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バカンスはフランス人にとって生活の一部になっている 南仏ドラギニヨンにて(筆者撮影)

 今から30年以上前、経営コンサルタントをしている伯父から「退職してから第2の人生で何をしようかと考える人間は充実した老後は過ごせない」と言われ、それを徐々に今実感し始めています。今はフリーランスなので退職も第2の人生という区切りもありませんが、それでも自分が何をしている時に満足感を得られるかは分かっています。

 私の場合は、小学生の時から油絵を描き、一時は画家になろうと思った時期もあったので、40年前にやめた絵を再開し、結構楽しめています。それに完全に美術の世界から遠ざかっていたのではなく、20年以上、美術新聞にパリの展覧会情報の記事を書き続けています。

 妻の郷里のフランス西部ブルターニュ地方で行われた国際絵画コンクールに20年前に飛び入りで参加し、賞と賞金を貰い、小さな満足を得たこともありました。だから、どんなに疲れていても絵を描くと不思議に元気が出ることに最近気づき、伯父の言葉を噛みしめています。

 それも画家をめざしていた頃は野心もあり、過去にない絵画様式を世に問いかけたいなどと息巻いていましたが、今は無欲無心で観るモティーフに向き合い、素直に感動しながら描いているのがいいのかもしてません。楽しめなくなったら辞めればいいという構えです。

 描いた絵は、迷惑を承知で親戚や知り合いにプレゼントし、喜んで貰っているのも楽しみの一つです。人間にとってより多くの人に喜んでもらうことで得られる満足は、大きな生きる力になります。

 残念ながら、日本では長時間労働、過重労働を繰り返し、仕事中心に生きてきた多くのサラリーマンにとって、第2の人生を楽しめている人は少ないといいます。現役時代に仕事以外で心の底から満足できるものを探し出せなかったことも原因しているのではないでしょうか。

 では、人生を楽しむ天才といわれるフランス人はどうなのかというと、一概には言えませんが、日本人よりははるかに長い年平均24時間の有給休暇、週労働35時間制(最近は制度が崩れていますが)で、残業もなく、就業時間以外の仕事のメールのやりとりも禁止されているため、自分探しの時間がたっぷりあります。

 時々、フランス人の話を聞いていると、普通のサラリーマンが日本でいう退職後の嘱託か何かで適当に働いている状態と同じに見えたりするくらいです。一つ興味深いのは、人道支援などのボランティア活動に熱心なことです。人に喜んで貰うことで心の若さを保っているとも言えます。

 でも、そのボランティア活動も老後に始めたわけではなく、若い頃から週末や有給期間中にすでにしていることが多い。これまで2回、国際医療支援団体、国境なき医師団のパリ本部を取材していますが、ボランティアが講じて専従者になった人は少なくありません。

 ある財務担当者は、35歳まで銀行職員で週末だけ同団体で活動していたそうですが、銀行より国境なき医師団の活動がはるかに満足度が高かったので、給料は半分になったけど、専従することにして、「とにかく自分が誰かの役に立っていることを毎日実感できる」と今は非常に満足しているという話でした。

 日本もようやく会社のためでなく、自分や家族のために生きる比重が若者を中心に増しているのはいいことだと思います。世界一の男性中心社会の日本では仕事中心の人生観で社会全体が回っているのは確かですが、実は自分や家族の満足を追求することは、仕事の効率化や新しいアイディアを生むことにも繋がるというデータ的もあります。

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