アメリカのポンペオ米国務長官は2日、中距離核戦力(INF)廃棄条約を6カ月後に破棄するとロシア側に正式に通知しました。理由はロシア側が条約を順守せず、新たな核兵器開発を続けていることですが、国際的に結ばれた条約、協定などの信頼性、継続性が根底から揺らいでいる時代に、われわれは直面しているといえます。

 韓国との間に1965年に結ばれた日韓基本条約で解決済みで不可逆的とされた従軍慰安婦や徴用工の問題を韓国が蒸し返し、アメリカは北大西洋条約機構(NATO)との関係見直しを進めています。つまり、条約や協定、同盟を結んだからといって安心はできないということです。

 たとえば、ロシアのプーチン大統領が日本との平和条約を提案していますが、そもそもロシアが条約を順守する国であるかどうかが疑問です。

 枠組みや決まり、ルールを作って、それを互いに守るというのが条約や協定ですが、その順守の程度は国によってさまざまです。特に独裁国家、全体主義国家、民主主義が成熟していない国家などは、そもそも国内でも、法やルールは統治者の都合で変えられ、絶対的なものともいえません。

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 グローバルビジネスにとって、国の存在は無視できない大きな存在です。国が方針を変えれば、そのビジネスは一挙に頓挫することもありえます。たとえば今、世界最後の成長市場といわれるアフリカは、長い間、政治が安定せず、多くの外国企業は投資を控えてきた経緯があります。

 たとえば、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)では、アメリカが撤退し日本が積極的に牽引していますが、加盟国が今後、決まりを守るかどうかは、実は不明です。日本のように決まりやルールをまじめに守る国は、むしろ少ないといえます。つまり、国際条約や協定は結ばれた後に順守を監視し、育てていく必要があるわけです。

 国際条約は鳴り物入りで結ばれることが多いのですが、守るかどうかは、どこかで互いを信頼するしかない部分もあります。同じようにグローバルビジネスでの契約も、その合意事項の履行についての具体的アクションプラン、守らない場合の罰則等を厳密にする必要があります。

 実は今、動向が注目される米中経済戦争の当事国の国民は、日本とはま逆の国民性も持っています。それは、国民文化研究で知られるホフステードの国民特性の指標からすれば、アメリカ人も中国人も不確実な状況にストレスを感じる度合いが非常に低く、逆に日本人は非常に不安を感じ回避しようとする度合いが強いことが指摘されています。

 パリの商工会議所が発行する各国別おもてなしマニュアルの中でも、日本人が最も重視するのは「安心」とされ、それはどの国よりも強いと認識されています。つまり、条約や協定、ルールを設定するのは、日本人にとっては安心に繋がると捉えられがちですが、世界的にはそうでもないということです。

 たとえば、欧米で最も海外旅行をするといわれる英国人は、不確かなことにストレスを感じる度合いが低く、旅に出発する前の準備はあまりせず、到着したホテルの受け付けで「この町で見た方がいいところはあるか」と質問している姿をよく見かけます。

 逆に日本人ほどではないにせよ、決まりが好きで不確かな状況にストレスを感じるドイツ人は、旅に行く前に入念な準備をし、行き先など旅の日程も事細かに決める傾向があります。そのドイツ人は、クレジットカードなど電子マネーの時代に、未だに現金主義を貫き、IT時代に重厚長大産業を維持し、変化への対応は柔軟とはいえません。

 つまり、決まりやルールを設定して、それを守ることで安定や安心を得ようとする日本人やドイツ人は、条約や協定を守るのは当然と考えるわけですが、離脱した後を心配しないブレグジットを選んだ英国、さらにはアメリカ人、中国人は、不確かな状況にストレスが少なく、むしろ変化をポジティブ捉える傾向があります。

 不確実性が高まるグローバル化時代、変化や不確かな状況にストレスを感じないことは強みといえます。米中、米ロの対立は一歩間違えば、冷戦の再来、軍拡競争激化に繋がるといわれる一方、当事国は日本人が考えるほど不安に感じてないかもしれません。ただし、ロシア人は不確実性の回避という意味で日本に近い高い数字が出ています。

 いずれにせよ、現実には今後、アメリカとNATOの関係の見直しなど国際的枠組みが変化するのは確実です。特にアメリカのトランプ政権は、冷戦後の枠組みのリセットを急いでおり、世界中に影響を与えています。そのため、自国のアイデンティティを強化する一方、柔軟な対応をが求められる時代だともいえます。

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