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 予測不能な行動で知られる北朝鮮が、15日の平昌五輪の南北協議で突然優先課題として北の芸術団派遣を持ち出し、合意したことが話題になっている。短期間で北の選手受入れの調整を優先すべき協議に、思わぬ難題が持ち込まれ、韓国は対応に追われている。

 無理難題を交渉の出だしに持ち込む北朝鮮の手法は、実はトランプ氏の政治手法にも重なるものがある。昨年決定された突然の特定国からの米入国禁止措置、TPPやパリ協定からの離脱、オバマケアの廃止など、公約だったとはいえ、いきなりハードルの高い政策を発表するやり方は、以前にも指摘しましたが、セールスマンが用いる手法を彷彿とさせます。

 それはビジネス交渉でよく用いられるドア・イン・ザ・フェイスという心理戦のアプローチで、最初に相手が受け入れがたいハードルの高い合意を迫り、断った相手が申し訳ないと思っている最中に、本当に合意したい一つ下のハードルの事項を合意させてしまうというもの。

 つまり、最初に提示された難題への合意を拒否した相手は、結果的に譲歩させたことになり、相手が譲歩するのであれば、次のレベルの事項には合意しなければならないという心理が働くことを利用した交渉術。

 その逆はフット・イン・ザ・ドアで、たとえば、セールスマンが相手が受け入れやすい話を最初に受け入れさせ、玄関のドアに片足を入れた段階で、次々と小さいな合意を積み重ね、最終的にはハードルの高い合意を取り付ける手法。

 北の金正恩朝鮮労働党委員長は、この2つを使い分けながら、終始、交渉の主導権を握り韓国を手玉にとっているように見えます。最初は文政権が提唱する対話重視に答える形で、それもいま一つ盛り上がらりに欠けた五輪を最大限盛り上げる効果もある北の選手団派遣を提案、これはフット・イン・ザ・ドアです。

 現在、政治的にも経済的にも迷走する文政権は、動揺しながらも拒否する理由は見当たらず、飛びついてしまった。そこでいきなり、北のプロパガンダを最大限アピールする芸術団派遣という高いハードルの難題をカウンターパンチのように持ちかけ、韓国側は一端南北対話を受け入れた立場もあって、優先的協議事項としてテーブルに上げざるを得なくなった。

 そこで、たとえば開会式や閉会式で芸術団の公演を行うとか、韓国内で五輪開催中に金正恩礼賛のパフォーマンスを行うとか、非常に韓国が受入れ不可能な提案を行い、ドア・イン・ザ・フェイスのアプローチで、さらに交渉を有利に進めている可能性があります。

 それも核開発問題や北の体制批判などを行えば、いつでも五輪参加は取りやめるという姿勢をちらつかせている。さらに韓国の保守系メディアが、北の五輪参加は朝鮮半島の非核化をめざすアメリカと韓国の連携にヒビを入れるのが目的とする論調を流しているのに対して、北朝鮮は怒りを露にしている。

 北朝鮮の朝鮮中央通信(KCNA)は先週末の論説で、南北関係に改善の兆しが出るたびに、米国は「血走った目でチェックしようとする」と批判したと伝えられます。過去のいかなる時よりも世界の耳目が集まっている朝鮮半島情勢は、その事自体が金正恩の思惑通りとも言えそうです。

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