日本政府は、働き方改革を進めている一方、今年、スイスのビジネススクールIMDの世界競争力センター(IMD World Competitiveness Centre)が公表したWorld Talent Ranking 2017 によれば、世界の高度技能者にとって働く環境としての日本の魅力は、アジア11カ国中、最下位でした。

 この報告は、高度技術者、つまり高学歴で高い専門スキルを持った世界中の有能な人材にとって、日本はアジアで最も魅力を欠く国という意味です。これは日本に有能な人材が集まりにくいことを意味し、国にとっても由々しき事態です。

 魅力のない理由には彼らの能力を適切に評価し、それなりのポジションと報酬が得られ、キャリアパスが明確になっており、日本の会社、具体的には日本人上司が自分のスキルを伸ばしてくれるとは思われていないことが挙げられます。

 年功序列や不明確な評価基準とキャリアパス、会社の一方的人事慣習、サービス残業などはイメージを悪くしていますが、何よりも彼らが最も必要としている自分自身にさらなる付加価値をつけるという意味で、日本企業は魅力がないからです。

 私は25年前から、フランスのビジネススクールの学生を日本企業に研修で送り込んでいますが、今では、日本での企業研修に疑問を抱く学生の方が増えています。特にヴァカンスを重視するフランス人にとって、日本人の働き方そのものに大きな疑問を感じています。

 実は、日本では終身雇用が確約できる企業が減少しているにもかかわらず、経営スタイルは何も変えていない企業が多い。一人一人が転職を前提に会社の中で自分のスキルを磨いていけるシステムを採用する企業は未だに少ない。

 むしろ今、欧米諸国で評価が高いのは、意外にも和食料理人になるために日本に留学するケースです。職人の世界は技術をマスターする明確な道筋があり、研修を受ければ、確実に明確な達成度や評価が得られます。自分がどの程度スキルが向上したか分らない企業と違い、できるかできないか、マスターすべきスキルも明確だからです。

 日本は農耕文化の村社会を引きずり、集団で取り組む日本独特のマネジメントスタイルに頼り、個人の専門的スキルは軽視されがちで、職場をたらい回しさせられるケースも多い。会社側の評価は調整能力や企業が培った文化への順応度が優先され、人間関係が全てという場合も少なくありません。だから、外国人は日本企業内のリーダーに魅力を感じない。

 ではなぜ、経営スタイルが切り替わらないのかといえば、平均給与が世界で高水準な日本では国内消費水準が高く、国内だけで経済が完結している部分が、経営者を油断させている。それに何よりも文句を言わずに勤勉に働く質の高い日本人の労働層が企業を支えてくれています。
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 それともう一つ、日本人には働くことへの偏った思い込みがある。つまり、働き続けなければ豊かな生活はできないという思い込みです。勤勉という言葉の背後に心の貧しさが見て取れるという話です。

 実はバブル崩壊の1990年代始め、「ゆとり」が強調され、学校も会社も「ゆとり」の必要性が注目され、教育現場ではゆとり教育が導入され、勉強の絶対量が極端に減り、学力が低下し失敗した経験があります。

 フランスなど他の先進国に比べ、日本人は今でも遊ぶことが非常にヘタです。その原因の一つが長期有給休暇が取れないことで、短い休暇に凝縮して楽しむために高額を費やすケースが多いことです。

 もう一つの原因は、日頃から人生を楽しむことを養っていないということです。就業後や毎週末にもプライベートな時間があるわけですが、そこでの楽しみは、せいぜい飲食か映画でしょう。実は他の欧米人たちは週末、家に友人や親戚、近所の人を招いたパーティーを頻繁に行っています。

 日本では少しずつ増えているとはいえ、自分の家に人を招く、逆に招待されることを大きなイベントになってしまっている。特に近所の人を家に招き入れるのは躊躇するケースが多い。それに日頃のハードワークで週末は気を使わずに休みたいと思ってしまう。

 つまり、生活が仕事中心でメリハリがなく、それは仕事の効率性にも悪影響を与えているケースが多い。なぜそうかといえば、まじめに働かなければ生きていけないと全員が思っているからです。無論、働くことは必須なことであったとして、全ての人の価値観がプライベート重視だったら、今のような状況にはなっていないわけです。

 それに長期ヴァカンスや週末に人が消費することは、実は国全体としてお金が回ることを意味します。その原理はマクロ経済を学べば一目瞭然です。お金を循環させることが経済に活力を与えるわけですから、企業の内部留保ばかりを増やしているのは、人間が中心ではない企業中心文化があるからです。

 未だに組織を盛り上げていくために、人は捨て石になるという発想が日本人から抜けていないことが問題です。給与を上げること、労働時間を減らすことは企業文化に逆行するとの思い込みが強い。これでは人を活かす組織にはなりえません。それに企業が国家のために崇高な理念を持ち、貢献をしているとは言い難いことが多い。

 より高いスキルを習得でき、効率よくお金を稼ぎ、個人や家族の人生を充実させるという考えがあってこそ、日本は多くの有能な外国の人材を惹きつけることができる。研修をしていても、今は女性と外国人の方が優秀で将来性を感じます。

 勤勉で仕事中心に凝り固まった男中心の日本企業が生まれ変わるためには、女性の重要ポストでの採用、海外の優秀な人材の採用は必須です。そうすれば仕事中心のメンタリティも徐々に変えていくことができるでしょう。

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