トランプ米大統領が米中貿易交渉について「時間が掛かりすぎ」として、中国に2000億ドル(約22兆円)相当の中国輸入品への関税を10%から25%に引き上げると正式通知し、10日中国時間の正午過ぎに発動されました。トランプ氏がいきなり強気に転じたことについては「中国はトランプ氏を誤解」(米ウォールストリートジャーナル)などの指摘も出ています。
今回の協議について、欧米の中国専門家の中には「世界第2位の経済大国としての踏み絵」と評する論調も出ていますが、興味深いのは、中国国内にも「国力と経済規模を混同すべきでない」と自重を促す発言が出始めていることです。
その発言の一つは中国のシンクタンク「中国・グローバル化センター(CCG)」、国連中国代表部などが4月に北京で開催したフォーラムで、元商務相でCCG名誉会長の陳徳銘が、多国間協力における自国の位置付けについて「(世界)ナンバー2と考えてはならず、まして、未来のナンバーワンなどと自称してはならない」と語ったことです。
商務省は現在、米中貿易協議で劉鶴副首相率いる交渉団とともアメリカとの交渉で中心的役割を担っているわけですが、そのトップだった人物の発言だけに重いといえそうです。無論、中国人の自重発言を、そのまま受け取るのは危険ですが、自国の繁栄とイメージを大切にする面子の国から飛び出した警告発言は興味深いものです。
そういえば、1980年代、日本が世界第2位の経済大国といわれ出した頃、マスコミは繰り返し、そのことを報道し、中国に抜かれるまでは何かと「アメリカに次ぐ大国」「アメリカと日本の経済力は3位以下の国々を大きく引き離している」などといわれました。
アメリカは名目GDPは19兆3600億ドルで世界のGDPの25%を占め、1人当たりのGDPも非常に高く、軍事力でも他を圧倒しており、名実共に世界第1位の大国です。日本は敗戦の負い目から、世界第2位といわれ出してもビジネス以外で覇権主義になることはありませんでしたが、中国はその地位を利用し模範的社会主義国として世界を圧倒する野望を持っています。
面子の国、中国では「世界第2位の大国」という文字がメディアに載らない日がないほど、プライドをくすぐっており、同時にアメリカとの国力の差は歴然ですが、中国共産党が自分たちの正当性を強調するプロパガンダとしても最大限利用する材料になっています。
しかし、アメリカとの貿易交渉に望む中国は、表面には見せていなくともアメリカとはけっして対等の力を持つ大国ではないことを思い知らされているはずです。交渉結果の如何に関わらず、思い通りにはいかないジレンマに陥っているといえます。
とかくイメージが先行する国際社会で、ビジネスはそれに大きく左右される側面もありますが、冷静に物事を眺め、どの部分で大国で、どの部分で途上国なのかは正確に見極めるべきでしょう。そうでないと大きな火傷をするリスクもあるからです。「やっぱり金でしょ」という考えで国を眺めるのは間違いだということです。
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