東京地裁は20日、金融商品取引法違反の疑いで再逮捕された日産自動車のカルロス・ゴーン前会長の勾留延長を認めない決定をしました。ゴーン氏が保釈される可能性が高まったのですが、今度は背任容疑で再逮捕されました。無罪を主張するゴーン氏側がどんな戦略で戦うかが注目されています。
地裁の予想外の判断は、驚きを持受け止められている一方、司法専門家は、ゴーン氏が今月10日、再逮捕された罪が、2015年3月期までの5年間、有価証券報告書に報酬を過少記載したという初逮捕と同種のものだったことで、拘留延長は却下されたのではと指摘されています。
サスペンスドラマに出てくるような今回の「出来すぎた過ぎた疑惑」は、何かがおかしいと世界のメディアが指摘しています。世界的に知られた大物グローバル経営者の逮捕は注目度が大きいだけに、東京地検特捜部の勇み足でないことを日本人としては祈るばかりです。
日本の国民感情としては、明るみに出たゴーン氏の不正行為は、十分に不快感をもよおす内容です。それに島国の日本で、外国人が大企業経営者として20年間も君臨し、結果的に自らの持つ権力で報酬以外に会社の金を私用に流用し、私腹を肥やしていたとなれば、嫌悪感は一塩でしょう。
日産社員に話を聞くと、大きく2つの感情があることがわかります。一つは日本人経営者がお手上げだった日産の再生をしてくれたことへの感謝で、特に古い日本的馴れ合いの資材部品メーカーとの癒着や会社の硬直化した役所体質にメスを入れてくれたことを評価する社員は少なくありません。
その一方で結局、ゴーン氏が就任当初、社員に向かって強調した節約精神を、自らが破ったという失望感です。20年前に毎月、日本全国の製造現場を周り、末端の工員の話に耳を傾けたゴーン氏の影は、今はありません。最高クラスのプライベートジェットで社用、私用の別なく、年間100日は世界を移動していたゴーン氏の生活が明らかになると、感謝の気持ちは怒りに変わっているといえます。
それもゴーン氏が不当に自分の権力で私腹を肥やしていただけでなく、巨額のルノーからの借金も完済し、今やルノーにとっても、フランス政府にとってドル箱になった日産は、未だに議決権を持たない連結子会社に押し込められている事実です。日産は、ゴーン氏のみならず、「ルノーとフランス政府の財布」とまでいわれれば、頭に来るのは当然です。
東京地検の中に、日本人の国民感情に照らして看過できない状況として、主犯格の外国人独裁者の首をとって評価を得たいという気持ちがあったとすれば、そこには公正さを軽視と権力の乱用に陥るリスクもあります。
検察の国際感覚も疑問です。日本のみならず、先進国の司法も国益と離れたところで普遍的で公正な正義に立脚しているとはいえない事例を個人的にも沢山見てきました。往々にして外国人の逮捕は外交問題の火種です。今も当然、東京地検にフランスやブラジル、レバノン政府から圧力が掛かっているでしょう。
日本は歴史的に、国を脅かす国内の外国勢力を徹底排除する傾向が強いといわれています。今回もルノーが送り込んできたレバノン人が自分の地位を利用して国に不利益をもたらしたという構図で、強烈に排除に動いているように海外からは見えます。
ゴーン氏は、人間崇拝の御神輿経営で神様のように扱われながら、一挙に地獄に落とされた恐怖を味わったことは想像に難くありません。これが日本人なら国民に頭を下げてお金を返せば許されるのに、外国人はそうはいかないというように映ったかもしれません。
表向きの尊敬や忠誠心とは別に、いつも隠れた本音があり、その本音を理解して行動しないと痛い目を見るのが日本社会です。ゴーン氏は今回それを思い知らされたことでしょう。
ゴーン氏は今、無罪を勝ち取るための作戦を練っていることでしょう。世界に離散し生き延びてきたマイノリティーのレバノン人としては、自分の非を認めて謝罪する選択肢は皆無でしょう。
同時に東京地検は、ゴーン氏の今後の逆襲に耐えられるだけの確固とした証拠を準備できているのか、日本人では考えられないような抵抗に遭う可能性は高く、無罪で大恥をかけば、日本の評価も一挙に落ちるリスクを抱えた事例といえそうです。
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