アメリカではメキシコとの国境に壁を建設する予算を巡ってトランプ大統領と下院議会が対立し、連邦政府機関の閉鎖の長期化で80万人の職員が悲鳴を上げています。英国ではメイ首相が提出した欧州連合(EU)離脱協定案が議会で否決され、今後の展開は誰も予想できない状態です。
加えてフランスでは、10週目に入ったジレ・ジューヌ(黄色いベスト)抗議運動で19日、1週間前と変わらない84,000人がデモに参加し、大統領主導で実施が始まった国民大討論会が効果を発揮していない状況です。
いずれも選挙で選ばれた国会議員と政府、国家のトップで構成される民主主義の政治運営が膠着状態を脱せず、出口が見えない状況です。
ブレグジットには、すでに莫大な費用と多くの人員が割かれてきましたが、政府の仕事を議会が認めようとしていません。政府だけでなく、さまざまな分野の専門家が合意なき離脱は、英国に深刻なダメージを与えると警告しても、国民も議会も聞く耳を持たない状態です。
アメリカでは民主党が中間選挙で下院を制した途端、トランプ大統領と厳しき対立し、国を2分する状態に陥っています。民主党も国境での何らかの対策の必要性は認めていますが、具体的議論よりトランプ政権を貶めることに集中しています。
対立する勢力は、議論するよりは醜いほど互いを批判し合い、持っている権限を最大限利用して、協調ではなく、勝つか負けるかを決めることにこだわり続けています。そこには健全な議論はなく、反対のための反対という側面が強くなっているようにも見えます。
こうした状況が起きている理由について、17日付けの米ウォールストリートジャーナルは「ブレグジットなどの大規模な制度変更について、どう実行するかという具体的なアイデアを示さず、政治家および外部の派閥が国民を煽り立てていることがある」と指摘しています。
さらに「抑制の効かない人々の台頭」を挙げ、「ソーシャルメディアという拡声器により政治家や派閥が実態以上に人々を脅かす存在になっている」とし、「政治家たちはよく分からないまま、自らを英議会や米議会の議場において、つぶやくネズミに変えてしまった」と辛辣な表現を使っています。
確かに政治家が具体的プランを準備せずに、「国を変える」「大改革を行う」などの掛け声だけで国民を煽る傾向は強まっています。政治家はできもしない制作を約束し、実現できないことで政治不信が拡がる中、その不満がソーシャルメディアで拡散し、さらに政治は膠着状態に陥るのが最近の現象といえます。
ソーシャルメディアは一見、健全でオープンな議論の場を提供したかのように見えますが、結局は醜い非難合戦に陥る場合が多く、いい結果を出すことに貢献できていません。昔は、物事は表と裏で進められ、裏の部分は人々の目に触れることなく機能していたのが、今ではなんでも表に出てしまい隠せなくなっています。
いい意味では透明性が高まったため、不正の隠蔽が難しくなった反面、嘘や作り話も蔓延し、逆に物事を見えにくくしている側面もあります。そこには不満や恨みから生れた怒りや負の感情が渦巻き、事実でもないことが一人歩きしています。
同時に英国のような階層性の強い社会でも変化が起きており、労働者階級も自分たちの主張を表明できる環境になりました。トランプ大統領の誕生には、白人労働者や中西部の地味な信仰深い社会的弱者のサイレントマイノリティーが勢いづいたことも勝利の要因といわれています。
サイレントマイノリティーが声をあげると、すぐにポピュリズムと批判し、知性のない者は黙るべきだと言わんばかりの論調が、政治のプロやリベラル・メディアから聞こえてきますが、これこそ民主主義の否定に繋がる発言です。
ただ、民主主義を採用している国の「決められない政治」は、国家を弱体化させる恐れがあり、そこに言論や思想・信条の自由のない社会主義や民族主義、独裁主義など、極左・極右の考えが侵入する可能性もあります。民主主義の原則は国民主権なので、健全に機能するためには、正しい判断を引き出すために有権者のレベルの底上げが必要です。
私は個人的に、英国のように上の階層に属する人間が既得権益に固守し、階層を超えた議論を長い間封じ込めたことで時代に合った正しい判断ができなくなったことが、ブレグジットに繋がる一因だったとみています。
