米東部ペンシルベニア州ピッツバーグで起きたシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)銃乱射事件で10月30日、トランプ米大統領とメラニア夫人が事件現場を訪問し、犠牲者を追悼しました。一方、現場周辺では、トランプ氏の過激発言がヘイトクライムを誘発したとして、LGBT支持者などが抗議デモを行い、多文化共存、寛容さを訴えました。

 同じ時期、韓国では司法が徴用工訴訟で、日本との日韓請求権協定を反故にする最終判決を下したことで、日本の韓国への不信感が強まっています。そこで考えなければならない問題の一つは、アメリカ・リベラル派が主張する多文化主義の価値観や、法の持つ普遍性をどう扱うかということです。

 これはグローバルビジネスでの契約に強い影響を与える問題なのですが、リーガルコードより、モラルコードを優先する日本では、あまり注意が払われない問題です。

 分かりやすくいえば、契約時に非常に細かい項目を相手を疑うアプローチで積み上げ、その遵守を求める欧米の契約重視文化と、契約は、まずは相手のモラルを信じ、信頼することから初め、紳士協定的意味合いが強く、契約後の修正も柔軟に行う日本のモラル優先の契約文化の違いがあるという話です。

 欧米の契約社会を支えるのは、人権思想や公正さ、正義を基盤とする法治国家の普遍性ですが、前提は「人は自由を与えられれば、どんな良い心を持った人も悪いことをしてしまう可能性がある」という性悪説が前提となっていることです。

 異文化研究で、ホフステードの文化の指数化とともに有名なトランペナーズの「普遍主義と個別主義は」は欧米のビジネススクールやグローバルビジネス研修で、よく使われていますが、日本で関心が払われることの少ないテーマです。

Universalism

 トランペナーズによると、普遍主義が世界で最も強いのは北欧フィンランドで、2位はスウェーデン、3位はカナダで上位の多くは欧米諸国です。その上位に食い込んでいるのがマレーシアなどのイスラム圏です。日本は調査対象31か国中、21番目で、中国は25位、韓国は29位で個別主義的考えが非常に強いとなっています。

 普遍主義的傾向の非常に強い国は、北欧、 スイス、アメリカ、英国、オランダ、ドイツなどで、普遍主義より個別主義が強い国は、 韓国、ロシア、中国、インド、個別主義より普遍主義が比較的強い国は フランス、ベルギー、スペイン、日本という感じです。

 ここでいう普遍性は、国や民族、風土に関わらず、人間なら誰にでも適応できる価値観ということで、普遍性を強調する宗教と深く結びついています。普遍主義が強い国は契約重視でルールを好み、例外を認めないという特徴があり、キリスト教プロテスタント系の国が多く、個別主義的は、契約やルールより状況によって判断し、人間関係を重視する傾向が強いといえます。

 アメリカは普遍主義の強い国ですが、実はその普遍主義であるが故に国を2分する対立が国内で起きています。それはアメリカを神が準備した国として、キリスト教、ユダヤ教の価値観を最優先するトランプ氏の価値観と、人種や性的マイノリティーという多様性こそアメリカの価値として、それを作り出す寛容さを全面に掲げた普遍主義の対立です。

 一方、韓国は今回、日本との国際協定を軽視する態度に出たわけですが、彼らにとっての法やルール、約束事は状況によって、どうにでも解釈を変えられるというの個別主義の性格が出た形です。日本は西洋に学び、戦後はアメリカの支配を受け、本来は個別主義の国だったわけですが、今は欧米の普遍主義に近い考えと、直接宗教とは関係のない国民の良識やモラルに支えられた社会になっています。

 普遍主義は自らの価値観を相手に押しつけがちで、融通が利かないデメリットがある反面、メリットは非常に強い確信が持て、マニュアル化しやすいことです。逆に個別主義のデメリットは個別にしか当てはまらず、日本企業のように各企業が個別の企業文化を持つために転職できず、マネジメント手法を異なり、マニュアル化しにくことですが、メリットは状況に合わせた柔軟性が持てることです。

 問題は日本は遵法意識や普遍主義の低いアジア諸国に囲まれており、日本が学んだリーガルコードの普遍的ルールは通じにくい環境にあるということです。企業も進出先の国で多くの訴訟を抱えていますが、あまり普遍性がなく、政府に都合のいい法律も多く、それも頻繁に変えられるという状況下でビジネスをしている例は少なくありません。

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