安全保障分析を専門に行うアメリカのシンクタンク、ソウファン・センターが24日、イラク・シリアのイスラム過激派組織、イスラム国(IS)の支配下領域から外国人戦闘員、約5600人が脱出し、今後、母国に帰国することでテロの脅威が高まると警告したことが注目を集めています。
イラク・シリアで活動してきたIS戦闘員は、今月、ISが首都と位置付けてきたラッカの陥落で事実上、同地域からの敗退を余儀なくされています。2014年に国家樹立宣言を行い、ひたすら領土拡大のための戦闘を繰り返し、残虐行為を実行してきたISは、アメリカが主導する有志連合とロシア軍、シリア軍の猛攻で首都を失いました。
欧州からイラク・シリア地域に最も多くの戦闘員を送り出していたフランスのメディアは、モスルやラッカで行われた戦闘で、フランス国籍者が死亡しているニュースを連日伝えていました。しかし、その実体は正確には掴めておらず、死亡した戦闘員と敗走した戦闘員の数は掴めていないのが実情です。
フランスは第1次湾岸戦争の時、サダム・フセインに売りつけ、支払いが終わっていないフランス製の戦闘機を打ち落としに行くという複雑な事情を抱えましたが、今回のISとの戦闘でも、フランス空軍が空爆によってフランス国籍の戦闘員を殺害するという何とも言えない現実を抱えました。
フランス政府は、フランスからの戦闘員の大量出国をくい止めるべく、様々な対策を講じてきましたが、多くがEU域内や第三国を経由してシリア入りしていたため困難を極め、一時は2000人を超えるフランス人戦闘員が現地にいたとされています。
フランス・メディアの中にはラッカ陥落に向け、フランス国籍の戦闘員は可能な限り、現地で殺害されるのが望ましいとまで報じました。というのもフランス国内でのテロの多くが戦闘地域から帰国したフランス人によって引き起こされているからです。
ISの聖戦(ジハード)は、フランスで差別を受ける若者、特に北アフリカのアルジェリアなどのマグレブ諸国にルーツを持つアラブ系移民にとって、自分たちが唯一生きる価値を見出せる思想になっています。
イラク・シリアで戦闘経験を持つ者は、フランスでのテロ実行の中心的存在となっており、武器弾薬の調達、爆弾製造、人の殺害方法までの指南役になっています。彼らはアラブ系移民の多く住む大都市郊外の団地に普通の移民系家庭に紛れて潜伏し、社会から差別を受ける若者を勧誘し、日々、ネットなどを通じて聖戦主義を拡散しています。
フランス政府は2015年以来6回も更新した非常事態宣言を今月末で解除する一方、新たな対テロ強化策を発表しました。それによると非常事態宣言時と変わらない警官の権限強化や、治安維持に特化した市民密着型の日常治安警察(PSQ)の導入、聖戦主義を流布するイスラム教モスクの閉鎖を県自治体が命じる権限の付与などが含まれています。
しかし、現在でも国内に危険人物とされる1万人の聖戦主義者が存在すると言われ、そこにイラク・シリアからの帰国者が急増すれば、テロの脅威が確実に高まると見られています。二重国籍でないフランス国籍者の帰国阻止は、法律上も人権上も難しく、帰国後の監視しかできないという現状もあり、さらなる対応が迫られています。