離脱派の指導者が労働者階級に対して「巨額のEU分担金を払わなければ、英国人は今よりはるかに豊かな暮らしができる」と根拠のない嘘の情報を流し続け、国の経済政策や財政など何も分らない労働者階級が離脱を支持したのを見て、これを民主主義というのかと思いました。
無論、ジャーナリズムの責任も重いでしょう。政治家の大言壮語に対して、実現可能な具体的プランがあるかを検証するのは、ジャーナリズムの責務です。紙媒体が衰退し、メディアの多様化で情報にお金を払わない状況が生まれ、ジャーナリズムは資金不足で丹念な取材報道が難しくなり、受けのいい文脈で安易に報道してしまう傾向が強まっています。
しかし、ジャーナリズムの衰退は民主主義を弱体化させ、混乱に陥れる危険性をはらんでいます。いずれにしても民主主義は大きな試練に晒されていることだけは確かですが、鍵を握るのは国民の公益重視の姿勢や道徳性の向上にあると考えられます。
ブログ内関連記事
危ぶまれる英EU離脱案の下院議会採決 議会制民主主義発祥の地に突きつけられた試練
不満や怒りに忍び寄る意図的サイバー世論誘導、まずはでき過ぎた話を疑うべき
意見の対立と、一つになることは次元が違うことを思い起こさせた父ブッシュ元米大統領の遺産
世界は「分断の時代」「世界大戦勃発前夜」にあるという論調の信憑性ソーシャルメディアは一見、健全でオープンな議論の場を提供したかのように見えますが、結局は醜い非難合戦に陥る場合が多く、いい結果を出すことに貢献できていません。昔は、物事は表と裏で進められ、裏の部分は人々の目に触れることなく機能していたのが、今ではなんでも表に出てしまい隠せなくなっています。
いい意味では透明性が高まったため、不正の隠蔽が難しくなった反面、嘘や作り話も蔓延し、逆に物事を見えにくくしている側面もあります。そこには不満や恨みから生れた怒りや負の感情が渦巻き、事実でもないことが一人歩きしています。
同時に英国のような階層性の強い社会でも変化が起きており、労働者階級も自分たちの主張を表明できる環境になりました。トランプ大統領の誕生には、白人労働者や中西部の地味な信仰深い社会的弱者のサイレントマイノリティーが勢いづいたことも勝利の要因といわれています。
サイレントマイノリティーが声をあげると、すぐにポピュリズムと批判し、知性のない者は黙るべきだと言わんばかりの論調が、政治のプロやリベラル・メディアから聞こえてきますが、これこそ民主主義の否定に繋がる発言です。
ただ、民主主義を採用している国の「決められない政治」は、国家を弱体化させる恐れがあり、そこに言論や思想・信条の自由のない社会主義や民族主義、独裁主義など、極左・極右の考えが侵入する可能性もあります。民主主義の原則は国民主権なので、健全に機能するためには、正しい判断を引き出すために有権者のレベルの底上げが必要です。
私は個人的に、英国のように上の階層に属する人間が既得権益に固守し、階層を超えた議論を長い間封じ込めたことで時代に合った正しい判断ができなくなったことが、ブレグジットに繋がる一因だったとみています。
離脱派の指導者が労働者階級に対して「巨額のEU分担金を払わなければ、英国人は今よりはるかに豊かな暮らしができる」と根拠のない嘘の情報を流し続け、国の経済政策や財政など何も分らない労働者階級が離脱を支持したのを見て、これを民主主義というのかと思いました。
無論、ジャーナリズムの責任も重いでしょう。政治家の大言壮語に対して、実現可能な具体的プランがあるかを検証するのは、ジャーナリズムの責務です。紙媒体が衰退し、メディアの多様化で情報にお金を払わない状況が生まれ、ジャーナリズムは資金不足で丹念な取材報道が難しくなり、受けのいい文脈で安易に報道してしまう傾向が強まっています。
しかし、ジャーナリズムの衰退は民主主義を弱体化させ、混乱に陥れる危険性をはらんでいます。いずれにしても民主主義は大きな試練に晒されていることだけは確かですが、鍵を握るのは国民の公益重視の姿勢や道徳性の向上にあると考えられます。
ブログ内関連記事
危ぶまれる英EU離脱案の下院議会採決 議会制民主主義発祥の地に突きつけられた試練
不満や怒りに忍び寄る意図的サイバー世論誘導、まずはでき過ぎた話を疑うべき
意見の対立と、一つになることは次元が違うことを思い起こさせた父ブッシュ元米大統領の遺産