Europe-Brexit

 英内閣が14日、欧州連合(EU)離脱合意草案を承認したことを受け、EUのバルニエ主席交渉官は「秩序ある離脱に向けて極めて重要な一歩になった」と評価、EU側も同日、大使級会合を開いて合意案を承認しました。ところが翌日、英国では7人の閣僚が辞任し、メイ政権は危機的状況に陥っています。

 15日朝に離脱交渉に責任を負うラーブ離脱担当相が辞任を表明し、その後、前日には合意したはずの閣僚6人が次々にが辞任を表明し、メイ首相は後任選びに奔走する羽目になりました。その後の議会も大荒れ状態で、保守党内からも批判の声が続出する騒ぎになりました。

 英メディアも蜂の巣をつついたような報道が続き、保守党内の辞任を迫る離脱強硬派議員の動きを伝え、国民投票以降、最大の危機的状況に陥っていると報じています。英国は国民投票以降、最悪の危機的状況のまま週末を迎えました。

 メイ首相への不信任をめざす離脱強硬派は、メイ首相の最終合意案は「英国がEUの脅しに屈し、関税同盟などで今後、いつまでもEUの支配を受けることになる」とか「英領北アイルランドが、アイルランドとの国境問題でEUの人質に捕られた」と批判し、完全な主権を回復できない妥協だらけの産物と強く批判しています。

 逆にメイ首相は「全てに満足する結果でないことは承知しているが、英国の国益を最大限守る合意になっている」「EU在住の英国人も、英国在住のEU市民も身分が保障され、不安は払拭されている」と国民の理解を求めていますが、火消しにはほど遠い状況です。

 この1年、フランスなどの国籍を取得する英国籍者が急増し、合意なき離脱(ノーディール・ブレグジット)に備えています。彼らは自分の生活を守るだけでなく、「英国人である前に欧州人であいたい」という人が大半です。

 スペインの英領ジブラルタルでは、スペイン人9,000人が国境を毎日超えてジブラルタルで働いていて、仕事を失うことや税制、社会保障などで不安が拡がっています。ジブラルタルにある国際企業が欧州に拠点を移せば、働く先を失うことにもなりかねません。

 メイ首相がとりまとめた草案を支持する英政界、財界の人々は、まず、ハードエグジットは望んでおらず、特に財界は関税を含め、欧州との通商関係の維持を望んでいます。メイ首相が批判されている理由の一つは、彼女自身、国民投票後に首相に就任した時、ハードエグジットを約束していたからです。

 だからこそ、離脱強硬派は、メイ首相はEUの脅しに屈したと批判しているわけです。しかし、国民投票直後、果たして、その後の交渉の過程で出てきた山のような難問を想定できたでしょうか。EUは確かに英国の残留を今でも望んでいますが、EUも加盟国の国益を守り、EU主権の原則を死守しなければなりません。

 日本は、地球の反対側で起きている出来事として、今では関心は薄れているようですが、ブレグジットの影響は欧州の日系企業を直撃し、ノーディールが引き起こすカオスは、英国やEU経済だけでなく、世界経済に深刻なダメージを与える可能性があります。

 もう一つ気になることは、私の取材では一部のエリート層や、直接影響のある企業経営者、外国人労働者を除けば、ブレグジットの合意の中身への関心はそれほど高くないということです。英国は島国だという点や欧州内でも最も階層性の強い国という点で、マクロ的に物事を見れる人は多くなく、一部の意識の高い若者を除けば、エリート政治家や官僚まかせという側面もあります。

 無論、ブレグジットに関わる技術的問題は法律家など専門家にしか分らないことですが、最も議論が尽くされていないといわれる英国とEUの将来像については、EU側は自分の意志で勝手にEUを出て行く英国が考えることとしていますが、実はEUも発足以来始めて離脱を扱う状況の中、将来像は真剣に考える必要がありそうです。

 今後のシナリオとしては、メイ首相が不信任で退陣し、離脱強硬派が政権中枢を握れば、ノーディールの離脱の可能性が高まるか、メイ首相が持ちこたえ、なんとか草案が多少の修正で議会で可決され、EUとの合意にこぎ着けるか、可能性の低い国民投票を再度行うかです。英メディアの多くは何も予想できない状況だとしています。

ブログ内関連記事
合意をめざす英国のEU離脱協議 関税同盟残留案で最終決着の可能性は?
ヤマ場の英EU離脱交渉 北アイルランド問題でメイ政権崩壊の不吉なシナリオが急浮上
国家の命運が掛かるブレグジットだが、英国内には楽観論も多いEUは合意なきブレグジットへ備え、具体的対応策を練り始めている