、NHKのプロジェクトXにもなりました。当時、神戸製鋼が供給する金属素材が世界中の自動車産業に深刻な影響を与えた話を直接聞いたことがあります。その意味でも神戸製鋼はどうなってしまったのだろうとの思いもあります。

 企業で不祥事が放置された原因の一つに、21世紀に入り、日本の大企業は株主重視のアメリカ的企業運営にシフトし、収益第一主義で短期業績が追求されるようになり、過度のプレッシャーから現場で一線を超える事態が引き起こされているという指摘があります。
Pressure 1

 プレッシャーが不正行為を助長することは、ビジネス心理学の専門家の間でも指摘されてきたことです。無論、経営幹部に権力が偏り、上層部で秘密裏に決定が下され、従業員が進言できない社内体質があるなど、その他の要因もあるわけですが、最近の企業不祥事の背景には、過去にはなかったプレッシャーの存在が指摘されることが多くなりました。

 近年、企業はコンプライアンスやCSR、コーポレート・ガバナンスといった企業ルールの制度化、体制整備を進めていますが、それが正しく運用され、しっかり機能していたかが疑問視する声もあります。

 体制づくりをしても、その体制に魂を入れ、持続可能な状態に保ち、効果を確認できなければ、あっと言う間に形骸化してしまうのが常です。法律と同じで、法律を定めるとその裏をかき、抜け道を探すのが人間の性(さが)です。

 上からのプレッシャーに「悪いこととは思うが、これぐらいなら明るみに出ることはないだろうし、許されるだろう」といって一線を越えてしまう。小さな嘘が大きな嘘に発展するように不正行為はエスカレートし、その不正行為は会社の存続に関わるような重大問題に発展する。
leadership

 では、誰が不正行為を行わないよう踏みとどまらせることができるのかと言えば、それは組織のトップに立つ人間以外にはありえない。人の持つ勤勉さやモラル、労働規範をあてにする従来の日本的経営は役に立たなくなっている。それは終身雇用と社内からトップが生れる社内論理優先の経営スタイルに支えられてのことでした。

 右肩上がりで収益が伸び、運転資金は系列バンクに支えられ、損益はグループ内で吸収できた時代は終焉を迎えています。企業は激しい国際競走と海外投資家の目に晒されている。そんな中、日本独特の性善説や愛社精神、家族的経営などで経営すること自体が困難になっている。

 人間は追い込まれると苦しまぎれに不正に手を染めるように、組織でも同じようなことが起きてしまう。不祥事発覚で経営トップが認識していたかは責任問題として当然追求すべきですが、たとえ認識していなかったとしても責任は免れません。

 不祥事が起きると報・連・相のコミュニケーションが不足していたことがよく指摘されますが、不正行為に手を染めるグループの代表が、それをそのまま上司に報告することなどありえません。つまり、トップは部下の報告を信じる以前に、自ら進捗管理のための情報収集を行い、自ら不正行為を見抜くくらいの姿勢が必要だという話です。

 無論、不正行為を許さない決意と確固たる意志を日々社員に示すことや、不正防止の管理体制の運用を自ら直接行うことも重要です。それは不正行為を隠蔽させないことでもあり、さらには不祥事発覚後の隠蔽は、恐ろしい結果をもたらすという認識を社内に植えつけることにも繋がります。

 それよりも気になるのは、できない目標を経営幹部が立ててしまい、その結果として不祥事が起きている事実です。つまり、達成不可能な目標設定による過度のプレッシャーがあり、人材配置、コスト、収益を確保するための十分な戦略が練られていないことに原因があるのではないかということです。

 日本の製造業は現場主義で現場の権限が強いことで、管理職が不正行為を把握し、事前に防止するのを難しくしているという指摘もあります。しかし、そもそも最初の方針や戦略が現実的でなければ、現場は辻褄を合わせるために一線を超えることもあるはずです。

 「手段が目的化する」、これが日本人の短所の一つです。企業の公共性や公益性を捨ててでも利益を産むために一線を超えるというのは、その典型です。神戸製鋼の例は、それが如実です。同社のデータ改ざんは、陸、海、空の移動の安全を脅かす事態を生んでいます。

 組織は時間が経ち、肥大化することで必ず腐敗し、弛みが生じることも否定できません。しかし、過度のプレッシャーから一線を超えるような事態に現場を追い込んだのは、適正を欠いた経営戦略にあるのではないでしょうか。経営陣の考え抜く力が試されていると言えそうです。