ロシア外務省は11日、日本と平和条約を締結するのに先立ち、第2次世界大戦の結果として北方領土がロシア領になったという認識について、日本が受け入れる要請を行いました。両国間で検討を進める平和条約交渉に日本は釘をさされた形です。
これは日本にとって念願の北方領土返還に対して、平和条約を結びたいなら第2次世界大戦の戦勝国として北方領土をロシアが正当に得たことを日本に認めさせようというもので、交渉を遠のかせる声明だったといえます。ロシアはウクライナが欧州連合(EU)にシフトしたことに憤慨し、クリミア半島を武力で奪還し、ウクライナの反政府勢力を支援し続けています。
東西冷戦で敗北したロシアは現在、中国の覇権に苛立ちながら、国際社会への返り咲きに必死な状態にあり、プーチン政権もそのリベンジを望む強烈なナショナリズムに支えられています。領土問題はそんな政権にとっては拡大こそあれ、領土返還で国民が納得するような理由を見出すことは不可能に近いことです。
陸続きのヨーロッパ側のロシアに対する見解は、共産主義を放棄したとはいえ、ロシアの本質は何も変わっていないというのが一般的です。それはウクライナがEUになびいたことへのロシアの反応をみれば明らかです。支配下にあった旧中・東欧を失ったロシアが今もそれを屈辱に感じ、機あらば取り戻したいのが本音です。
一方、韓国は2015年12月「不可逆的」とされた「日韓慰安婦合意」がこじれ、今は元徴用工保証問題やレーダー照射問題で先がまったく見えない状態です。国際法よりも国民情緒を優先する超内向き韓国ですが、今の反日世論は実は半世紀以上続く、国をあげての反日教育があったからこそです。
中国も事情は同じで「中国を日本支配から解放したのは中国共産党」という史実でもない作り話を70年間強調し、日本支配からの解放が中国共産党政権最大の正当性になっています。そのため、時ある毎にそれが強調され、日本を悩まし続けています。
つまり、これら3つの国(正確には北朝鮮も含む)は、第2次世界大戦の戦勝国側に立つ立場を利用し、今も日本を悩まし続けており、今年は深刻さを増しています。その最大の原因は、これらの国で戦後定着した日本が悪の枢軸国だったという歴史認識を国民に徹底してたたき込んだ結果だといえます。
一方、日本同様に第2次世界大戦で連合軍に屈したドイツは、周辺国の事情が異なります。西側ヨーロッパ諸国は民主主義、法による支配、自由が保障された文明国であるだけでなく、彼らが「許す」ことに最大の価値を置くキリスト教を背景に持つ国だということです。
日本の専門家が見落としがちな「許しの精神」は、実は戦後のドイツを受け入れる大きな精神的原動力でした。過去のポーランドに行ったドイツによる大虐殺、ユダヤ人の民族浄化など、その蛮行はヨーロッパ史最大の汚点ですが、それを材料に70年以上ドイツをゆする国はありません。
残念ながら、日本の周辺国にはそのような精神文化は存在せず、許しとはほど遠い中国の精神文化、共産化でキリスト教文化を失ったロシア、恨の文化を正当化する韓国は、キリスト教を御利益宗教として受け入れても「許しの精神」は受け入れていません。
ロシア、朝鮮半島、中国では、第2次大戦の亡霊が今も彷徨い続け、政治に最大限利用されているのが実情です。彼らには国際法も世界のルールも、単に強国アメリカとそれに従う国々が作り出したものにしか映っておらず、前提条件が根本から違っています。
たとえば英国がEUから離脱するのに、何兆円も手切れ金を払い、気の遠くなるような交渉を続けていますが、これが中国や韓国、ロシアだったら、手切れ金は払わず、全ての協定は一方的に破棄する可能性が高いといえます。つまり、彼らはまったく異なったベースの上の立っているわけです。
日本政府が韓国や中国から無理難題を迫られると、国際協定や条約を楯に必ず「その問題は解決済み」とはね除けますが、その態度は、同じ土俵に立つ国にしか通用せず、戦略を変える必要があります。特に同盟国アメリカが国際的紛争への介入を避ける傾向が強まる中、日本は最も強力だった後ろ楯に対して再考の時を迎えています。
歴史を振り返ると、日本はある時点までは不条理な状況に忍耐と我慢で望み、それが限界にくると爆発するのが常でした。その現象は日本国内でも同じです。結果としていえるのは、忍耐と我慢だけが最善策ではないということです。そのような精神論だけでは外交問題は解決しないということです。
今は国益を明確にし、その国益の追求を国際社会との協調関係で実現していく時代です。そこには妥協だけでなく、譲れない1線もあるはずです。政権への求心力を高めるために歴史をねじ曲げ、反日教育を続けるような国には毅然とした態度で望むべきでしょう。両国にとって過去の亡霊を吹き飛ばす、より高度な目標を共有できるかが鍵だと思います。
今年は日本の外交力の真価が問われる年であり、かつて民主党政権に変わって極端に外交力を落としたような状況だけは避けたいところです。その一方で首相の専権事項である外交政治において、長期政権による傲慢さと独善で謝った判断を下す危険性もはらんでおり、厳しく監視する必要があるでしょう。
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