世界の主要国は昨年、政治的行き詰まりや貿易摩擦、大企業による世界支配懸念が問題になり、世界経済に今後、さらなる悪影響を与えるとの悲観論が拡がっています。一方、財界や専門家の間では、経済はこの困難を克服することができるとの強気の楽観論も依然、存在しています。
英国のブレグジット、政府への抗議運動、ポピュリズムの世界的拡大、アメリカのトランプ政権と民主党のメキシコ国境問題での対立による政府機関閉鎖、米軍撤退後のシリアや先の見えないイエメンなど中東紛争の行方、さらには進まない北朝鮮の非核化、経済失速でも諦めない中国の覇権主義、哨戒機照射、旧徴用工保障裁判問題で悪化した日韓関係など、負の要素は多いといえます。
22日に開幕したダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)では、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)主催のCEOカウンシルの昼食会で、米投資会社ロッククリークのアフサネ・マシャエキ・ベシュロス最高経営責任者(CEO)が「国際貿易、政府機関の閉鎖、経済や政策の状況などいずれをとっても、不透明感は異例の水準」と指摘したと報じられますが、その通りかもしれません。
そこで思い出すのは、30年前から欧州統合を取材してきた経験から、いつも課題とされたのが加盟各国の国民と政府首脳や欧州官僚の意識のギャップだったことです。ブリュッセルで首脳や欧州官僚が話し合った結論を自国でどう理解してもらうかが、いつも課題でした。
ブレグジットも欧州連合(EU)の管理システムが加盟各国の主権を脅かしている不満が常に漂っていたことが、最大の原因です。そこには政治や経済のあり方で合意できないことが多くありました。新しい考えをポジティブに捉えた観点からのリベラル度からいえば、英国は社会民主主義的価値観を抜け出せない大陸欧州よりリベラル度が高く、アメリカは英国より、さらに高いといわれます。
英国は、フランスやドイツが大きな政府による管理政治を行い続けていることに嫌気が差していました。ところが大陸欧州には、アングロサクソン主導といわれる英米の自由主義への警戒感は強く、過度の競争で生れる社会的落伍者へのセーフティネット構築に意識がいっています。
しかし、歩み寄れない距離ではありません。たとえば30年間、英国と大陸欧州の対立を見ていると、結局は国民の意識は、国内での教育に大きく左右され、たとえば、フランス人は英国人に対するイメージが固定化され、英国人は大陸欧州をどこかで「遅れている」と蔑んでいます。
大した違いのないヨーロッパでさえ、国民は国の枠を超え、欧州市民という意識を持つことは困難です。たとえば、22日に行われた日露首脳会談で北方領土返還に結果なしと報じられていますが、遠く離れたモスクワでさえも返還反対の抗議デモが起きているくらい、ロシア国民の反発は強いのが実情です。
敗戦後のごたごたした時期に旧ソ連が不当に北方4島を奪ったという日本の歴史観に対して、共産主義時代から領土取得の正当性を国民に教育してきた背景を考えれば、出口が見えないのは当然です。同じことは中国、韓国で戦後、徹底して行ってきた反日教育が世論を作り出しています。
共産主義は、キリスト教に対するアンチテーゼとして生まれ、聖書の創世記にある神による天地及び人間創造説を、科学的根拠なしとして猿からの進化論を主張し、神の摂理としての歴史観を否定するために唯物史観が書かれました。つまり、歴史の書き換えで主義主張の正当性を確保してきたわけです。
同じように「中国共産党こそが、唯一日本支配を終わらせた」という認識を戦後、徹底して国民に植えつけ、自らの正当性を国民に信じさせてきたため、表面的な観光レベルの友好関係は、政治問題になると一挙に冷え込むわけです。日韓関係もまったく同様なことがいえます。
つまり、国民がどう教育されているかが、国際関係に深刻な影響を与え、グローバルな観点で客観性を持って世界を見る視点を持つ人は非情に少ないのが現状です。英国のような先進国でさえ、同じことがいえ、常に国民意識の修正改善が必要ですが、時に治世者が歴史観を書き換えるような国では世界とのギャップは拡がる一方です。
プーチン露大統領も日本との経済関係強化は、喉から手が出るほど望んでいることで、経済発展で先を越された中国との国境問題、ウクライナ問題で冷え込んだEUとの関係を考えれば、外交的には中東でのプレゼンスを高め、経済的には日本との関係強化は必須です。
しかし、冷戦時代から出来上がったロシアの歴史観では、北方領土は正当に取得したロシアの領土という国民意識が存在し、それを変えることは不可能に近く、その中にあっても日本の経済力をどう引き入れるかをプーチンは思案しているのだと思います。
国民の中で固められた固定観念は、その国が生んだものです。しかし、時代の変化と共に修正が必要です。そうしなければ永遠に理解を深めることはできません。政治家が本気で国民意識の更新に取り組まなければ、悲観論が勝ってしまうのではないでしょうか。
