
異文化理解で最も難しいのは、表面的には見えない明文化されていない価値観。それはその国の人間に長い年月の間にDNAとして刻まれ、コンテクスト(文脈)を形作り、同じ価値観が共有され、共感していることです。たとえば日本人の多くは「人生は修行だ」という考えに共感しています。
8月25日に脳腫瘍のためアメリカのジョン・マケイン上院議員が81歳で死去しました。ベトナム戦争で1967年10月にハノイ上空で搭乗機が撃墜され、瀕死の状態で捕虜となり、拷問を受けながら、生還したマケイン氏は「英雄」となり、米政界に進出し、大統領選に挑戦し、国民から尊敬を集めた人物でした。
英雄、マケイン氏の死に際し、アメリカの全てのメディアは近年、最大級の賛辞を送っています。それは外国人から見れば、ちょっとやりすぎではと思うほどです。一方、共和党上院議員でありながらトランプ大統領と厳しく対立したマケイン氏の死に対して、ホワイトハウスの追悼の反旗が1日で戻されたり、トランプ氏が沈黙する姿に批判が集中しています。
最近、トランプ氏の側近中の側近で、2016年のアメリカ大統領選で選対本部長を務めたマナフォート氏に有罪の評決下され、トランプ氏の元個人弁護士コーエン氏が自らの罪を認めたことで、追い詰められているトランプ大統領ですが、マケイン氏をめぐる対応では、多くの国民にそのスキャンダル以上の失望を与えているように見えます。
まず、アメリカ人は、世界のどの国より、英雄(ヒーロー)の好きな国です。ヒーローをタイトルとした映画、TVドラマ、歌は多く、アメリカ人は誰もがヒーローになりたがっているといわれるくらいです。それも最高の栄誉は「国のヒーロー」になることで、マケイン氏は近年では彼の右に出るものはいません。
実は、その国で最も見えにくく、理解しにくい国民の心の奥深くに存在する価値観を知る手がかりは、その国のヒーローを研究することといわれています。その国の人間が異なった政治信条やさまざまな批判に耐え、長年ヒーローとして残ってきた人物を知れば、その国の国民の価値観を垣間見ることができるというわけです。
マケイン氏を特徴づけるのは、祖父の代からの軍人でベトナム戦争で捕虜となり、北ベトナム軍が捕虜のマケイン氏が大物軍司令官の息子だと気づき、アメリカとの交渉のカードに使おうと早期帰還を提案した時、先に捕虜となった者から解放するというアメリカ軍の規約にこだわり、帰還を拒否したことが、その後の高潔な政治家のイメージに繋がっています。
常に逆境に正面から立ち向かったマケイン氏は、率直な語り口の持ち主で良識と分別、バランス感覚を重視する保守政治家と評され、時には伝統保守の共和党議員と衝突することも多く、政界の「異端児」と呼ばれ、本人もそう呼ばるのを好んだといわれます。
その誰に媚びることもなく、自分が信じる正義を貫く信念の人こそ、アメリカ人が最も好むヒーローです。多くのアメリカ映画で、組織におもねることなく、腐敗を許さず信念を貫いて行動する警官などを主人公とした映画が作られ続けるのも、それが彼らにとって重要な生きざまだと多くのアメリカ人が考えているからです。
その一方で、結果を出すために政治信条の異なる民主党との取引や譲歩も受け入れる、交渉の達人といわれました。彼の人生の頂点は、2008年の大統領選で共和党候補となり、オバマ前大統領と戦ったことです。その大統領選で支持者の中にオバマ氏をアラブ系として軽蔑する声を聞き、大統領選では珍しく、「いや、彼は立派な尊敬に値するアメリカ人だ」と述べたことも評価を挙げました。
最後は、トランプ政権になって、トランプ氏の推進する医療保険制度改革法(オバマケア)と低所得層向け医療保険(メディケイド)の改革に共和党員でありながら反対票を投じ、その議会での投票の様子が何度も全米で流されました。
アメリカ人が好むリーダーは、旧約聖書に出てくるモーゼに例えられ、あくまで自分の信念をまげずに貫き通す人物です。そんな「一匹おおかみ」だったマケイン氏は今、ヒーローと崇められ、民主党のクリントン元国務長官でさえ、賛辞を送っています。
