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 最近、英BBCの欧州担当の女性ジャーナリスト、ケイティ・アドラー氏が、英国の欧州連合(EU)離脱協定案をEU臨時首脳会議で承認した後、欧州委員会のユンケル委員長にインタビューした内容は興味深いものでした。それはユンケル氏が「現実的で実用的な戦略作成と決断に長けた英国を失うのはとても残念だ」と答えたことでした。

 このコメントにアドラー記者は、ユンケル氏の英国へのリップサービスか皮肉と受け止め、一瞬、苦笑いした様にも見えましたが、ユンケル氏の本音だと思います。大陸欧州を主導するフランスやドイツは理念に固守し、欧州の政策について長々と議論する一方で、具体性や実効性が乏しいと英国は批判してきました。

 たとえば経験主義の英国と理知主義のフランスといった構図は、ビジネスの場でも交渉や意思決定の会議、日頃の業務でよく見かける違いです。フランスの企画書は最初の数ページ、その意義と価値が先哲の名まで引用し、延々と書かれていること多いのに対して、今の英国は客観的データや証拠に基づく非常に具体性を重視した企画書が主流です。

 欧州は同じキリスト教文化圏といいますが、国々で言語も文化も風土も異なり、リーダーに対する考えも、チームワークのあり方も、仕事の進め方も異なっています。30年に渡り、EUを見てきた私としては、グローバルマネジメントに役立つ内容をEUの運営に見出すことも少なくありませんでした。

 無論、欧州と日本、日本と他のアジア諸国などは、もっと極端な文化的相違があり、グローバルビジネスを悩ませています。特にチームで仕事をすることが多い職場では、文化の背景が異なる人が、一つのチームとして働く状況が増え、さらには縦割りの組織以上に、戦略に応じて専門知識を持つメンバーが集り、チーム単位で働く傾向が強まっています。

 そこで近年、注目されるのがグローバル・チームビルディングです。たとえば、自分の意見をちゃんと述べ、議論し、納得した上で働く欧米型チームワークと、あくまで構成メンバーの和を重んじる日本型チームワークなど、チームワークそのものの考え方も違いがあります。

 そこでグローバル・チームビルディングの基本と考えられる8つの項目を挙げてみたいと思います。

1、相互理解
  互いの国の文化や習慣、価値観への理解を深め、それを尊重する姿勢を保つ。
2、話しやすい職場環境作り
  職場で感じたことをチームメンバー間で気軽に話せる環境作りを心がける。
3、「共感」環境を作りだす
  リーダーもチームメンバーと同じ目線に立って「共感」できる環境作りを行う。
4、異なった意見は役に立つ
  文化の違いから来る考え方の違いは、チームワークに有益と考える。
5、チームの達成目標の確認作業強化
  チーム全員がチーム全体の達成目標への高い共通認識を持つ。
6、各個人のモティベーションを高める
  全体目標だけでなく、個人の達成目標も明確化し、モティベーションを高める。
7、チームの透明性を高める
  チームの透明性を高め、進捗状況の共有などにより、モティベーションを高める。
8、チームで創出されるパワーを全員が実感する
  チームワークが発揮する大きなパワーを各自が体感し、その喜びを実感する。

 チームビルディングには2つの関係性があり、1つ目はリーダーとチームの関係、2つ目はチームメンバー同士の関係です。たとえば、基本項目の2や3は、日産のゴーン元会長がCOOに就任した当初の19年前、工場やディーラーの現場職員とコミュニケーションを欠かさなかった姿勢が思い起こされます。

 日本人がグローバル・チームワークで直面するのは、和の重視のために自己主張を抑え、対立を嫌う文化があることで、チームのメンバーが突き詰めた議論をしないことです。これではグローバルチームでは機能しません。

 メンバーのミスをチームで吸収してしまう日本、あくまで個人追求する欧米や中国では、チームのあり方も変わってきます。

 グローバル・チームワークは、簡単なことではありません。グローバル環境で個人のキャパシティは拡がりますが、仕事を達成する信念の部分では妥協はマイナスです。シナジー発揮のためには、新たなルール作りも求められます。

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