made-in-china-156842_960_720

 私たちの身の回りにある衣服、玩具、調度品は「中国製」であふれ返っている。あるアメリカの調査会社は、「アメリカ製」を増やすことをめざすトランプ大統領の主張に従って、アメリカの玩具メーカーを調べたら、「アメリカ製」を表示するとすれば、非常に高額になるため不可能と結論づけたという話がありました。

 2016年のアメリカの選挙期間中、トランプ氏のネックタイが中国製だったとか、米軍に軍用ブーツを納品していた米メーカーが、中国製ブーツをアメリカ製に偽装していたことが発覚し、起訴されたことが話題となったりしました。

 実は、フランスでも、たとえば服飾業界では、フランス製ラベル表示の製品の方が圧倒的にブランド力があるため、法的に許されるギリギリの範囲で最終行程をフランスで行い、フランス製として売っているケースがあります。また、フランス製だけを売る専門店もあります。特に急増する中国人観光客が、フランス製にこだわるため、メーカーも努力しているわけです。

 米ウォールストリートジャーナルは、中国及びアジアの生活レベルが向上し、消費者の贅沢志向の高まりを受け、中国メーカーがブランド力を高めるため、中国より高額な製造コストのかかる日本に工場を誘致し、日本製ラベルを獲得しようとしていると伝えています。
 上海慎興制刷有限公司は大阪に工場を開設し、中国で販売する歯ブラシを生産する方針を決めたといいます。同社の汪霖・執行董事は「中国の生活のレベルは上がっている。みんな良いものが欲しい」「日本製のものはイメージが良い」と誘致の理由を説明しています。

 「人は安くて高品質の製品を求める」という経済原則で世界の工場になった中国ですが、今度は「人はイメージに金を払う」という理由から、イメージのいいラベル表示のために労働賃金の高い日本やフランスで生産し、高額で売るという商法が台頭する時代を迎えたようです。

 この現象は、生産拠点としては見捨てられていた日本の再生のチャンスとも言えますが、中国メーカーが今後、次々に日本に生産拠点を作れば、かつて中国が格安の労賃で世界の一流企業の工場誘致に成功したように、高品質などのイメージ戦略で日本が中国の企業を惹きつける時代が来ているともいえます。

 見方を帰れば、日本はとうとう中国メーカーの生産拠点に成り下がったと見ることもできます。フランスも同じことがいえ、ワイナリーが次々に買収され、中国企業傘下で働くフランス人生産者は中国人の気に入るように味に調整し、銘柄まで変えさせられて生産に従事している現実がすでにあります。

 グローバル化というのは、このような現実を指すわけですが、日本人が中国メーカーに使われる存在になることに反発し、ついていけない人も当然出てくるわけです。実はアメリカ人はかつて太平洋戦争で敵だった日本、白人よりワンランク下と見られていた日本の企業がアメリカに進出した時に、同じような感情を味わっています。

 1980年代後半、ミシガン州やイリノイ州など5州を取材した時、日本企業で働くアメリカ人に「日系企業で働くことをどう感じるか」と聞くと「この会社はアメリカ企業だ」と言い返されたことを覚えています。アメリカ人には屈辱的でもあった日本企業の進出に複雑な思いだったことが分かります。

 しかし、同時にジャパンバッシングが厳しかったアメリカで、ワシントンの連邦政府の敵対的態度とは逆に、多くの州は日本企業誘致に積極的でした。当時の取材も州政府の依頼で行ったものでした。

 無論、今、日本に生産拠点を誘致するのは中国メーカーだけではなく、資生堂は1983年以来となる国内の新工場を2カ所で建設中だといいます。理由は日本の消費の伸びと同時に日本を訪れる中国人観光客が日本製の資生堂化粧品を買いたがっていることもあるとしています。

 今でも中国に生産拠点を置く日本企業は、日本でしかできない精密で高度な技術が必要なパーツを日本から中国工場に送っている現実があります。これを全て中国で生産するのは時間が掛かるだけでなく、技術流出を防ぐということが大きいの現実です。

 中国メーカーの製品が中国だけでなく、日本で日本製として売られる時代も来るのかもしれない。果たして日本人は、そのような製品を買うのでしょうか。

ブログ内関連記事
仏ワイナリーを買い漁る中国企業のマネーロンダリングの実態
中国政府も火消しに躍起なZTE問題だが中国企業への不信感は消えそうもない
中国ハイテク産業脅威論はないとする米金融専門家の分析の信頼度