多様な文化的背景を持つ人々の協業の機会が増える現在、その適切なマネジメントが世界中で課題になっています。日本企業もダイバーシティがもたらす効果に期待し、女性の積極的登用などを進めていますが、カルチャーダイバーシティは別次元の話です。

 中国の杭州市に製造拠点を持って10年が絶つ某日系大手製造メーカーN社は、未だに日本的チームワーク導入がうまくいかず、状況変化に応じた柔軟な生産体制を構築するのに苦労しています。中国人は一般的にチームの構成メンバーであっても、個々の職務を果たすことだけに集中する傾向があります。

 彼らは自分を評価する直接の上司と個別に繋がっており、中国人リーダーは、チーム一人一人の進捗状況を個別に管理し、必要に応じてメンバーに対して個別にプレッシャーを与え、チーム全体としての報告、連絡、相談は通常期待できず、メンバーは互いに支援やサポートもしない場合が多いのが実情です。

 多くの日系企業同様、N社は、チーム内の経験者に新人指導を任せ、チームのメンバー全員が相互に連絡を取り合い、進捗状況をリーダーに報告し、チーム内で報告と連絡、相談が繰り返され、情報を共有することを望んでいます。特に習熟度の低いメンバーには、習熟度の高いメンバーが支援することを期待しています。

 日本のチームリーダーの役割は、全体を見渡して仕事の遅れや精度をチェックし、チームとしての総合力を高め、全体力を引き出すことにあると信じられています。ところが現実には習熟度の高いメンバーが習熟度の低いメンバーをサポートする習慣はなく、むしろ職場の同僚は競争相手という意識を持つ中国人の方が多いとも言われています。

 では、日系企業が導入したい日本型チームワークの重要事項は何かと言えば、
(1)チームの目標を全員が理解し、共有する。
(2)チームの中で自分の仕事(役割と責任)が何かを理解し、実践する。
(3)他のチームメンバーの仕事概要を理解し、困っているときには共助する。
ことだと思います。中でも(3)の相互補完性は日本的ともいえ、海外での導入は難しい場合が多い。
Culture Diverrsity management

 しかし、上記の3つの中で最も重要なのは何かというと、実は(1)のチーム全員のヴィジョンや目標に対する理解と共有です。無論、組織の見える化で透明性を高め、情報を円滑に循環させることも重要ですが、人間を突き動かす最強のものは目標達成への意欲です。

 それもチームの目標と個人の目標が表裏一体になっている時に、最高のパフォーマンスを得られることが分かっています。チームの目標は会社の成果に繋がっているわけですが、個人の目標は、与えられたヴィジョンに共感し、なおかつ自分のスキルアップにもなり、最終的には正当な評価を受けて報酬にも繋がるということです。

 たとえば、ドバイが誇る世界最大の緊急人道支援物資保管庫、「国際人道シティ」(IHC)の職場には興味深いものがあります。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や国連世界食糧計画(WFP)などの国連機関、セーブ・ザ・チルドレンなど多くのNGOが倉庫を利用しするIHCでは、欧米、インド、パキスタン、中東、アフリカなど世界中から来た職員が協業しています。

 彼らはまず、宗教が異なる。キリスト教徒、イスラム教徒、ユダヤ教徒、ヒンズー教徒などの熱心な信者だったりする。食生活など生活習慣も異なり、考え方も異なる。しかし、職場で宗教や文化慣習が原因で摩擦が起きたことはないといいます。

 理由は、世界中で困難に直面する人々に緊急物資を確実に届けるという極めてシンプルで同時に崇高な目標に向かって仕事をしているからです。職員の中には難民出身者もいて、発送作業が1分、1秒でも遅れれば、発送先の難民キャンプの子供が餓死するリスクを知っているといいます。

 組織は縦割りではなく、スタッフの上下関係もあまりない。一人一人がプロフェッショナルとして自らの高いモチベーションで仕事をしている。どんな単純作業に携わるスタッフにも仕事への誇りがあり、仲間意識が強くパワハラも起こり得ないといいます。同じ風景を、これまで3回取材したことあるパリの国境なき医師団の職場でも見た記憶があります。

 無論、ビジネスの世界では同じことは起き得ない。利潤追求と人道支援は別の性質のものだからです。しかし、IHCの興味深い点は、多様な人種、宗教、生活習慣を持つ人々でも、いったん目標を共有してしまえば、その多様さは武器にはなっても障害にはなりえないということです。

 カルチャーダイバーシティのマネジメントにとって、いかにヴィジョンや目標の共有が重要な役割を担っているかという話です。世界に知られる日本の新幹線の清掃員の神業的労働意識の高さも、自分の仕事への誇りを持つことを重視した指導が効果を発揮したと言われます。

 文化の壁を取り払うのは、まずはリーダーが打ち出すヴィジョンや目標をナショナルスタッフが理解しているのか、さらには共感してくれているのかを確認することが重要です。その後に初めて方法論が出てくるわけです。

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