平昌五輪開幕を直前に控え、北からの選手団を受け入れる韓国では、融和ムードと北への警戒感の交錯する複雑な空気が漂っているようです。同時に朝鮮半島統一への気運も高まっているようです。
北朝鮮は金日成による建国から孫の金正恩政権に到るまで朝鮮半島の統一に情熱を燃やしてきたのは間違いのない事実です。逆に韓国の方は軍事政権を脱し民主化を進め、飛躍的経済発展を遂げたことで、貧しい北朝鮮との統一への意欲を失い、今の若者の多くは別の国くらいにしか思っていないと言われています。
朝鮮人は長い歴史の中で中国の属国のようにして暮らし、中国に怯えながら生きてきたことから、北朝鮮の背後にいる中国のことも韓国人にとっては常に懸念材料です。
ベルリンの壁が崩れる前後して数回、ベルリンや壁崩壊のきっかけを作ったライプチヒを取材した私は、つぶさに分断国家が統一される現場を見ることができました。壁崩壊前に命懸けで東ドイツから脱出した人物への取材や、ライプチヒで何が起きていたのかを壁崩壊前に取材することができました。
壁が崩れる前、作曲家の団伊玖磨氏が日本でも著名な指揮者クルト・マズア氏に会った当時、私は団氏とともにライプチヒにいて、マズア氏が語る現実を聞くことができました。しかし、まさかその3カ月後に壁が崩壊するとは思ってもみませんでした。
壁崩壊後、韓国メディアの取材班が大挙してベルリンを訪れ、いつか彼らの国もドイツのように統一できるという期待の声が取材班の中から聞かれました。
しかし、冷静に見れば、全くドイツと朝鮮半島は事情が異なる話で何も参考にならないと私は考えています。
まず、東ドイツは当時、ソ連邦を中心とした共産圏の中の優等生でした。むしろ背後のソ連がゴルバチョフ時代に共産党政権の求心力を失い、東欧諸国への内政不干渉を表明した中で壁を取り払うことを決定した経緯があります。それに独裁国家でもなかった。
また、当時の西ドイツがフランスなどの周辺国と良好な関係だったことも見逃せません。西ドイツは当時、世界第2位にまで登りつめた経済大国に君臨した自由世界の優等生でした。
翻って朝鮮半島をみると、北朝鮮は優等生国ではなく、海外から犯罪的行為で外貨を稼ぎ、国民を搾取し、常に嘘の約束をしては海外からの人道支援をもぎ取る国です。それに東ドイツで起きていたような自由化を求める反政府的動きは完全に封じられ、国民は金正恩を崇めています。
さらに彼らの背後にいる中国は、今や世界第2位の経済大国になり、社会主義大国として世界に影響力を行使し、崩壊前のソ連とは全く異なります。
一方、韓国も西ドイツのような経済的実力がないだけでなく、民主主義の歴史も浅く、国民感情が法を上回るという法治国家としても未熟な国です。本来、協力を呼びかけるべき日本との関係を従軍慰安婦や強制連行の問題を執拗に持ち出し、自ら関係を悪化させているのが現状です。
それに今回の平昌五輪で金正恩の手玉に乗ってしまう韓国には、当時の西ドイツのような毅然とした態度はありません。壁が崩壊する前夜、私がいた東ドイツには西ドイツとの融和ムードなどありませんでした。対話や融和政策は分断国家の問題解決には役に立たなかった例の一つです。
本質的な問題解決には、北の体制崩壊が不可欠であり、背後にある中国やロシアの理解を得るしかありません。そのためには韓国自体が西ドイツのように民主主義、法治国家を成熟させ、財閥経済を脱し、社会に公正さをもたらし、近隣諸国と良好な関係を築き、足場を固める必要はあります。
そう考えると問題は韓国人自身にあることが見えてきます。大国に囲まれ、自国の運命を自分たちでコントロールできないとして、問題が起きる度に他人のせいにしてきた朝鮮半島の人々に巣くう甘えの精神を卒業する時期が来ているとも言えそうです。
それに今の金正恩率いる北朝鮮と対話することは何も意味を持たないし、融和政策は害あって益なしでしょう。
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