5930908299_feebe37982_b

 米中貿易戦争、英国の欧州連合(EU)離脱、中国の一帯一路戦略での東南アジアでの攻防、日本と朝鮮半島の関係悪化など、グローバルビジネスに直接影響を与えそうな不透明なネガティブな状況が起きています。その背後にある高まるナショナリズム、保護主義、ポピュリズムも無視できません。

 世界は今、世界的金融危機や債務危機を経験する中、加速し過ぎたグローバル化で拡がった貧富の差や雇用不安などの疲労感が高まり、これまで信じられてきた自由貿易主義にブレーキが掛かっている状態です。それもグローバル化の牽引役として先頭を走っていたアメリカにトランプ政権が誕生して以来、アメリカ自らがブレーキを踏んでいる状態です。

 そこで懸念されるのが経済活動に対する政治の影響力が圧倒的に増していることです。オバマ政権までのアメリカは、経済活動に政治が直接口出ししない慣行がありましたが、今はまったく違います。ブレグジットはその典型的な例で、合意なき離脱になれば、外国企業は英国からの撤退を含め、重大な判断を迫れています。

 これらの国レベルのカントリーリスクは通常、戦争やクーデター、自然災害などが挙げられますが、先進国より政情不安定な新興国、途上国の方がリスクは高いと思われてきました。しかし、今は世界のどこにでも危機は起きる可能性があります。

 そこで重要さを増しているのが、カントリーリスクのマネジメントです。通常、潜在するリスク要因には、企業内要因と企業外要因がありますが、カントリーリスクは企業が直接コントロールできない企業外要因です。市場や社会に影響を及ぼす主権に関わる政変、経済悪化、為替・為替リスク、法改正、さらには自然災害などがあります。

 これら企業外の要因は、1つの事象による影響を考えるのではなく、政変や事故発生後、連鎖現象が起き、徐々に影響が拡がる場合が多いので、常に情報収集、情報分析を絶やさないことが重要です。1企業では対処しきれない場合も多いため、他企業との連携、日本政府の代表機関からの支援も必要ですし、対応マニュアルを準備しておくことが重要です。

 ブレグジットの場合、英国政府もEUも合意なき離脱で生じる混乱に対する対応マニュアルを準備しており、人の移動で発生するビザ問題、物の移動で今までなかった煩雑な通関作業など気の遠くなるような混乱への備えに入っています。それでも製造業では部品調達の遅れや関税発生によるコストダメージは避けられない状況です。
Country risk analysis


 結果的に製造拠点の撤退を決めるにしても、今度は労使問題への対処が必要です。大量の失業者を出す解雇は、その国の法律によっては想定外の多額の費用が掛かる場合もあります。たとえば、私はフランスで日系大手企業の工場閉鎖に伴う処理を手伝った経験がありますが、多くの日系企業が撤退リスクへの十分な備えがない現実を思い知らされました。

 今、韓国で起きている元徴用工による集団訴訟に対する最高裁の判決で、関連企業が賠償請求され、現地の会社資産が差し押さえられたこともカントリーリスクです。両国政府の外交努力に大きく左右されることで、企業ができることは多くはありませんが、事態が悪化すれば極端な場合、業務停止、徹底の可能性も出てきます。

 リスクは隠れていることが多く、様相としては繰り返され、変化し、新たに産まれるものです。リスク要因自体は過去からのハザードに存在するものですが、そのマネジメントは常に前を向き、主体的、能動的に行われるべきです。なぜなら、リスクは常に未来にあり続けるからです。

 私の経験では「こんな悪いことが起きたので、もう起きないだろう」と思っていたら、それに追い打ちをかけるように、さらに悪いことが生きるのがグローバルリスクです。つまり、グローバルリスクは次々に起きるのも特徴です。そのため遠い本社に判断を委ねることなく、最もリスクに近いリスクオーナーがマネジメントするスキルを高めておく必要があります。

 グローバルリスク・マネジメントのルーツは、海上貿易が盛んだった大英帝国時代に海賊や嵐から物資を守るために考え出された海上保険から始まったといわれます。日本は長い間鎖国し、戦後はアメリカに守ってもらっているため、自己防衛や備えに対する意識もノウハスも十分ではありません。諜報機関を持たなかったのも意識の低さからだったと思います。

 自由貿易やグローバルビジネスに影響を与える国際ルールが怪しくなる一方の世界では、国際情勢の分析は不可欠であり、カントリーリスクへの備えを強化することが求められています。

ブログ内関連記事
ホンダ英国生産終了、英労働党議員10人離党でブレグジット・クライシスが本格化か
想定外の事態が起きやすい異文化環境 失敗回避と失敗に学ぶの両方で異文化耐性が身につく
過去の亡霊に翻弄される中露韓との外交交渉 日本外交の真価が問われる年
予想されるグローバルクライシスには指揮官が鍵になる