これまで日本人のみならず、チームを率いる世界中の優れたリーダーと会って思うことは、能力の優劣に関わらずチームの1人1人を尊重し、メンバー同士も尊重し合う関係を構築できているチームが、最もチーム力を発揮しているということです。

 業務が複雑化、複合化する今日、チームワークの重要性は日に日に増しています。そのため世界中のビジネススクールでは、成果を出すためのチームのあり方、チームを率いるリーダーのあり方の研究が進められています。

 たとえば集団主義、家族主義の日本人はチームワークが得意で、個人主義の欧米人は苦手というステレオタイプのイメージがあります。しかし、日本以上に家族主義的な東南アジアの人々がチームワークが得意などともいえません。第1、相互補完的な日本のチームワークは日本文化が生んだ特異なものであって、世界中の人々に当てはまるものでもありません。

 アーティスティックスイミング(旧シンクロナイズスイミング)で、スペインチームを2008年北京五輪で初の銀メダル獲得に導いた藤木麻祐子氏の証言は興味深いものがあります。過去の選手時代にコーチから受けた人格を否定する暴言や酷い扱いを教訓に、1人1人を大切にする指導哲学を実践しているという話です。

 1体性が求められるアーティスティックスイミングは、個人個人の個性よりもチーム全体がもたらす芸術性が追求されるもので、歌舞伎の群舞を彷彿とさせる日本人には合ったスポーツです。しかし、その従来からの指導方法は世界的に見て、けっして褒められるものではないと私は思っています。

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 かつての日本は、今の東南アジアのように父親的存在が理想的なリーダー像でした。しかし、それも終身雇用に支えられてのことで、本当に部下1人1人の人生に上司が責任を持っていたわけではありません。実は、私の拙書『下僕の精神構造』にも書きましたが、日本には日本人が気づきにくい下僕精神があると私は見ています。

 上司への従順を求められる下僕は、上司(親)の子供ではないので自分の意見をいうことは認められていません。内心で何を思っていたとしても、その本音を封印しながら、ご主人様である上司とチームに奉仕するという精神が、日本人の美しい忠誠心の裏に長年、根付いていると私は見ています。

 それに東洋的世界観は、神が全ての自然を人間のために与え、人間は自然に対して優位に立つというキリスト教的考えではなく、人間と自然を同列に考えるものです。そのため、何よりも調和が優先され、チームワークに強い影響を与えています。

 さらに世界的に見ても突出した男性社会ということもリーダーシップに影響を与えています。最近、日本のみならず、世界中の企業で暴露されている不正やパワハラ、セクハラの蔓延が組織を機能不全に陥れている問題について「競い合う性格」の強い男性性の弊害を指摘する研究が進んでいます。

 たとえば、競争原理が完全肯定されているアメリカでは、上司は社員が競い合うようにけしかけ、結果、業績優秀者が冒す不正行為には上司が目をつむる傾向があるといわれます。つまり勝者が全てを手にするという競争原理に支配されており、極端な場合は勝者(強者)がルールそのものを決めるという考えを根底に持つということです。

 ニューロリーダーシップ・インスティテュートでシニア・サイエンティストを務めるピーター・グリック氏らのチームは、この弱肉強食的な競うことを好む男性性が生み出す負の要素が、有害なリーダーシップを生み出すと分析しています。

 つまり、強靱さを第1に考え、弱みを見せず、面子やプライドにこだわり、仕事を優先する男性性の作り出す規範が組織に弊害を与えていることに気づき始めているという指摘です。調和を重んじる日本は、個人間の競争はアメリカほどではありませんが、しかし、男性性の独占による弊害は私も支持します。

 藤木麻祐子氏が選手時代のコーチから受けた不適切な指導方法とは、結果を出せないと本当にゴミ扱いされ、失敗すると「死ね」と暴言を吐かれ、人格を否定された事でした。コーチが無視すればメンバーも自分を無視し、孤立を深めていったといいます。それが1人1人をかけがえのないメンバーとして大切に扱い、指導する今の姿勢を生み出したと証言しています。
 
 さらに彼女はメンバーが他のメンバーに意識を持つ事や絆を強調しているといいます。一体感には欠かせない要素ですが、これもコーチが1人1人を大切に考えて指導していることから生れる事です。

 異文化環境で日本人がリーダーシップを発揮するには、さまざまな改善が必要ですが、男性性が支配的な日本企業で、下僕の精神や目的よりも調和が優先される精神文化は改善が必要です。同時にチーム1人1人の人格を尊重し、大切に扱うことは何よりも重要です。実際、海外で成果を出している日本人リーダーにも共通することです。

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