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 東京都政を揺るがした豊洲新市場の建物地下の汚染問題は、始動に向け新たな段階を迎え、再度注目されています。新市場への移転を延期したことで巨額の税金が維持費に投じられた一方、保育園の待機児童の問題などの優先課題は放置され、この問題で誰一人として責任を取る人間はいないようです。

 公務員は、公費着服など公務員規則に違反しない限り、何百億円の損害を都に与えたとしても、業務のミス等で解雇されることはありません。かつてバブル崩壊、日本経済を危機に陥れたとされる1990年代初頭の財務相の土地政策変更を主導した官僚も責任を取ることはありませんでした。

 民間企業のように、会社に巨額の損害を与えれば背任行為で罰せられることもありません。森友・可計問題で、文書改竄や利益誘導に関与した役人も、降格や左遷人事どころか、出世さえしている現実があります。

 民間企業でも、日本の慣習としてミスは組織が吸収し、個人の罪は問われないケースが多い。モラル・ハザードという都合のいい言葉もあります。実際、1個人の悪意で問題が発生することの少ない日本では責任の所在そのものがはっきりしないのが実情です。

 しかし、豊洲の問題や森友・可計問題、企業の度重なる不祥事の本質は、組織のガバナンスの欠落であることは確かです。組織のトップの言い訳は「その件は報告を受けていなかった」というお決まりの文言です。最終的に誰をスケープゴートにするかという話になるケースが多い。

 そこから見えてくるのは、意思決定のプロセスにおいて、トップと幹部職員間の報連相が機能しなかったことを意味しています。つまり、部下が上司に対してする一方的な報連相こそが、仕事の進捗管理で最も有効という思い込みが根底から間違っているということです。

 人はさまざまな動機で嘘をつき、作り話をし、事実を隠蔽するものです。自分の評価を下げることを避ける保身のためだけに嘘をつくわけではなく、時には組織を守るため、支出の辻褄を合わせるため、ある業者や人物を守るためなど、さまざまな動機があります。

 その嘘や作り話、隠蔽が組織に有効に働くことは、まずありえません。1970年まで日本の報連相は意志決定者と部下の双方向で行うべきものでした。特に意志決定者が必要な情報は、意志決定者にしか分かりません。だから、本来、上司は自ら情報収集するアクションが必要です。

 そのツールの一つが最近よく指摘される質問力です。部下が嘘をついたり、事実を隠蔽したりできるのは、意志決定者の質問力不足と信頼感の欠如の問題です。これは部下の問題ではなく、ガヴァナンスの中心にいるリーダーの姿勢が問われている問題です。

 では、信頼され、尊敬される上司になるにはどうしたらいいのか。日本では御神輿経営といって、誰が神輿(リーダー)を担ぐかを重視してきました。神輿に乗るリーダーは権威主義に陥るわけですが、これは日本だけでなく、途上国全般でも見られる典型的パターンです。

 この古く、間違った意識を「自ら組織だけでなく、その主役である部下を思いやり育て担いでいく」という意識へ転換する必要があります。リーダーは組織や自分ではなく、チームや部下のために働く精神に意識が切り変え、一方通行の報連相からの部下の双方向のフィードバックを重視し、信頼関係を醸成し直す必要があるという話です。これは海外でも役立つリーダーシップの考えです。

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