日産自動車カルロス・ゴーン前会長が8日、11月19日に逮捕されて以来始めて日本の法廷で話す機会を与えられ、長期拘留に否定的な海外メディアは、日本の司法慣習にますます批判的になっています。日本のメディアもゴーン前会長が堂々と無実を主張したことで、日本の検察はゴーン氏を落とせないのではという懸念の論調も聞かれます。
私は今月1日発売の月刊テーミスに「マクロンフランス大統領‐ゴーン斬って日産死守へ」という記事を書きました。内容は、ゴーン氏逮捕後のルノーと日産とのアライアンスの行方についてで、ゴーン氏裁判の行方について書いたわけではありません。
なぜなら、裁判問題は長引く可能性が高く、次々に重要な経営判断を下す必要のある会長ポストを長期保留にする選択肢はなく、特に日産・ルノー・三菱自動車の3社アライアンスの要ポストを空席のまま放置することはできないため、何らかの結論が急がれると思うからです。
一方、ゴーン裁判の行方は日本が今後、グローバルビジネスを展開していくことの妨げになるのか、一石を投じる出来事なのかが問われれています。今のところは欧米メディアは、たとえば米ウォールストリートジャーナルが、ゴーン氏にかけられている容疑について「法廷ではなく役員室で扱うべき問題のように思える」と指摘し、長期拘留で容疑者に罪状を認めさせる日本の司法慣習も批判しています。
アライアンスの今後は裁判の行方の影響を受ける可能性があるとはいえ、日産サイドが主張するルノーと同等な立場を獲得できるかが焦点です。日産は実際、1999年にルノーから受けた6,000億とも8,000億円ともいわれる資金を2017年に完済し、むしろ、ルノーに恩恵を与え続けています。
にもかかわらず、議決権もなく、トップはルノーが送り込み、日産の自立性は担保されない状態です。ゴーン氏はマクロン氏が経済相時代には、ルノーの筆頭株主でもあるフランス政府として経営統合話を迫られ、自分で築いた城である日産には触らせないとして抵抗しました。しかし、昨年のルノー会長就任では、マクロン氏は絶対権力者の大統領になっており、抵抗できない立場でした。
日産幹部は、ゴーン氏が日産を守るよりフランス政府に尻尾を振る態度に豹変したことを強く感じ、ルノーとの立場の変更が困難になったという危機感を募らせていたと思われます。フランスは政府の介入が非常に強い国であり、ゴーン氏の高額報酬にも株主として不快感を持っていたのも事実です。
ルノー及びフランス政府には3つの大きな葛藤があると私は見ています。1つはルノーもフランス政府も今やドル箱となった日産をいかにフランス経済の活性化に結びつけるかということです。2つ目は、その流れで日産への主導権維持にこだわりすぎ、日産に逃げられることの懸念です。そして3つ目はフランス政府の意向に忠実なポストゴーンとなる人物を見つけることです。
フランス政府もルノーも、冷静に事態を見極め、最善の選択をすることが求められており、爆発してしまった日産経営陣と共に、どうアライアンスを発展させるかが焦点です。ただ、フランス人は異常なまでに主導権に固守する人たちなので先行きは不透明です。
フランス人は「私がやるか、あなたがやるか」しかなく、「私たちでやる」という選択肢はありません。その意味でゴーン氏は逸材だったと思われたのですが、フランス政府やルノーの誤算は、彼が公益性を重んじる国立行政学院(ENA)出身のフランス人エリートではなく、筋金入りの地中海商人のレバノン人だったことです。
それ以上に重要なことは、日産自動車が20年で危機を脱しただけでなく、2度と経営的に逆戻りしない根本的な体質改善が再建でできたかどうかでしょう。その意味で経営陣トップの不正を許した企業統治問題は重く会社にのしかかっているといえそうです。
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