アメリカ中央情報局(CIA)は今週、サウジアラビアのムハンマド皇太子が、同国出身で在米ジャーナリストのカショギ氏殺害を命じたと断定したことについて、トランプ大統領は20日、アメリカはサウジの「確固たるパートナー」であり続ける意向を表明し、むしろCIAの見方に疑念を示しました。
この問題を整理すると、仮にムハンマド皇太子がカショギ氏殺害の首謀者だった場合、問題なのは、世界に影響力のある米ワシントンポストでサウジの現体制批判を繰り返すカショギ氏を、国家権力が主導して、しかも国外のトルコで殺害したという言論の完全封殺を実行した点にあります。
ジャーナリストである私の立場からすれば、巨大権力の不正を暴こうとする場合、ある程度生命の危険があることは覚悟しているわけですが、言論の自由や国民の知る権利の保証を国家権力そのものが否定し、海外にまで手を伸ばして殺害する行為は、けっして許されることではありません。
アメリカは、トランプ大統領が、どんなにフェイクニュースといってメディアを批判したとしても、民主主義を支える重要な役割を担い続けていることに変わりはありません。権力者は、どんな不快なメディアからの批判にも耐えなければならないのが自由世界の原則です。
ニクソン大統領は、ウォーターゲート事件でワシントンポストの追求から辞任に追い込まれたわけですが、サウジはアメリカと同じ価値観、同じ体制を共有している国ではありません。たとえば、カショギ氏がサウジ国内で殺害されれば、国際的非難の色合いは違ってくるでしょう。
今、世界では、たとえば中国ウイグル自治区で起きている100万人のイスラム教徒を強制収容所に入れ、再教育という名のもとで民族、宗教弾圧していることに対して、国際的非難の声があがっています。では、欧米諸国の政府が中国に制裁を課し、欧米企業が中国から撤退するとか、中国製品をボイコットするなどは、一切行っていません。
個人的には、政治や人権問題と経済は別物という考えは、私には同意しかねます。北朝鮮がアメリカとの対話に応じたのも、経済制裁を強化したからです。韓国が日韓合意を無視する行動を取り続けるなら、日本は経済制裁を実行すべきです。
徴用工の問題で日本から金を搾り取ろうという間違った行動に対して、日本は韓国製品に高い関税をかけるとか日本企業の韓国企業への技術供与を打ち切るとかの圧力を加えるべきでしょう。同盟関係は国と国との約束事を絶対視することからしか維持できないことを相手に徹底する必要があります。
アメリカとサウジの関係は、アメリカからすれば、世界の石油価格に大きな影響力を持ち、中東の安定がアメリカの国益と合致するということでのパートナーです。サウジは今回、アメリカとの協定を自ら破る行為をしたわけではなく、言論の自由や人権というアメリカの価値観を逸脱したことが問題になっているわけです。
カショギ氏殺害にムハンマド皇太子が直接関与したとすれば、パートナー関係は維持しながらも、ムハンマド皇太子の国王後継の地位を退くように要求するとか、アメリカへの入国を向う5年間禁じるとかの罪の程度相応の制裁を課すなどの方法はあるはずですが、トランプ氏は不器用なので武器を買ってくれるサウジは大切だなどといっています。
今、そのサウジでは、ムハンマド皇太子への批判を強める女性権利活動家らが当局に身柄を拘束されただけでなく、拷問を受けていた事実が発覚し、拷問の対象がテロ容疑者から体制批判活動家に拡がっていることが指摘されています。
実はイスラム教を主要宗教とする国であるイランや、アジアではインドネシアやマレーシアでは、体制批判、宗教批判などに対しては言論は制限されており、法律だけでなく、イスラム教の戒律で人が裁かれています。この状況は今後も変わらないでしょうし、中国にも言論の自由はありません。
無論、言論の自由は何をいってもいいという話ではありません。しかし、この問題が国際社会で正面から真剣に議論されていないのは残念なことです。フェイクニュースを流し、人を政治誘導する暇があったら、もっと世界における言論の自由、知る権利、客観報道について議論すべきだと思います。
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