Positive hand

 最近、日本では相撲やレスリング、アメフトなど体育系組織の指導問題が噴出し、パワハラやセクハラと結びつけて論じられることが多くなりました。同じように日本人が海外とか国内で異なった文化背景を持つ人々と協業するとき、2つの共通する問題があることに気付かされます。

 それは両者共にコミュニケーションに関わることですが、同時に日本人の精神文化に潜む負の遺産とも考えられます。1つ目はネガティブアプローチです。たとえば、タイやベトナムの職場で業務内容を説明した時は「分かりました」といったのに、実際にやり始めると、勝手に手順を変えたりするのは、日常茶飯事です。

 そんな現実に遭遇する日本人駐在員の中は「なぜ、順序を変えたのか。売り物にならない不良品ばかりができて会社が立ち行かなくなったら、お前たちも職を失うぞ」とか「そんな勝手なことを繰り返すんだったら、首になるぞ」と恐怖心を煽る指導をする人も見かけます。

 「こういう間違ったことをすれば、結果として恐ろしいことになるぞ」「会社とあなたに大変不都合なことが起きる」というネガティブアプローチです。日本では上司が部下の人格を傷つけるような指導や、完全否定するような指導をすることも多々あります。いわゆる体育会系に多く見かけるものです。

 国内外を問わず、文化的背景が違う人は、相手の真意を理解するのが困難です。だから、言葉の背後にあるものを読み取るのは、ほぼ不可能です。そのため、ネガティブアプローチは、相手に逆効果となる恐怖心を与え、モティべーションは落ちます。

 それは日本では小中学校の部活でも散見されます。「バカ野郎、死んでしまえ」とか「そんなことでは試合に出さないぞ」などとコーチにいわれることが当たり前で育った日本人は多いでしょう。叱咤激励やコーチの愛情が込められているといいますが、コーチ自身が自分の感情をコントロールできない場合の方が多いようにも見えます。

 2つ目は相手の人格を尊重しながら、自分の感情や意図を率直に伝えられず、問題を起こす例です。ネガティブアプローチも含まれることですが、一方的に相手に要求して伝わらず挫折したり、結果的に過剰に相手を気遣うあまり、何も指導できないなどという例もあります。

 その背景には、価値観や考え方というコンテクストの共有度の高い日本人特有の相手への忖度を期待する態度があります。それに最も気になるのは相手との優劣で優位に立とうとする人間を見かけることです。これは優秀といわれる人たちに多い悪例です。

 また、自分を主語とした「私言葉」ではなく、「会社としては」などといって、相手にプレッシャーを与えるケースもあります。いずれも文化的共有が望めない相手には効果はなく、結果も出せていないのが実情です。

 では、ポジティブアプローチとは何かといえば、最初にポジティブな目標を明確に示すことです。何か相手の間違いに気付いた時に、ポジティブな原点に立ち返って指導することです。つまり、「このようにすれば、もっと目標に近づける」「もっと高い評価を得られる」というポジティブなアプローチを心がけることです。

 さらに相手の人格を尊重し、自分の意図をしっかり伝えるためには、アサーティブな表現が有効と言われています。特に言葉の背後を読めない多文化環境では有効です。ではアサーティブとは何かというと相手への敬意、誠実、率直、責任の原則の4つの柱からなっています。

 この考えの生れた背景には多様性をどう受入れ、生かすかという課題がありました。そのため異文化環境でのコミュニケーションには特に有効です。つまり、相手の気持ちや考え、権利を尊重しながら、自分の要求や意見を率直に、誠実さを持ってシンプルに伝えるコミュニケーションスキルです。

 多様な意見に注意深く耳を傾け、同時に自分の伝えたいことも論理性を持ってしっかりと誠実に相手に伝えること、相手を攻撃したり、威嚇したり、自分との優劣を競ったりしないこと、常にポジティブで建設的アプローチをし、自分の立場を明確にし、責任の棲み分けを行うことです。

 そのためには相手への敬意や誠実さを前提とした自分の感情を率直に表現する「私言葉」で話すことが重要です。たとえば、部下に残業を頼むのに「今日は仕事が山積みだから皆残業するしかない」ではなく、「もし、会社に残って仕事してくれると、私は本当に助かる」とか「私はとても嬉しい」など私言葉で話すと、相手への印象は大きく変わります。

 私言葉で喋る時の注意は、自分の自己中心的なネガティブ感情をそのまま相手に出してはいけないということです。自己中心的感情は相手にはネガティブにしか伝わりません。ところが自分の本音を話す訓練がない日本人は私言葉で喋るのは苦手です。研修で挑戦してみるとその難しさは歴然としています。

 コミュニケーションスタイルの変更は簡単なことではありませんが、ポジティブアプローチで誠実さをもって率直に話すことは、オープンな対話環境を創り出します。異文化では、なんでも話せるオープンな環境作り自体が実は非常に難しいので、コミュニケーションスキル向上は重要な課題です。

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