confidence-589037_1280

 私は日系企業での研修や講演の締めくくりとして、今ほど日本及び日本人の評価が高まっている時代はないことを強調することにしています。逆に言えば、バブル崩壊後のマイナス成長、低成長時代しか知らない世代が会社の中核を担う時代に入りつつある今、日本人として自信のない人が増えているからです。

 日本からフランスに移動し、フリーランスとなった私は、1993年から仏西部ブルターニュ地方のレンヌで、仏政府が立ち上げた日仏経営大学院の手伝いやビジネススクールで教鞭を取り始めました。2000年までは欧米を中心に取材を繰り返し、その後、徐々にアジアの仕事も増えたのですが、丁度、日本のバブル崩壊と東西冷戦終結後の日本と世界の関係を見てきた形です。

 グローバルなビジネス交渉の最前線で出会う欧米の人々から「あなたが日本人だから信頼できる」という言葉を度々聞いてきました。逆に言えばグローバルビジネスは国内の何倍もリスクが高く、信頼を勝ち取ることは容易でないのが現実です。某国では国内でも日本では考えられない嘘や騙しあいが横行しています。

 では日本人をなぜそこまで信頼してくれているのかといえば、経済大国としての地位を半世紀以上続けているからです。欧米人の価値の尺度は文明度ですから、長期の繁栄は非常に重要です。特にビジネスでの長期的成功は技術や商売の仕方で信頼され続けることが重要です。その意味で日本は高い評価を得て文明国として認知されているわけです。

 ひとつ足かせになっていることがあるとすれば、日本に長年住み続けた反社会勢力の影響力ですが、グローバル化の足かせだった総会屋対策に本格的に取り組み、闇経済は以前とは違ってきています。

 しかし、文明国として認知される道のりは長く、具体的には強い愛国心を持ち、世界に高い技術を発進し続けた経営者たちが戦後経済を牽引したことが最も大きいといえます。彼ら先輩たちが敗戦国の汚名を払拭し、国際的信頼を取り戻すことに腐心した結果が、世界を支配してきた欧米先進国から文明国としての合格点を獲得した形です。

 そんな日本で令和元年を迎え、一般参賀に14万人が訪れた映像を見た海外に人々は、改めて日本人と天皇との深い精神的結びつきを感じたはずです。戦後44年を人間天皇とした過ごした昭和天皇の時代に日本は世界第2位の経済大国に上りつめ、アメリカを中心に急成長を遂げ、日本研究も盛んに行われました。

 その後の30年の平成時代はマイナス成長、低成長時代に入りながらも経済大国としての命脈を保ちました。その間に国内のインフラ整備も進み、国の隅々まで高度な公共サービスを提供する国になり、海外から日本を訪れる人々は地方の隅々まで整備された清潔で安全な国に感動しています。そんな国は世界になかなかないからです。

 その評価は経済的繁栄だけでなく、人々のモラルの高さにも向けられています。また、今は地方の小さな規模の職人文化が生んだ非常に優れた製品にも世界の目は向けられています。後継者のいない伝統工芸を外国人が受け継ぐ現象まで起きています。

 継続的な成長を維持することの難しさは、ヨーロッパがすでに証明しています。しかし、最も懸念されるのは日本人が自身を失うこと、向上心を失うことです。それは敗戦で失った国の信頼を先輩たちが必死で取り戻し、積み上げてきた全てを失う可能性があるからです。この20年、日本の高度な技術は苦し紛れに安売りされてきたのも事実です。

 そのリスクを避けるためには日本独特な文化の再検証が必要です。たとえば、少子化に繋がったライフ・ワーク・バランスを無視した男中心の労働慣行、日本人の帰属意識や忠誠心、勤勉さ、上下意識をあてにする経営手法は、日本の弱体化に繋がっています。これらの美徳は貴重ですが、利益追求に利用するのは偽善です。

 今回のゴールデンウィークを見ていると、まだまだ日本人の幸福感は貧しいといえます。お金をかけずに長期休暇を過ごす体制が整っていないために、マイカーで車中泊しながら旅行する人が増えています。これは海外では非常に危険を伴う行為です。

 たとえばアメリカの経済成長を支えているのは、人々がより豊かな生活を求め、強いモチベーションを持って生きているからです。人間の欲望に限りはなく、資本主義経済はその欲望に支えられているわけですが、それは単にお金だけの話ではなく、生活の質向上には「豊かに過ごす時間」が必要です。

 その時間確保を考えると生産性、効率性は当然の帰結です。そこに意識が至らず、プライベートな時間を犠牲にして働いてきた日本人の意識転換を期待したいところです。子育て中で残業はできないという女性は雇わないという会社に未来はありません。

 せっかく世界的な高い評価を得ている日本なのに日本人が幸福を感じなければ意味がありません。幸福追求が発展の最大の原動力になるのが令和の時代と思いたいところです。

ブログ内関連記事
心がついてこれないのに働ける不思議な国の日本人の建前人生はどう変化しているのか
AIエンジニアのグローバル争奪戦 日本の集団主義的給与体系は大きな岐路に立たされている
非効率と思われがちな女性や外国人採用 実は業務効率を高めることに貢献
アメリカ人が意味があると感じる職業ランキング上位は全てが人助けだった