インドネシアの某日系企業で5年ほど働いていたAさんは、日本本社人事となり、期待に胸を膨らませて日本にやってきましたが、1年で音を上げてインドネシアに帰国してしまいました。現在はヨーロッパ系の会社に転職しているAさんから話を聞き、なるほどと思いました。
優秀なエンジニアであるAさんは日本に行く前、ジャカルタ郊外に拠点を置く日系企業で、日本人上司のNさんに非常に可愛がられていたそうです。家族を大切にするインドネシアでは、いい上司は父親的存在であるべきとの考えがあり、Nさんは理想の上司だったといいます。
そこでAさんは日本に帰国していたNさんとの再会も楽しみにして日本に赴任したそうです。最初の躓きは、日本で会ったNさんは別人のようだったことです。インドネシアでは、非常にフレンドリーで公私にわたり、いろいろな相談にも乗ってくれていたのですが、日本で会ったNさんは、よそよそしく、なによりショックだったのは、NさんがNさんの上司にペコペコしているのを見たことでした。
ジャカルタでは、他の日本人スタッフより親分肌で、堂々としていたように見えたのが、日本の職場では、Aさんから見れば、ジャカルタでは見たことない卑屈な態度に見えたそうです。それに初めての日本でいろいろ相談に乗ってくれると期待したのに、Nさんは、Aさんの所属部署の上司に相談するようにいわれ、そっけないと感じました。
それでもAさんは、日本の組織は非常に大きいので、ジャカルタ支社とは違うのは当然と思い、なんとかやり抜こうとしましたが、ある時、上司から「ジャカルタで5年も勤めていたのに、未だに日本のやり方を理解していないのか」と強く叱られ、結局、会社を止めることにしたそうです。
同じような話をアメリカから赴任したアメリカ人のエリート社員から聞いたこともあります。その男性もアメリカで見た上司と、日本で見た同じ上司は別人だったといいます。
前出のインドネシア人もアメリカ人も、自分の国にいる時は、日本人にとって、その国はアウェイなので、ナショナルスタッフと協業する時は、相手の文化を尊重するしかありません。海外進出した日系企業は、特に欧米で日本的やり方を強要して過去に失敗した経験をしており、現地のやり方に合わせながら、日本方式を慎重に適応するようになっています。
しかし、日本では立場は逆なので、外国人が日本に合わせるしかないのですが、同じ日本人が海外にいた時と日本に帰国してから、あまりに態度が違うことに戸惑う例は、特にホワイトカラーには多いのが実情です。それに受け入れる側も異なった文化を理解しようという姿勢に欠けている場合があり、特に古い大企業に多いのが実情です。
人手不足を補うための外国人材活用では、日本人がきつい肉体労働が多い面もありますが、海外展開でも活用できる人材として、優秀な高学歴の人材を受け入れる企業も増えてます。ところが実際には、日本独特の部署の一方的なたらい回しなどで、自分に対する評価やキャリアパスが見えなかったりで、愛社精神を強要されることに限界を感じる外国人は少なくないのが現状です。
海外では、文化に則したさまざまなやり方の工夫を行っている日本企業も、日本国内では旧態依然とした体制を崩していない場合が多く、そこに外国人材を受け入れることで不協和音が拡がる例もあります。
それを回避し、会社を進化させるにはカルチャーダイバシティのマネジメント方法を学ぶ必要があります。バブルの頃、欧米先進国から急成長した経済大国の日本を「不思議な国」と形容されましたが、あれから30年経ち、日本は大きく根本的に変わり、西洋人やアジアの人々から分かりやすい国になったかというと、そうでもない現実があります。
その意味でも外国人材登用の拡大を機に不思議の国という冠を取る時が来ているのではないでしょうか。つまり、多文化のシナジー効果を得るためには、日本人だけが理解できる文化を背景とするリーダーシップやマネジメントを大きく変える時期に差し掛かっているといえます。
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