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 海外赴任した日本人の多くは職場での優先順位に、まずは上司や部下、同僚との信頼関係構築をあげています。日本的常識からすれば当然ですが、多文化の職場では信頼していた部下や同僚のナショナルスタッフが、いきなり転職してしまい「どうして?」とショックを受けることも少なくありません。

 同じことがグローバル交渉の場でもいえ、まずは信頼関係の構築を優先させ、その上で本格的な交渉をスタートさせるべきというのはビジネス交渉のイロハというわけですが、ようやく信頼関係を築けたと思った海外のパートナー企業が他の競合他社に乗り換える想定外の事態に直面したりします。

 日本の大手電機メーカーで国際業務に携わった経験のある社員40名を対象に調査をしたことがありますが、想像以上に多くの失敗を繰り返している現状を見て驚いたことがあります。ビジネスニュースでグローバルな大型案件が動き出すニュースが華々しく報じられますが、その影で、どれほど多くの失敗が繰り返され試行錯誤しているかを垣間見る思いでした。

 無論、失敗は少ないにこしたことはないのですが、日本人と同じコンテクスト(価値観や思考回路、常識)を持っていない相手とのビジネスで、なおかつ背後に政治的圧力があったり、先行きが見通せない状況があると、大きな火傷をすることもしばしばです。

 中国人は、飲み食いを繰り返しながら、相手が信頼できる人間かどうか確かめ、ドイツ人は世間話なしにいきなりビジネスの本題に入り、イタリア人はいつ本題に入るか分らないほど、どうでも良さそうな話に時間を費やします。文化の違いはさまざまな曲面で顔を出すのが現実のグローバルビジネスです。

 某日系自動車メーカーは中国で数年前、中国人従業員による想定外の待遇改善要求のストライキが起き、サプライチェーンにまで波及し、深刻なダメージを受けたことがあります。ストライキは政府が管理する労組ではなく、組合と関係のない出稼ぎの若者たちが主導したものでした。

 後で分かったことは、工場管理で送り込まれた日本人幹部が中国語ができないだけでなく、現場を中国人に任せっきりにしていたことで、従業員の中に鬱積する不満を十分に把握できていなかったことが原因のひとつだったということでした。

 その工場では、現地の従業員の要望で福利厚生施設として、プールや卓球場、バスケットボールができる施設までつくり、会社側は従業員に満足してもらっていると考えていました。さらに日本語講師を雇い、毎朝無料の日本語講座も開設していましたが、なかなか人は集らなかったそうです。

 信頼関係構築のために飲み食いやスポーツ交流などに効果がないわけではないし、信頼関係は仕事上発生するさまざまな課題を解決する上で有効に働くのも事実です。しかし、本質はそこにあるわけではありません。問題発生の原因を探ると必ず出てくるのが、実は相手が仕事自体に満足していなかったということです。

 つまり、相手の利益目標への注目度が低いことが問題発生の原因の場合が多いということです。職場でも文化の背景が違う同僚が仕事や報酬にどの程度満足しているかに注意が払われないことが、離職率を高める原因になるケースが少なくありません。

 日本では考えにくいのですが、会社側にあからさまに昇給要求をするナショナルスタッフもいます。仕事内容に不満があって変更を要求するケースもあります。これらの要求に丁寧に個別対応している企業は成功している場合が多く、集団対応しか受け付けない企業は問題が起きる可能性が多いといえます。

 交渉においても、相手の利益目標に注目すれば、交渉目標の最低ラインや最高ラインの設定にも役立ちます。交渉途中でも相手を読みやすくなります。ただ、異文化環境では、文化の影響が加わるので、相手を知るには文化理解、商習慣の違いを理解することも重要です。

 いずれにせよ、信頼関係構築は異文化環境では簡単に手にできるものではなく、そのため、日本的にまずは信頼関係構築からと考えるのも適切とはいえません。それよりも相手の満足度を知る努力をする方が多くの場合、有効です。

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