Jean-Dominique_Senard

 フランス大手自動車メーカー、ルノーは、金融商品取引法違反及び背任で逮捕・長期拘留中のゴーン同社会長の辞任に伴い、ミシュランの最高経営責任者(CEO)のジャン=ドミニック・スナール氏を会長に選出し、日産・ルノー・三菱自動車のアライアンスの行方が注目されています。

 日産自動車の株43%を所有するルノーの筆頭株主がフランス政府という構図のため、政府主導ともいわれる今回の人事が何を意味するのかは、誰もが知りたいところです。特にルノーと同等の立場を主張する日産にとっては、極めて重要な人事です。

 そこで20年前に日産自動車再生のために送り込まれたゴーン氏とスナール氏の共通点と相違点は何かが気になるところです。日本の報道では、スナール氏がミシュランにいたことで「自動車業界を隅々まで知っている」とする専門家のコメントが散見されますが、極めて日本的分析です。

 なぜなら、欧米人、とりわけフランス人には業界通であるかどうかは最重要でないからです。日本ではたたき上げのプロパー人材、それも一社だけしか知らない人物が経営トップになる慣例がありますが、それはむしろ世界的には非常に特殊だからです。

 職人文化に支えられた徒弟制度が組織に浸透している日本の企業文化は、いい部分もあり、それなりに結果を出した過去もありますが、リーダーシップが問われる現在では年功序列的な考えは限界が見えています。ゴーン氏は20年前「日本の終身雇用制度は会社が成長している前提ならいい考えだが、年功序列は問題だ」と指摘しました。

 スナール氏のプロフィールをざっと見てみると、まず、ゴーン氏がフランスの旧植民地レバノンから移民したブラジル系レバノン人の父の元で生まれたのに対して、スナールはフランス外交官の家庭に生まれ、幼少期から世界各地で暮らした経験を持つ育ちのいい生粋のフランス人です。

 フランスのみならず、世界的にも評価の高いグラン・ゼコール、HEC経営大学院で法学修士を取得した後、石油企業の財務・運営管理部門を皮切りに、仏建材メーカー・サンゴバン、アルミニウム大手ペシネーで最高財務責任者(CFO)に登り詰め、2005年にミシュランのCFO、翌年には創業1族ではない初のミシュランCEOに就任しています。

 一方、ゴーン氏は、フランスのグランゼコールを代表するエコール・ポリテクニークを卒業し、パリ国立高等鉱業学校で工学博士を取得しています。この国立高等鉱業学校は、グランゼコールで最も優秀な学生が行くところです。HEC経営大学院、国立高等鉱業学校、国立行政学院(ENA)の卒業生が、圧倒的に政治家、官僚、企業トップのポストを占めているのがフランスです。

 私自身も商業系のグランゼコールで教鞭を執っていたのですが、実はグランゼコールは指導者教育に特化しており、頭脳明晰なだけでなく、意思決定を行う指導者を育てるための実践的学習も重視しています。それと、トップのグランゼコール出身者に共通するのは、公益性の重視、愛国心の強さです。そこはブラジル系レバノン人よりスナール氏の方が明らかにあるでしょう。

 フランスにはノブレス・オブリージュ(高貴の義務)という考えがナポレオンの時代から、公に使える者には、重い責任と高い規範が必要という考えがあります。たとえばフランス人の私の妻は、ドゴール大統領が「支持率が50%を切ったら辞任するといって本当に辞めたのに、今の大統領は20%を切っても辞めない」といつも誠実さのないことを嘆いています。

 実はスナール氏がゴーン氏同様、仏大手タイヤメーカー、ミシュランに在籍していたといいますが、時期は重なっていません。ゴーン氏は創業者の孫、故フランソワ・ミシュランに可愛がられましたが、スナール氏がミシュランに入社したのは2005年で、ゴーン氏はその時は日産の社長でした。

 それと、スナール氏は一貫して財務畑でキャリアを積み、頭角を表した人物だということです。今や財務部門は出世コースの一つといわれ、財務状況から会社の隅々までを理解し、データ分析や財務諸表を正確に読む解くスキルが要求され、自社の将来を決定する経営状況の把握、業務改善の提案などを行う重要な職務です。

 同時に、お金を扱う部門なので人間として高い信頼性が問われ、ゴーン氏のように個人的野心が組織を活かす公共心に勝るような人間はなれません。つまり、自動車業界に精通している以上に、愛国心や公益性重視、信頼性が今回の人事の決め手ともいえます。

 フランスの専門家は、ゴーン氏の様なカリスマ性はまったくないが、組織運営の健全化には貢献するだろうと予測しています。ルメール仏経財相も「ガバナンス強化が最優先」と述べています。温厚な人柄で調整型リーダー、業界通というのも事実でしょうが、日本的見方といえます。

 ミシュラン時代からマクロン現仏大統領(当時経済相)とも接触し、政府の信頼が厚いとされ、本人は日産や三菱自動車とのアライアンス重視の考えを表明しています。今後、スナール氏の指揮下でフランス政府の意向に従い、経営統合に向かうのか、日産が要求する同等な立場を確保できるのか注目されるところです。

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