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 アメリカのマイク・ペンス副大統領は4日、保守系シンクタンク・ハドソン研究所で、中国を厳しく批判する演説を行い、注目を集めました。ペンス氏はアメリカの伝統保守を代表する政治家ですが、演説は対立する民主党などのリベラル派でさえ、認めざるを得ない米中関係の現状を的確に言い当てたもので、世界が深刻な「中国問題」を抱えている現状を浮き彫りにしたものでした。

 ペンス副大統領の指摘は、中国が経済力を乱用して米国の技術を盗み、中国の経済発展を支援してきた米企業に圧力をかけ、近隣諸国を脅かし、南シナ海を軍事拠点化し、国内の宗教信者を迫害していると露骨に非難しました。そのどれもが間違っておらず、正確な情報に裏付けられた事実であると思われますが、中国は側はいつものようにその全てを否定しています。

 8日に、北朝鮮の非核化への支援要請のために中国を訪れたアメリカのポンペオ国務長官に対して、出迎えた王毅外相は、アメリカがしかける貿易関税を巡る圧力に強い不快感を表明し、習近平国家主席との会談もありませんでした。中国側は否定していますが、アメリカが態度を変えない限り、朝鮮半島問題での協力もしないという態度でした。

 ペンス氏は「中国が経済自由化により、われわれにとって、そして世界にとって、より素晴らしいパートナーになることを米国は期待していた」「ところが中国は経済的侵略の道を選び、それが拡大する中国軍を勢い付かせている」と言明しました。

 無論、私から見れば、そんなことは最初から分かっていたことで、私は20年前から、欧米諸国も、それに追随した日本も、中国を見誤っていると警告する原稿を書いてきました。つまり欧米大国の読みは、中国が改革開放経済を進めれば、貧富の差が拡大し、人々は豊かさを求め、自由を要求し、やがて共産党一党独裁を捨て、自由主義陣営の良きパートナーになるというのは嘘だというものです。

 実際に中国に映る世界は、経済力、軍事力を持つ国が自分の都合のいいように世界のルールを決め、全ての利益が自国に集るという帝国主義時代の19世紀の思考を持ち、南シナ海への主権拡大を批判されれば、「あれはアメルかが勝手に引いた領海線で、あそこはもともとの中国のもの」と主張することに、よく表れています。

 メディアが最も注目したペンス氏の指摘は、中国の米中間選挙への介入でトランプ大統領の再選を阻もうと画策しているというものです。この発言は当然、国家安全保障会議(NSC)や、中央情報局(CIA)などの諜報機関の裏付けのあってのものだと思われます。

 対中強硬派のトランプ政権の再選阻止のため、ありとあらゆる方法で攻撃を試みているというものでした。それも莫大な資金を中国政府は投じ、アメリカの企業、映画会社、大学、シンクタンク、学者、研究者、ジャーナリスト、そして地方・州・連邦の政府当局者に見返りを与え、組織的に介入しようとしているという指摘です。

 日本製品が世界で台頭し、アメリカ企業を脅かした1980年代のジャパンバッシングを思い出す人もいるかもしれませんが、まったく次元が異なっている。なぜなら当時の日本は経済的繁栄には興味があっても、政治外交的に世界的優位に立とうという野心はなかったからです。それにアメリカの民主主義に介入しようなど考えもしなかった。

 確かに今の中国は債務残高は増大し、経済成長も鈍化どころか、危機に陥る可能性もあり、株価も債券も人民元も下落しています。国民生活が苦しくなれば、終身の権力を手にしている習近平体制への不満が噴出する可能性も今後ないわけではないという国内事情もあります。

 ペンス氏は膨大な投資から生れたアメリカの技術を、卑怯な手口で盗み続けていると主張していますが、中国技術専門家は「高度な次元で他国から技術を盗めるまでに成長したと評価してほしい」と呆れる発言をしています。しかも、そこに罪悪感が一切ありません。

 米ウォールストリートジャーナルは、ペンス氏の演説を受け、米中関係は東西冷戦時代の米ソ関係と違い、抜き差しならない経済関係の縛りもあり「アメリカと中国には平和的な共存を目指すのに十分な理由となる経済的結び付きがある」ことも指摘している一方、「米中の共存が緊張状態にあり、その状態が今後も継続する可能性がある」とも書いています。

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