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 日本のマネージャーは部下の質問にはなんでも答えられなければならないと考える割合が、欧米諸国に比べ、非常に高いといわれています。この考えを最も支持しないのがアメリカで、30年前の調査ではアメリカ人は13%した支持しておらず、日本では77%もが同意していました。今は日本の数値も下がっいます。

 一方でその理由は、業務内容の複雑化、専門化が進んだために、全ての質問に答えられるリーダーなどいないことが挙げたりしています。しかし、このリーダーがどうあるべきかというのは文化に根ざしており、欧米では基本、自分の責務については自分で考えて処理すべきで、なんでも上司相談する文化はありません。

 とはいえ、たとえばアメリカでは長年、理想的リーダー像を旧約聖書に出てくるイスラエル民族を率いるモーゼに例える傾向がありました。エジプトで奴隷だったイスラエル民族を率いてエジプトを脱出して砂漠を放浪しながら、神が準備した天地カナンをめざすモーゼは、今でも大統領などに期待されるリーダー像です。

 その核心は信念を曲げず、ゴールに至ることを最後まで諦めない強さでです。だから、アメリカでも過去の企業のリーダー多くがなんでも知っており、部下の報告は受けても決定は一人で下し、自分に対する批判は排除し、会議では圧倒的支配力を持ち、弱みを一切見せませんでした。

 これを踏襲しているのが、日産・ルノーのゴーン前会長であり、フランスのマクロン大統領であり、ロシアのプーチン大統領といえます。しかし、民主主義を重んじるアメリカでは政治の世界、ビジネス界を問わず、関係管理者が意思決定プロセスに民主的に参加し、最終的に挙手で決めたりしています。

 ゴーン氏は会議で「ルノーは日産を養っている構図では?」との質問に激怒し、質問した部下を強く非難した話が漏れ伝えられています。マクロン大統領は関係閣僚会議などで報告や意見を聞いても「決めるのは私だ」といって、一人で部屋に籠もって決めるスタイルです。

 しかし、なんでも知っている天才的リーダーというのは過去のものになりつつあると、多くの欧米のビジネススクールの専門家は指摘しています。それは決定に不可欠な要素が専門性を増し、リーダーの知識や理解力に限界が出てきたからです。同時に、リーダーからの一方通行は、重要さを増している協力して仕事をする協業環境では効率性を妨げると指摘されているからです。

 日本では元来、協業精神は欧米よりはるかにあるので、調整型リーダーが評価されるといわれますが、リーダーに対しては、今でも「あの上司はなんでも知っており、非常に的確な指導をしてくれる」「的確な指示をしてくれる」ということが評価されます。

 学校で世界1知識偏重教育を受けているといわれる日本人は、なんでも知っていることが重視され、リーダーには「なんでも知っていて、見通せなければ行けない」という強迫観念があります。同時に調整型能力として「落とし所を見つけるスキル」も要求されています。

 今やアメリカでは、何でも知っている態度は成功しない人に見られる典型的パターンといわれ出すほど、リーダー像は変わっています。しかし、トランプ氏の登場が再考を促しています。トランプ氏は、本来、アメリカ人がリーダーに求めた「正しい方向性を知っている」ことを思い起こさせているからです。

 トランプ氏は、次々に辞めていくホワイトハウスの主要スタッフが証言しているように「恐ろしいほどの無知」を感じさせる人物です。つまり、なんでも知るリーダーとは真反対です。ところが彼はスタッフの忠告になかなか耳を貸さず、専門家が頭を傾げる政策を断行しています。

 なのになぜ、トランプ氏をモーゼ型リーダーというかいえば、彼は国の正しい方向性を知っているからです。無論、正しいにも疑問符はありますが、つまり、神に召命されたモーゼは神の意思や約束を知っていたということで、イスラエル民族は不平をいいながらも従っていったというわけです。

 つまり、なんでも知っているという中身が、まったく違うということです。イスラエル民族は、神の約束の地など存在しないとモーゼを批判しましたが、協調的判断よりもリーダーを信じるかことが重視されたという話です。無論、今は多くの人々が字も読めるし、無知ではありません。そのため、合意形成型意思決定の効率性の高さも欧米では注目されています。

 その一方で、専門知識がなく、部下の質問に答えられないとしても、方向性を示せないリーダーはもっと最悪です。日本的に落とし所を探す行為は、皆が妥協することであり、敗者を生まない代わりに、全ての参加者が少しずつ自分の意見を薄めることになり、大した目標設定もできず成果は得られません。

 結論からいえば、リーダーは、なんでも知っている必要はない一方、チーム一人一人の能力を最大限引き出しながら、リーダーのポジションでしか知り得ないヴィジョンを明示し、それを共有することにつきるといえそうです。

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