アメリカのトランプ大統領が米朝首脳会談にのぞむ前、金正恩氏が真剣かどうか「1分で分かる」、結果が得られそうになければ「会談途中でも退席する」といい、「時間を無駄にしたくない」と発言したことは、欧米のビジネスマンが、よく口にすることです。

 私自身、大きなプロジェクトを抱え、某英国企業の担当者と交渉に入った際、相手は「お互い時間を無駄にしないために、最初にわが社ができることと、できないことをお伝えしておきたい」と切り出しました。事実、その交渉では彼らができることに絞ってプレゼンができ、有意義な時間を過ごせました。

 そんな経験を、トランプ氏の発言を聞いて思い出しました。国際的なディールでは、相手の事業内容や興味が見えないことも多く、そのすれ違いで無駄な時間を過ごすことも少なくありません。当然、相手のことを徹底して調べて交渉に望むのが基本ですが、それでも見えないものは多く、話してみないと分らないこともあります。
 
 「時間を無駄にしない」というのは、生産性という観点から重要なことです。より短い時間に多くの成果を出そうとする場合、時間はお金に相当します。企業は社員に残業させれば、残業代と事務所の電気代などの諸費用が嵩みます。そこでサービス残業を強いるか、効率性を究極まで高めるかの選択肢になるわけです。

 しかし、生産性や効率性を重視する欧米のビジネス文化の背景には、日本人が持つ労働観と決定的な違いがあること気付く人は少ないかもしれません。それは世界一働くことが好きではないフランス人から見ると、その違いがよく分かります。つまり、働くこと自体を最短に押さえ、プライベートを充実させたいという考え方です。

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 日本人の「時間を無駄にしない」意味は、「抱えている仕事はたくさんあるので、時間を無駄にしたくない」、つまり、忙しいので時間は無駄にしない方がいいという考えです。もちろん、欧米人も同じような考えはあります。

 ところがアメリカで「時間を無駄にしたくないから、面会時間は30分」とか言われたのに、面談後は退社して家族や友人たちとバーベキューを楽しむと聞かされると、「はあ?」と思う日本人ビジネスマンを少なくありません。

 もらえる時間が少ないのは相手にとっての優先順位が低いことを意味する場合は当然あったとしても、プライベートを優先するのは論外と考える日本人は少ないないでしょう。トランプ氏が北東アジアの安全保障にも関わる重要な米朝首脳会談に望む時、「時間を無駄にしたくない」と言いながら、早く帰国して、マイヤミの自分のゴルフコースでゴルフに興じていたらどうでしょうか。

 なんでも成果主義のトランプ氏にとっては、たとえばオバマ前政権が北朝鮮に騙され続け、努力が実らなかったことを無駄な時を過ごしたと非難しています。それは成果を生まない交渉に時間だけでなく、莫大な予算も費やした無駄も意味します。

 東洋人の時間感覚は、ポリクロニック(多元的同時並行志向)と言われ、時間管理よりも対人関係重視で対人関係が行動を規制し、約束の時間は流動的です。中国などアジア地域では人間関係構築に飲食などで多大な時間を使い、個人の時間を犠牲にすることも多々あります。

 モノクロニック(一元的単一志向)の欧米に比べ、東洋人は時間は確固たるものではなく、融通がきくもので流動的に捉えられています。それに長期間の人間関係を期待し、時間を掛けるのはそのための投資と捉える考えもあります。

 だからトランプ氏とゴルフをする安倍首相を見て、良好な関係は揺るぎないと思ってしまう。ところがビジネスも外交もそうですが、欧米ではプライベートと仕事は完全に分かれており、仕事では短期間の人間関係が基本で、結果によっては簡単に関係は切れてしまう。

 昔、中曽根首相とレーガン米大統領が「ロン・ヤス」と呼び合う関係だから、日米関係は良好と日本人は思いたがりましたが、国益を抱えた国家の長は、国益の相反が起きれば、そんな人間関係はあっと言う間に変わってします可能性があります。 

 たしかに無駄が豊かさを生むという考えもありますが、時間感覚が欧米とアジアで大きく違っているのも事実です。実際、クリントン政権時代に北朝鮮問題を担当したアメリカの高官の一人は「何度も北朝鮮の裏切りにあい、随分、無駄な時間を過ごした」と回想し、相当恨みに思っているようです。

 時間とお金を費やせば、それなりの代価を得るという合理的志向の裏に時間感覚の文化の違いがあることを理解するのも重要なことです。

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