ウクライナで今月21日、大統領選挙の決選投票が行われ、コメディアンのウォロディミル・ゼレンスキー氏が圧倒的大差で現職のペトロ・ポロシェンコ氏に勝利しました。テレビスターで政治経験ゼロのゼレンスキー氏の当選を当初から予想できたメディアはほとんどありませんでした。
ポロシェンコ氏の敗北は、政治腐敗構造を国民が嫌ったことだと言われていますが、ロシアからの影響を最小化し、欧州連合(EU)に向かおうとして起きた内戦を南部以外でなんとか収め、民主主義を成熟させるため、今回の公正な大統領選挙をもたらしたのもポロシェンコ氏でした。
今回の選挙が完全にクリーンに行われたかどうかは分かりませんが、少なくとも大きなトラブルはなく、ユダヤ系であるゼレンスキー氏が選ばれたことは少なくとも宗教的差別とは無縁だったことを意味しています。キエフ国立経済大学で法学を学んだとはいえ、人気コメディアンで俳優だった人物を国民が選んだのも民主主義がもたらしたといえそうです。
無論、懸念材料は山積です。最大の課題は国の南部でロシア系との軍事衝突を繰り返されている安全保障問題です。当然、背後にはウクライナそのものを取り戻したいロシアのプーチン大統領が控えています。今回の選挙でプーチンがポロシェンコ氏よりゼレンスキー氏を好んだのは明らかでしょう。
今後はゼレンスキー氏の弱点を徹底研究し、ロシアは攻勢に出る可能性があります。頼みのEUはブレグジットの最中で、けっして順風満帆ではなく、ロシアは強気に出る可能性もあります。ウクライナ語が苦手なゼレンスキー氏はロシア語で国を運営することになるのも、不安材料です。
比べる例とはいえませんが、2016年にアメリカの大統領になったトランプ氏、翌2017年にフランスの大統領になったマクロン氏両氏は共に国政選挙の経験なしに国家のトップになった人物です。トランプ氏は豊富なビジネスでの実績はあるものの政治経験はありませんでした。
未だに引きずる大統領選時のロシア疑惑も、本人を囲むスタッフの政治常識のなさが生んだものでした。側近スタッフは国務長官や司法長官などの最重要ポストでさえ、入れ換えが起き、プロの政治家から見れば、突拍子もないと思われる政策が飛び出し、困惑させられています。中間選挙での共和党の敗北の遠因にもなりました。
一方、マクロン氏も金融界出身の若干39歳で、経済相は経験したものの国政選挙経験のないままに大統領になりました。就任当初に国民から尊敬されていた仏軍トップのドゥビリエ将軍を意見の違いから首にし、その後も人気の高いユロ環境大臣や元リヨン市長が次々に辞任し、マクロン氏の元を去りました。
アメリカ以上に権力が集中するフランスの大統領は、次ぎ次ぎに改革路線を打ち出し、国会の審議を経ず実行に移し「皇帝のような振る舞い」と批判されました。今は5カ月以上続く、反政府抗議運動の黄色いベスト運動が収まる気配を見せていません。支持率も下がり、求心力は失われ、苦戦状態が続いています。
21世紀に入り、古い政治に飽き飽きしている人々は世界中にいるのも事実です。新風をもたらすには、過去のしがらみがない政治的には「新種の人間」が必要だと考える有権者が少なくありません。特に欧州は長いイデオロギー闘争の過去があり、経験豊富な政治家は時代遅れと見られがちです。
しかし、政治的に素人といっていい人間を国家のトップに選ぶことは、高いリスクも抱えることになります。それに政治は一人ではできません。たとえばマクロン氏のようなエリート意識を強く持つ人間は、なんでも自分の能力で問題解決できると思いがちですが、政治はビジネスと違い、あらゆる層の国民が相手なので総合的な人間力が問われます。その意味では限界が見えています。
一方、トランプ氏は政治や外交の専門家からは軽蔑の声を浴びせられながら、アメリカの存在感を強化しているのは確かです。最大の強みは彼がぶれていないことだと私は見ています。キリスト教福音派の磐石な基盤を大切にしながら、常に明確な方針を打ち出しています。
オバマ時代にしぼみかけたアメリカの存在感は明らかに増しており、イランや北朝鮮は追い込まれています。中国やロシアもアメリカを無視した行動は取れなくなっていることは歓迎すべきことでしょう。これはアメリカという若い国のパワーが後押ししているのも事実です。
イデオロギーから経済の時代に移行した21世紀、素人政治家が大統領になることは予想されていなかったかもしれませんが、閉塞状態を打開するためには、リスクはあっても多様性を受け入れるしかないのも事実ということです。
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一方、トランプ氏は政治や外交の専門家からは軽蔑の声を浴びせられながら、アメリカの存在感を強化しているのは確かです。最大の強みは彼がぶれていないことだと私は見ています。キリスト教福音派の磐石な基盤を大切にしながら、常に明確な方針を打ち出しています。
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