Empathy

 優れたリーダーは聴き上手というのは、歴史が証明していると欧米のビジネススクールでは教えています。逆に相手を無視して自説を唱え、自分の考えを押しつける独善的リーダーは問題視されます。一方、東洋ではリーダーを父親的存在と考え、職人世界の師匠のように一方的に教えることが一般的です。

 欧米のビジネススクールは当然、欧米文化の個人主義的で合理主義的思考の影響が強く、あらゆる成功例、失敗例を分析し、一定の普遍的法則を見つけだし、そこから有効な理論を導き出し、その理論をビジネスに適応することを主にしています。

 1980年、アジアで唯一経済一流国となった日本が、そこに西洋的アプローチではない職人文化や会社に忠誠を誓う独特な家族的経営手法で成功を収め、それが必死に分析された時期がありました。それから30年のグローバル化の進展の中で様相は大きく変化しています。

 文化への理解の重要性が増す一方で、異なった文化の多様性が産むユニークな発想をプラスと捉え、どうしたらシナジー効果を得られるか、どうしたら誰もが満足して効率よく働き、生産性を上げられるかというカルチャー・ダイバーシティ・マネジメントが注目されています。

 ここで課題になるのが、相手を正確に理解するためのコミュニケーションスキルです。特に重要なのが聴き上手になることです。それも受け身で「聞く」のではなく。積極的、主体的に拝聴する「聴く」ことです。

 このトレーニングを日本人に実際にしてみて分かることは、たとえば現場で働くナショナルスタッフへのヒアリングで、なぜか聴くよりも答えることを急ぐ傾向が非常に強いことに気づきます。常識への依存度の高いハイコンテクストの日本人は、一を知って十を知り、即座に答えを出すリーダーが優れているとされています。

 そのため聴くことは最小限となり、適切な指導を迅速に行うことを重視する傾向があります。さらに東洋では父親は子供に対して、師匠は弟子に対して、なんでも知っている存在でなければならないという意識もあり、人間は皆同じというハイコンテクスト特有の文化もあります。

 そのため、当然、相手を正確に理解する努力は軽視され、指導する方に力点が置かれるわけですが、文化が読みにくい異文化環境ではそうはいきません。むしろに日本人同士では省略してしまっている部分、つまり注意深く聴くプロセスを加える必要があるということです。

 具体的には相手の言ったことを繰り返したり、言い換えたりしながら、徹底して確認する作業と相手に共感することです。日本人は常識を共有する度合いが高いので、実は共感度の高い文化を持っている一方で共通事項が多い一方で、本音をなるべく隠し、建前で共存しようという文化も加わり、共感表現は十分ではありません。

 その究極が「私」という主語を省いてしまうことです。そのため常識を共有が困難な文化の異なる相手には共感は伝わりません。日本では自分の思っていることや感じたことをダイレクトにいう人は自己主張が強く、相手の心を無視する人と考えられがちです。むしろ全体の考えに自分を合わせる人が正しい人という村社会独特の考えがあります。

 しかし、現場が村の外となると話は別です。まずは日本村と違い、徹底的に聴く必要があります。それも答えが頭に浮かんでも、それを口に出すのは正確に相手を理解した後です。優れたリーダーほど解答はすぐに出るわけですが、それを相手への理解、確認プロセスを経ずに、すぐにいうのは効果的ではありません。

 さらに相手の心をよりオープンにする共感は、私言葉で分かりやすく感情を込めて伝える必要があります。「私も同じように苦戦した経験があるよ」とか「私もあなたと同じことを感じたことがあります」など相手の立場に立って自分の感情を共感表現することが重要です。

 それでも異文化は理解が難しく、次々に想定外のことが起きるのが現実です。しかし、相手を知ろうと努力する姿は相手に確実に伝わり、カルチャー・ダイバーシティ効果を引き出すことに繋がっていくのも実証されています。

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