マケイン氏はアメリカ人が好む率直さを貫いたわけですが、死ぬまで対立を続けたトランプ氏も率直な物言いでは負けていません。2人は政治家特有の常に発言の裏に何かがあるというような人間ではないところが支持を高めていると言えます。
アメリカン・ヒーローの最も重要な点は、献身的な愛国心とアメリカは神の特別なミッションを持つ特例の国という信念です。これもマケイン氏の核心的部分でした。アメリカの正当性を信じ、アメリカが偉大な国であり続けることを本気で信じ行動したヒーローだったわけです。
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まず、アメリカ人は、世界のどの国より、英雄(ヒーロー)の好きな国です。ヒーローをタイトルとした映画、TVドラマ、歌は多く、アメリカ人は誰もがヒーローになりたがっているといわれるくらいです。それも最高の栄誉は「国のヒーロー」になることで、マケイン氏は近年では彼の右に出るものはいません。
実は、その国で最も見えにくく、理解しにくい国民の心の奥深くに存在する価値観を知る手がかりは、その国のヒーローを研究することといわれています。その国の人間が異なった政治信条やさまざまな批判に耐え、長年ヒーローとして残ってきた人物を知れば、その国の国民の価値観を垣間見ることができるというわけです。
マケイン氏を特徴づけるのは、祖父の代からの軍人でベトナム戦争で捕虜となり、北ベトナム軍が捕虜のマケイン氏が大物軍司令官の息子だと気づき、アメリカとの交渉のカードに使おうと早期帰還を提案した時、先に捕虜となった者から解放するというアメリカ軍の規約にこだわり、帰還を拒否したことが、その後の高潔な政治家のイメージに繋がっています。
常に逆境に正面から立ち向かったマケイン氏は、率直な語り口の持ち主で良識と分別、バランス感覚を重視する保守政治家と評され、時には伝統保守の共和党議員と衝突することも多く、政界の「異端児」と呼ばれ、本人もそう呼ばるのを好んだといわれます。
その誰に媚びることもなく、自分が信じる正義を貫く信念の人こそ、アメリカ人が最も好むヒーローです。多くのアメリカ映画で、組織におもねることなく、腐敗を許さず信念を貫いて行動する警官などを主人公とした映画が作られ続けるのも、それが彼らにとって重要な生きざまだと多くのアメリカ人が考えているからです。
その一方で、結果を出すために政治信条の異なる民主党との取引や譲歩も受け入れる、交渉の達人といわれました。彼の人生の頂点は、2008年の大統領選で共和党候補となり、オバマ前大統領と戦ったことです。その大統領選で支持者の中にオバマ氏をアラブ系として軽蔑する声を聞き、大統領選では珍しく、「いや、彼は立派な尊敬に値するアメリカ人だ」と述べたことも評価を挙げました。
最後は、トランプ政権になって、トランプ氏の推進する医療保険制度改革法(オバマケア)と低所得層向け医療保険(メディケイド)の改革に共和党員でありながら反対票を投じ、その議会での投票の様子が何度も全米で流されました。
アメリカ人が好むリーダーは、旧約聖書に出てくるモーゼに例えられ、あくまで自分の信念をまげずに貫き通す人物です。そんな「一匹おおかみ」だったマケイン氏は今、ヒーローと崇められ、民主党のクリントン元国務長官でさえ、賛辞を送っています。
マケイン氏はアメリカ人が好む率直さを貫いたわけですが、死ぬまで対立を続けたトランプ氏も率直な物言いでは負けていません。2人は政治家特有の常に発言の裏に何かがあるというような人間ではないところが支持を高めていると言えます。
アメリカン・ヒーローの最も重要な点は、献身的な愛国心とアメリカは神の特別なミッションを持つ特例の国という信念です。これもマケイン氏の核心的部分でした。アメリカの正当性を信じ、アメリカが偉大な国であり続けることを本気で信じ行動したヒーローだったわけです。
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