米中貿易戦争がエスカレートする中、経済冷戦に突入する懸念が指摘されています。しかし、イデオロギー冷戦の時代のような自由主義陣営と社会主義陣営という単純な構図ではなく、経済と保守、リベラルの三つ巴の対立構造があり、世界は複雑さを増しているように見えます。

 経済冷戦は、今や世界第2位の経済大国を豪語する中国と偉大な国をめざすアメリカとの対立ですが、中国の後ろには冷戦時代同様、大国への返り咲きをめざすロシアが控えています。3つの国は大国志向が強く覇権主義的で、冷戦時代からの対立も引きずっています。

 しかし、もう一つの対立軸は、自由主義陣営内で起きている保守とリベラルの対立で、それはアメリカ国内では顕著で、ヨーロッパにも拡がっています。保守は基本的にその国の歴史的価値観を尊重する考えなので、日本を除く、欧米、オーストラリア、ニュージーランドはキリスト教精神に基づいています。

 欧米におけるリベラルは、そのキリスト教的価値観から生れた基本的人権や人道主義を基本とし、純潔主義や同性愛否定、中絶禁止、進化論の否定など、キリスト教の宗教的価値観に基づく部分からは自由(リベラル)になるべきだと主張しています。

Three side conflict

 たとえば、ニュージーランドのアーダーン首相が生後3カ月の乳児を連れて24日の国連総会に出席しました。同首相は首相在任中に関わらず出産休暇を取ったことで有名になりました。保守派からみれば、重責を担う国家元首がプライベートを優先させ、権利を主張するのはリベラルということになります。

 カナダのトルドー首相は、左肩にタトゥーを入れ、ワークライフバランス重視から、2016年5月の伊勢志摩サミットで来日した際にも、結婚記念日のために1日休暇をとり、妻と三重県の青峰山を登りました。彼は、LGBTへの理解者であり、フェミニストを公言しており、閣僚の男女比を同じするとか、ゲイや障害を持つ人を閣僚に任命しています。リベラル派の代表格です。

 フランスでは最近、同性カップルへの生殖医療解禁が議論になっています。しかし、保守派の論客は「LGBTは病気ではないので、医療保険を使うのには反対」という意見が出ています。「このまま、なんでも認めて国の税金を投入すると国は持ちこたえられない」と警告する人もいます。

 最も保守とリベラルの対立が顕著なのはアメリカですが、最初に問題を整理しておく必要があります。アメリカはヨーロッパ移民、特にピューリタンの精神が大きく影響しています。それもヨーロッパのキリスト教の腐敗を嫌って移民したのがピューリタンですから、純粋にキリスト教的価値観を体現しようとしたという意味では、キリスト教保守です。

 しかし、ヨーロッパの古い伝統を捨てて、新しい国作りをしたという意味では、リベラルです。国は普通、長い歴史の中で宗教だけでなく、政治や経済、風土、民族の移動などさまざまな要素が積み重なって、伝統が形作られているわけですから、そこを抜け出したという意味ではリベラルです。

 そんなアメリカの保守とリベラルの対立は、キリスト教保守とリベラルの極端な対立で、特に人権を巡る問題は、いつも議論の中心にあります。特にオバマ前大統領や、2016年の大統領の民主党候補だったクリントン元米国務長官はアメリカのリベラルを体現した人物です。

 実は、アメリカのリベラル派が、ロシアや中国と近いかというと、まったくそうですないところが、私がいう三つ巴の意味です。プーチン露大統領が国務長官時代のクリントン氏を市場に毛嫌いしていたのは有名な話です。プーチンにとって人権外交をかざすクリントンは鬱陶しい存在でした。ロシアでは同性愛者は差別の対象です。

 中国も人権外交が嫌いで、オバマ政権時代は米中関係が冷え込んだままで対話もできない状態でした。共産主義は宗教を阿片として否定してきたので、キリスト教保守派の世界観は、まったく受け入れられないのですが、そのキリスト教から生れたリベラルなヒューマニズムも受け入れられないわけです。

 アメリカで顕在化した保守とリベラルの鋭い対立、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど多文化共存主義の国のリベラルな動きは、経済冷戦だけでは見えない対立軸を作っているように私には見えます。

 無論、加えてイスラム教などの宗教対立や民族対立、地球上に存在する貧富の極端な差が生む対立も無視できないものがあります。

    しかし、キリスト教でもない日本の保守、リベラルは別物です。アメリカ保守に寄り添ってきた日本ですが、世界の対立の構図では蚊帳の外にいる感も否めせん。その特殊な立ち位置が有利に働くのか、不利に働くかでしょう。

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