ブログ内関連記事
なぜ先進国の民主主義は膠着状態を脱することができなくなっているのか
急ぎすぎた欧州統合がブレグジットやポピュリズムを生み出した
過去の亡霊に翻弄される中露韓との外交交渉 日本外交の真価が問われる年
繰り返されるネガティブニュースによる固定観念の醸成が世界を分断し、異文化理解を困難にする
22日に開幕したダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)では、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)主催のCEOカウンシルの昼食会で、米投資会社ロッククリークのアフサネ・マシャエキ・ベシュロス最高経営責任者(CEO)が「国際貿易、政府機関の閉鎖、経済や政策の状況などいずれをとっても、不透明感は異例の水準」と指摘したと報じられますが、その通りかもしれません。
そこで思い出すのは、30年前から欧州統合を取材してきた経験から、いつも課題とされたのが加盟各国の国民と政府首脳や欧州官僚の意識のギャップだったことです。ブリュッセルで首脳や欧州官僚が話し合った結論を自国でどう理解してもらうかが、いつも課題でした。
ブレグジットも欧州連合(EU)の管理システムが加盟各国の主権を脅かしている不満が常に漂っていたことが、最大の原因です。そこには政治や経済のあり方で合意できないことが多くありました。新しい考えをポジティブに捉えた観点からのリベラル度からいえば、英国は社会民主主義的価値観を抜け出せない大陸欧州よりリベラル度が高く、アメリカは英国より、さらに高いといわれます。
英国は、フランスやドイツが大きな政府による管理政治を行い続けていることに嫌気が差していました。ところが大陸欧州には、アングロサクソン主導といわれる英米の自由主義への警戒感は強く、過度の競争で生れる社会的落伍者へのセーフティネット構築に意識がいっています。
しかし、歩み寄れない距離ではありません。たとえば30年間、英国と大陸欧州の対立を見ていると、結局は国民の意識は、国内での教育に大きく左右され、たとえば、フランス人は英国人に対するイメージが固定化され、英国人は大陸欧州をどこかで「遅れている」と蔑んでいます。
大した違いのないヨーロッパでさえ、国民は国の枠を超え、欧州市民という意識を持つことは困難です。たとえば、22日に行われた日露首脳会談で北方領土返還に結果なしと報じられていますが、遠く離れたモスクワでさえも返還反対の抗議デモが起きているくらい、ロシア国民の反発は強いのが実情です。
敗戦後のごたごたした時期に旧ソ連が不当に北方4島を奪ったという日本の歴史観に対して、共産主義時代から領土取得の正当性を国民に教育してきた背景を考えれば、出口が見えないのは当然です。同じことは中国、韓国で戦後、徹底して行ってきた反日教育が世論を作り出しています。
共産主義は、キリスト教に対するアンチテーゼとして生まれ、聖書の創世記にある神による天地及び人間創造説を、科学的根拠なしとして猿からの進化論を主張し、神の摂理としての歴史観を否定するために唯物史観が書かれました。つまり、歴史の書き換えで主義主張の正当性を確保してきたわけです。
同じように「中国共産党こそが、唯一日本支配を終わらせた」という認識を戦後、徹底して国民に植えつけ、自らの正当性を国民に信じさせてきたため、表面的な観光レベルの友好関係は、政治問題になると一挙に冷え込むわけです。日韓関係もまったく同様なことがいえます。
つまり、国民がどう教育されているかが、国際関係に深刻な影響を与え、グローバルな観点で客観性を持って世界を見る視点を持つ人は非情に少ないのが現状です。英国のような先進国でさえ、同じことがいえ、常に国民意識の修正改善が必要ですが、時に治世者が歴史観を書き換えるような国では世界とのギャップは拡がる一方です。
プーチン露大統領も日本との経済関係強化は、喉から手が出るほど望んでいることで、経済発展で先を越された中国との国境問題、ウクライナ問題で冷え込んだEUとの関係を考えれば、外交的には中東でのプレゼンスを高め、経済的には日本との関係強化は必須です。
しかし、冷戦時代から出来上がったロシアの歴史観では、北方領土は正当に取得したロシアの領土という国民意識が存在し、それを変えることは不可能に近く、その中にあっても日本の経済力をどう引き入れるかをプーチンは思案しているのだと思います。
国民の中で固められた固定観念は、その国が生んだものです。しかし、時代の変化と共に修正が必要です。そうしなければ永遠に理解を深めることはできません。政治家が本気で国民意識の更新に取り組まなければ、悲観論が勝ってしまうのではないでしょうか。
ブログ内関連記事
なぜ先進国の民主主義は膠着状態を脱することができなくなっているのか
急ぎすぎた欧州統合がブレグジットやポピュリズムを生み出した
過去の亡霊に翻弄される中露韓との外交交渉 日本外交の真価が問われる年
繰り返されるネガティブニュースによる固定観念の醸成が世界を分断し、異文化理解を困難にする