韓国が、またも日韓関係にヒビをいえる残念な行動に出たことで、未来志向のはずの両国の友好関係は遠のいた感があります。韓国政府は21日、慰安婦問題を巡る2015年の日韓合意に基づく元慰安婦支援のための「和解・癒やし財団」の解散を発表し、日本が拠出した10億円の行方も注目されています。
日韓関係は、従軍慰安婦をめぐる日韓合意だけでなく、元徴用工らによる日本企業への訴訟、竹島問題など、解決の目途の立たない問題の悪化が懸念されています。両国の経済関係には、今のところ直接的影響は認められませんが、徴用工の賠償金問題が加速し、韓国政府が放置すれば、日本企業の撤退もありうるかもしれません。
グローバルビジネスのリスクは、このような問題をどう捉えるかですが、その背景にある異文化理解が重要です。そこで重視される第1歩が相手国やその国民への固定観念や偏見の排除です。特にネガティブな固定観念は、ポジティブなものより、繁殖力が強く、癌のように拡がり、理解することを断念させる力を持っています。
ところが、一旦できた固定観念は容易に取り去ることはできないし、自分の中に存在する子供の時から培われた価値観は、いったん横に置くようにいわれても、物事を判断する基準になっているために簡単には価値判断を保留することはできません。
それに固定観念とは別に客観性を持った相手の国や国民に対する事前情報は、深刻な衝突を避けるためには絶対必要です。中東の人が頭を横に振るのは「イエス」の意味ということや、タイで相手の頭を触るのは聖なる場所を汚すとか、韓国で竹島問題を口にしたら議論が収まらなくなるなど、やってはいけないことは事前に知って置くべきです。
人間の常として、今回の韓国の従軍慰安婦像の急増のニュースや、中国の南シナ海での強引な軍事基地拡大は、人間が組織として動く場合に生じるものです。世界のどこにいっても、基本的に個人的には「いい人」の場合が多く、それが組織や国家絡みになると別なレベルになり、深刻な対立を産みやすい傾向があります。
それに今の時代は、理性的にはグローバルな相互理解は情報の豊富やコミュニケーション手段の発達で友好な関係を築きやすい一方、感情面ではドメスティックなものに支配されやすい現状があります。経済のグローバル化への希望と不安の関係もそうですし、英国人が欧州連合(EU)離脱を決めたことも同じように読むことができます。
とはいえ、ドメスティックな感情は軽視もできない。そのような感情は帰属から生れるもので、帰属から切り離された理性も観念的で危ういものを持っているからです。IT系企業で働く若者が主張する超リベラルなコスモポリタン的理想主義も、その一つです。
では、異文化理解を妨げる固定観念や偏見はどこで作られるのかといえば、繰り返し流されるニュースによって作られる場合が多い。そのニュースもドメスティックな共感に支えられている。たとえば、世界を驚かせた日産のゴーン会長の逮捕は、日本では当然、ゴーン氏の報酬過少申告や会社の金の私的流用は断罪されるべきことで、会長解任は当然という空気です。
ところがフランスでは、ゴーン会長が会社に決定的なダメージを与えた背任行為としての証拠はなく、起こした事件は個人的不祥事で、会長職解任は別の問題という空気もあります。オランド前大統領が、浮気のために警護官のスクーターの後ろに乗って女優のアパートに通う姿は、国政になんら影響のない個人的問題だというのに似ています。
つまり、流されるニュースは文化的背景から異なった理解になる。多くの偏見はその無理解から作られていくということです。トランプ氏批判に覆われる世界のニュース報道ですが、彼を支持する人への理解はありません。それにネガティブニュースの方が洗脳力が高く拡散するのは早いのと、今はネットの時代なので取材もしないニュースが世界中に繁殖しています。
基本は、自分の目で見て自分で考えることなのですが、それ以前に異文化を理解するものさしがなければ、軽薄な判断をしかねません。そのものさしの基本は「人間への関心と洞察」です。ビジネスの世界では人文科学出身者より自然科学出身者が多く、人間への関心が薄いという傾向がありますが、日頃、人間への関心がなければ、異文化を読み解く有効なものさしを持つのは難しいといえます。
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