日系の中国の法律事務所で働く友人の弁護士A氏は最近、中国で事業展開する日本企業について「大企業でも意外と中国の法律に無知なまま、中国企業と契約を結んだり、現地で雇用契約を結んでしまう例が少なくない」と指摘しています。私もまったく同感です。
通常、契約書はその国の法律に準じて作成され、係争になった場合も、その国の司法の場で戦うしかありません。ところが作成された契約書は、最終的に日本本社のリーガル担当部署で精査されるケースが多い一方、その担当部署が進出先の国の全ての法律を熟知しているわけではありません。
商習慣も労働法も違う国では、その国の法律を熟知する必要がありますが、意外と大手企業でも万全とはいえない体制で望んでいるケースが多いのが実情です。さらに日本側に未だに契約書を紳士協定程度に扱う企業もあり、ビジネスがこじれた場合、契約書の詰めが甘かったことに、ようやく気がつくことも少なくありません。
さらに問題なのは、その国において法がどのように機能しているかです。近年、日本企業の進出先として急増している中国、東南アジア諸国、インド、ロシアといった国々は、民主主義と法の支配は未成熟です。そうなると法だけに頼っても問題が発生した場合、解決に繋がらないケースもあります。
たとえば、某日本自動車メーカーが中国で勃発したストライキで生産ラインが止まり、サプライチェーンも機能不全に陥り、操業停止が長期化したことがあります。結局、最後は中国共産党幹部で地元の名士が出てきて、組合との交渉は幕引きしました。当時のことに詳しい知人は中国の政治権力が法を上回る現実をまざまざと見たといっていました。
たとえば、日本の海上自衛隊のP1哨戒機が韓国海軍艦艇から射撃用の火器管制レーダー照射を受けた問題では、客観的事実よりも反日国民感情と面子が問題になっており、前に進めない状態です。元徴用工訴訟では、原告側が新日鉄住金への賠償命令確定を受け、韓国国内の資産差し押さえ申請をしていたのが8日、申請を認める決定が下されました。
中国では、アメリカの批判を待つまでもなく、日本企業から多くの先端技術が流出していますが、日本政府も曖昧に放置しており、巨大市場中国でビジネスを行う代償程度に受け止められています。つまり、客観性、普遍性のある法よりは、国民感情や中国共産党の理屈が先にあるという国だということです。
これが世界の現実であり、その現実の中でいかにリスクを最小化してビジネスを展開するかが問われているのがグローバル企業です。たとえば韓国は国民感情が法を上回ったり、権力が法を上回るのは日常茶飯事です。朴前政権は強大な権力を駆使し、司法トップも利用されていた疑惑が浮上し、その朴大統領自身も国民感情で抹殺されてしまいました。
つまり国内の超内向きの論理だけで動いているので、竹島問題や元従軍慰安婦、徴用工問題で国際司法裁判所に出ることを強く拒否しているわけです。同じことがビジネスでも国際仲裁裁判所に出ることを嫌う傾向がアジア全域で強いのが現状です。
某日本大手メーカーが、日本政府の肝入りという前提で東南アジア諸国と大規模プロジェクトを展開し頓挫した時も、すでにかなりの持ち出しがあり、回収不能になった陥りました。無知は死の影といいますが、相手国の法環境を熟知し、契約の効力を最大限発揮できる契約書を作成するだけでなく、その国での法の位置づけ、権力との地下関係も理解しておく必要があります。
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