アメリカのトランプ大統領は中国に対して、外国企業への公正さを欠いた扱いやアメリカ企業を中心とした外国企業から高度な技術を盗む行為に対処することを条件に、追加関税の猶予期限を3月1日に設定しています。中国で出方次第で本格的な貿易戦争に突入する可能性もあります。
トランプ氏は対北朝鮮外交でも、ポジティブな姿勢を今も貫いていますが、対中貿易政策でも貿易戦争の回避につながる合意が得られれることを期待しています。一方、議会の中は共和党、民主党問わず、中国から必要な譲歩を引き出すのは困難で改善の方針を示したとしても、曖昧なごまかしに終わるとの疑念が強いと伝えられています。
私は、これまでのいくつかの事例で、経済同盟や国際機関への加盟を急ぎすぎると、後で歪みの修復が困難になるパターンを見てきました。その典型が欧州連合(EU)です。英国が離脱を決定した直後、欧州憲法条約起草の委員長を務めたフランスのジスカールデスタン元大統領は「統合を急ぎすぎた」と後悔の念を表しました。
主要7か国首脳会議も同様で、冷戦が終わったので、G7プラス1としてロシアを入れましたが、度重なる領土拡大の軍事行動などで、G7に戻っています。思えば中国が世界貿易機関(WTO)に加盟したのは2001年で、その後、中国は驚異的経済成長を遂げた一方、実は自由貿易のルールを利用して海外投資を加速させ、同時に強制的技術移転を行ってきました。
私は個人的に当初からネガティブでしたが、アメリカほどの経済力のない欧州から見ると、当初からフランスもドイツも英国も中国の言いなりでした。トランプ政権が誕生しなければ、今でも言いなりだったでしょう。14億に迫る巨大市場という人参をぶら下げられて、技術を盗まれることがもたらす結果が理解できていなかったといえます。
欧米の考えは、WTOにせよ、G7にせよ、とにかく欧米先進国が主導してきた自由貿易圏の国際機関に中国を加盟させれば、中国は国際ルールを守り、経済大国の義務を果すようになるというものです。この誤算が今や中華思想による中国の世界支配という深刻な事態に発展しようとしています。
欧米から見えにくい視点の一つが、中国及び中国人は、基本的に情、理、法という順番で、民心を情で掌握し、中国共産党の理屈で支配し、法はその理屈に利用するものという考えがあることです。欧米のような法、理、情という順番ではなく、リーガルマインドは薄いということです。
だから、南シナ海で領有権を主張し、島を埋め立てて軍事基地を建設している根拠も「現在、国際的に認められている海域の領有権は、アメリカが力にまかせて勝手に引いた線であり、中国は認めていない」と、中国の理屈を国際法に先立てているわけです。
つまり、WTOに加盟すれば、ルールに従うわけでなく、ルールは中国共産党の理のために利用するものであり、都合のいい解釈も当り前という認識しかないということです。国内で情や理を法より先立てているわけですから、国際社会に対しても同じ態度だということです。アメリカに力で勝れば、WTOを中国だけに都合のいいように変えようとすることでしょう。
トランプ氏は、中国がWTO加盟後に獲得した権利を白紙に戻す試みをしているわけで、単純な保護貿易主義政策というわけではありません。知的財産の盗用で困っているのはアメリカだけではないし、中国が主張するようなアメリカの利権で国際ルールが全て作られているという事実もありません。
その一方で、果たしてトランプ氏が冷戦当時のレーガンのようにイデオロギー的に社会主義を敵視しているかといえば、トラップ氏の政治信条のスタンスははっきりしていません。それに中国封じ込めで足並みを揃えてほしい同盟諸国に対して圧力を加え、特に欧州諸国はトランプへの反発が強いのが現実です。
トランプ氏に反感を持つ欧州を中国は味方につけようと画策中ですが、問題は欧州がアメリカや日本より、はるかに中国について無知なことです。その一つが政治と経済を完全に切り離して考えていることです。ロシアから天然ガスや石油を買うのは経済問題と割り切っていますが、ウクライナ内戦ではロシアはパイプラインからの供給を止めたりしています。
また、経済関係が深まり、さまざまな国際機関に加盟すれば、いつか中国国民も自由を求めて欧米のような自由主義に移行し、中国共産党も消滅するという幻想を今も持っていることです。リーガルマインドで動く欧米人はルールで縛ればいいという考えですが、中国にはそんな発想はありません。
いずれにせよ、世界を2分しかねない米中貿易戦争は日本を含む多くの国々に影響のある話です。中国は面子を守りながら、中国共産党の理屈で来年3月1までにどんな方針を打ち出し、どのような行動をとるのかが注目点です。
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