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 日本の仕事場での過労死は今や世界的に知られ、日本企業の働き方に対してネガティブなイメージが拡がっています。日本の企業文化は生産性を軽視した長時間労働や過重労働が問題なっているにも関わらず、改善が進んでいるとはいえません。なぜなら、ビジネスは相手がいる話で自社だけの改善では根本的な改善にならないからです。

 それに長時間労働は大企業のサラリーマンだけでなく、建築事務所など自営の小さな会社では、さらに酷い労働環境が指摘されています。大企業だと過労死や自殺は大きなニュースになりがちですが、自営業での過労死はニュースになりません。

 最近、1級建築事務所を営んでいた40歳の日本人男性が死亡したことを知人から知らされました。この男性は2年近く、休みがなく、夜中も仕事を続けていたそうです。住宅メーカーの台頭で1級建築事務所に家の設計を依頼する人が減り、営業、設計、現場監督など全ての仕事を一人でこなしていたそうです。

 毎日の睡眠時間は2時間程度、仕事机にうつ伏せに寝る程度で、夜中にもクライアントから現場に呼び出される始末だったそうです。この男性の場合、クライアントからの厳しい追求がストレスになり、精神だけでなく肉体も蝕んでいったようです。

 約30年前、フランスで日曜営業が禁止されている環境に慣れるのに苦労しました。店が一斉に閉まれば必要なものは買えないし、いろいろと困ることも多かったからです。しかし、だんだん、そんな生活に慣れて気づいたことは、皆が一斉に休めば、週末にクライアントから連絡があることもなく、家族全員が集れるメリットがあったことです。

 これは全員が休まないと実現しないことです。パリ郊外の高速通勤電車(RER)の駅も無人になり、切符を買わずに利用する人も少なくないことに気がつきました。その一方で、日曜営業許可が拡大する中、日曜日に働いてくれる要員の確保に企業が苦労している実体もクローズアップされています。

 日曜日の仕事を受け入れる従業員に倍の日給を払う企業に対して、それでも働かない人が多いのが現実です。お金よりも家族や友人と過ごす時間を大切にしたいというのが、その理由です。日本人なら飛びつきそうな条件でも、なかなか働く人を見つけるのは大変です。

 過労死した建築家は、夜中の12時過ぎにクライアントから現場に来るよう命じられ、遠い現場に飛んで行って朝方帰宅した時もあったそうです。欧米ならクライアントの態度は人権無視もいいところですが、日本ではそんなことは関係ありません。

 そこで考えられることは、日本の職人文化が生み出した細部にまでこだわる完璧主義です。注文を出す側も受注する側も、そのことに異論がなく、クライアントも24時間、365日、金を払う側という権力を行使し、強引な態度をとり続けているということです。

 昔なら断っていたような質悪い顧客に対しても、住宅メーカーの組織的ビジネスモデルにビジネスチャンスを奪われ、仕事欲しさに受入れ、消耗し続けているわけです。それでも家庭を犠牲にしてでも日本人はやってしまうというのが現実だと思います。

 旧態依然としたビジネスモデルにしがみついていることは問題ですが、完璧を要求される職人文化の日本では、妥協は許されません。それが自分たちの首を絞めていることにも気づかず「しょうがない」と思い、ビジネスモデルの再考や生産性を上げることに関心が払われていないのが現状でしょう。

 それも地方の保守的な古いスタイルを維持する中小企業は、なおさら酷い状態といえます。日本政府は生産性向上を重視する方針を示していますが、日本企業に刻まれた職人文化と完璧主義のDNAは簡単には変わらないでしょう。つまり、働くメンタリティを根本から変えるためには、制度やシステムを見直し、異常なな長時間労働ができないようにするしかありません。

 これまで何度も海外から批判されてきた生産性を無視した経営スタイルは、今や優秀な外国人材から敬遠される事態を招いています。海外赴任経験者は口を揃えて「ナショナルスタッフは働こうとしない」「すぐ休もうとする」「自分の担当の仕事が終わっていなくても平気で帰宅する」といいますが、逆に彼らから見た日本人は「なぜ、あんなに長時間職場にいるのだろう」と疑問視されています。

 職人魂としては完成度の高い製品へのこだわりから、最後まで責任をとろうという姿勢は立派なことです。しかし、過労死するまでやるのは仕事の目的をはき違えているといえます。それに仕事にメリハリを付けられなければ、仕事の効率性は落ちていくことは、すでに証明されています。

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