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 仕事場への人工知能(AI)導入がますます本格化する中、人間にはAIにはできないクリエイティブなスキルが求められています。ところが目の前の仕事に追われ消耗してきた私たちの意識は簡単には変えらません。特に多文化化が進む職場では、異文化間の誤解や摩擦でストレスが倍増することも多いのが現状です。

 まずは多文化チームで仕事をする、あるいは国際業務で日本人以外の人々と協業する場合、日本人が取り去らなければならないのは「人は皆同じであるべきだ」という村社会的意識です。日本をよく知る外国人の多くは「日本には目に見えない、文章化されていない無数のルールがある」と指摘しています。

 随分前の話ですが、アメリカの元日本駐日大使でハーバード大学日本研究所所長だったライシャワー氏は、日本では肌の色や人種以上に、日本人しか認識できない細かなルールを理解した人間が日本人として認められると指摘しました。私の多くの外国人の友人たちも同じ意見です。

 コミュニケーション的にはハイコンテクストということで、常識の共有度が世界的に見ても非常に高いので、ほぼ無意識に、日本人はその常識に依存して生きているわけです。当然、その常識が読めない人間は排除されたり、蔑まれたりします。私の知る日本の某金属加工の会社は、ベトナムに工場があるので、本社でもベトナム人を雇ったのですが、半年で元気がなくなったそうです。

 研修を担当した日本の大手企業のIT部門で働く中国人は、仕事はなんとかこなしていますが、日本の常識が分らないために何度も人間関係で失敗し、ストレスを抱えていました。同時に彼の周辺の同僚も「彼は5年も日本にいるのに、未だに空気が読めない」などと批判的でした。

 日本には「慣れる」とか「馴染む」という言葉がありますが、それは目に見えない無数のルールを理解し適応することを意味しています。日本人は非常に環境に対して受け身なので空気を読むことが重視されますが、多文化環境では自分から空気を作るくらいの勢いがなければやっていけません。

 そんな多文化環境に求められているのが、カルチャーダイバーシティのシナジー効果です。「持っているものの違い」、「持っていないものの違い」から、持てる者が持たざる者を支配するのではなく、互いに持たざる部分を補強し合い、互いの長所を活かすことで、新たな価値を生もうという考えです。

 しかし、化学の実験のように絶対に混ざらない液体を無理に混ぜようすれば全てを駄目にするリスクもあります。グローバルマネジメントは異なる文化を持つ者同士にとって、未知の領域に入ることを意味し、うまくいけば1+1が2倍や3倍ではなく、10倍にもなる効果を発揮できるわけです。

 そこでも日本人を含む東洋人には課題があります。それは人間関係が縦社会で横の関係は軽視されがちです。カルチャーダイバーシティ・マネジメントでは、横の関係性が重要です。結果を出す者が出せない者を食い物にするような優劣を争う環境ではばシナジー効果は得られません。

 欧米文化の背景にあるキリスト教は兄弟主義なので、横の関係は作りやすいのですが、東洋は親子、兄弟関係も年上、年下の縦関係で、組織も上意下達で忖度しながら運営されています。つまり、平等な横の人間関係は作りづらく、社内でも入社年での先輩後輩関係が強烈にあり、言葉使いまで変えたりしています。

 ここにも日本独特の目に見えないルールがあるわけですが、法律ではありません。カルチャーダイバーシティのシナジー効果を出すという場合は、互いを尊重する姿勢が大前提です。たとえば「東南アジアの人々は文明的に遅れているので日本人に従うべきだ」などという上から目線の意識があるとシナジー効果は得られません。

 では、カルチャーダイバーシティの効果の中身は何かといえば、それこそが新しい発想や画期的なソリューションをゼロベースから生み出すクリエイティブ脳の活性化にあります。一歩間違えば混乱とカオスに陥るリスクもある一方、成功すれば、新しい可能性を作り出す強力な方法になるということです。

 そのリスクは、それぞれの自分の内にあり、それは強烈な一つの文化への依存と独善、自己保身にあるといえます。逆に矛盾しているようですが、多文化環境では自分のアイデンティティを明確にし、相手客観性を持って説明することも重要です。自分が何者なのかを説明できなければ、シナジー効果を発揮できないからです。

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