米ウォーターゲート事件の徹底した調査報道で、ニクソン大統領(当時)を退任に追い込んだワシンポスト誌のボブ・ウッドワード氏が書いたトランプ政権の暴露本が、ホワイトハウスを震撼させている。アメリカだけでなく世界の命運に最も大きな影響を与えるアメリカの大統領への注目度は非常に高いといえます。
匿名を前提に職員を徹底取材したというウッドワード氏の新著「Fear: Trump in the White House(恐怖:ホワイトハウスのトランプ)」の中身は、現政権の中枢部で働く人々が、トランプ氏の理解不能な言動に振り回され、まるで政権執行部はトランプ氏からアメリカ及び政権を守ることに日々、奔走し、ノイローゼ状態にあると描き出しています。
トランプ氏支持者は、大統領はホワイトハウスのエスタブリッシュメントたちが長年掛けて築いてきた腐敗した悪習を一掃するために戦っているのだから、ホワイトハウス職員のトランプ氏への嫌悪は当然といっています。インタビューされれれば不満や批判を吹き出してくることは、反トランプメディア(これがほとんどだが)も認めています。
逆にいえば、ウォーターゲート事件からホワイトハウスを取材し続ける75歳の老練な記者、ウッドワード氏は、アメリカの政治の表も裏も知り尽くした人物であり、皮肉にも彼自身が旧来のホワイトハウスの擁護者になっており、時代の変化を読み取れなくなっている可能性もあるという指摘もあります。
それにウッドワード氏が生涯を捧げるワシントンポスト紙は、ニューヨークタイムズ紙と並ぶリベラルを売りにする民主党系メディアであり、映画にもなったウォーターゲート事件での彼の活躍は、ベトナム戦争でリベラルな反戦運動が高まる中、反共主義者で共和党のニクソン氏を葬るための調査報道だったことは記憶に止めるべきでしょう。
同時に、ウォーターゲート事件に取り組んだのは30代半ばで正義感も強く、不正を許せないジャーナリスト魂が燃えていたと思われますが、果たして今はどうでしょうか。メディアもまた権力であり、大物ジャーナリストとして政治家も恐れる地位を確立した彼の正義感、思想的フィルターはどう変化しているのか、同業者としては興味あるところです。
皮肉にも旧来のホワイトハウスの擁護者になっているウッドワード氏から分裂病のように書かれたトランプ大統領は、中間選挙を前に、まるで大統領への信任投票を行う選挙の様相を呈しています。
大半のアメリカ人は、国外問題に関心を持たないため、トランプ政権の内政が中間選挙では問われるわけですが、世界の関心はアメリカ外交にあります。外交ではトランプ政権は中国に対して、ここ数カ月、敵意をむき出しにしており、ロシアに対しても徐々に厳しい態度をとり始めています。
これは、トランプ政権がアメリカ第1主義だということもありますが、アメリカに最大の不利益をもたらしているのは中国という認識を鮮明にしたということです。社会主義国家、中国の覇権主義はアメリカにとってだけでなく、世界にとって憂慮すべき危険なものだという認識は、オバマ政権で失ったアメリカの価値観を復活させる結果にもなっています。
このアメリカの一貫性こそが、今のところ自由と民主主義という人間にとって最も重要な価値観を守る唯一の方法であるといえます。トランプ氏はアメリカの利益だけに注目しているかのように見られがちですが、そもそもアメリカが国際社会から引き上げること自体が、アメリカに不利益をもたらす現実も無視できません。
その意味で、私はトランプ政権の正当性を計るバロメーターは、対中、対露政策にあると見ています。もし、トランプ氏が経済的理由だけで中国やロシアに歩み寄るようなことがあれば、トランプ政権は正当性を失い、アメリカと世界はカオス状態に陥る可能性が高いという話です。
前オバマ政権は人権外交で対中、対露外交を展開し、関係は一貫して冷え込んだものでしたが、積極的に中国やロシアを追い詰めることをしなかったために、逆に彼らは力を蓄えたのも事実です。トランプ政権が、この状況を打破できるかが世界にとって重要な鍵になっているといえるでしょう。
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逆にいえば、ウォーターゲート事件からホワイトハウスを取材し続ける75歳の老練な記者、ウッドワード氏は、アメリカの政治の表も裏も知り尽くした人物であり、皮肉にも彼自身が旧来のホワイトハウスの擁護者になっており、時代の変化を読み取れなくなっている可能性もあるという指摘もあります。
それにウッドワード氏が生涯を捧げるワシントンポスト紙は、ニューヨークタイムズ紙と並ぶリベラルを売りにする民主党系メディアであり、映画にもなったウォーターゲート事件での彼の活躍は、ベトナム戦争でリベラルな反戦運動が高まる中、反共主義者で共和党のニクソン氏を葬るための調査報道だったことは記憶に止めるべきでしょう。
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