米中の関税の応酬は、じりじりと世界経済に悪影響を与えていますが、果たしてこの状況をどう読むべきなのでしょうか。よく米中貿易戦争は2重構造といわれ、経済戦争という側面と共産党一党独裁体制の中国と自由主義体制のアメリカの基本的な考え方の対立だといわれています。
経済問題だけなら、協議で解決策を模索できますが、体制の違いからくる問題は簡単ではなく、だからこそ、この米中貿易戦争は長期化するとの見方が強まっています。トランプ米大統領は、中国からの輸入品に高い関税をかければ、アメリカ経済にもダメージをもたらすことも覚悟の上で闘いをやめるつもりはないようです。
理由の一つは、このまま中国を放置すれば、13億の人口と広大な国土を持つ中国は長い期間を待たずして、経済的にも軍事的にもアメリカを追い抜き、世界を支配する存在になる可能性があるからです。それは経済的、軍事的に世界1位を維持してきたアメリカにとって最大の危機です。
その危機はアメリカならでは危機感です。自由、平等、公正、人権、正義を基盤にした民主主義、自由市場主義の伝道者であり、東西冷戦の勝者であるアメリカにとっては、世界の新たな枠組みを作るメインプレーヤーの地位を失うことを意味し、それあアメリカ第1主義でもなけれな、単なるポジション争いでもありません。
一方、中国の習近平国家主席の野望は、21世紀の社会主義国家モデルを世界に示すことと、世界人類が中国にひれ伏す中華思想に基づいた世界支配の夢の実現です。そのためには手段を選ばないのが中国です。その意味でアメリカに屈するわけにはいかず、単なる面子の問題ではないでしょう。
今の状況を作り出したのは、欧米先進国及び日本が中国の真の目的を見抜けなかったことと、「経済的に豊かになれば共産主義を棄てる日が来る」という甘い幻想があったからだと私は見ています。もともと共産主義は極端な社会的弱者を生んだ既得権益者の抹殺が思想の根底にあるので、貧しさが解消されさえすれば、共産主義は持たないというのが西洋のシナリオでした。
ところがそのシナリオは働かず、世界支配を伺う巨人を作り出してしまったわけです。この急成長を支えた一つは世界の工場を引き受けたことですが、最大の目的は欧米先進国及び、日本が蓄積した知的財産を短期間で取得することです。
そのためにアメリカの大学、研究機関、シリコンバレーに中国の優秀な人材を送り込んでいたことに、最近、ようやくアメリカが気づき始めたというわけです。中国国内では人権感覚が薄いので知財やオリジナリティを尊重する考えはないといえます。
これは北朝鮮の核開発も同じで、北朝鮮は秘密裏に核兵器開発技術を取得するために優秀な人材をアメリカの大学などに送り込み、今ではロシアの技術者に頼ることなく核兵器を進化させています。アメリカは、その実態に気づいて、中国人や北朝鮮人の高度技能者の排除に乗り出していますが、手遅れかもしれません。
中国は、いつか世界の工場の地位を失うことなど分かっていたはずです。しかし、今がすでにそうであるように今度は世界で最も魅力ある市場に生まれ変わり、海外資本が殺到し、今度は中国メーカーが世界を席巻する時代に入ろうとしています。
しかし、まだ社会基盤もテクノロジーも充分ではなく、もっと日本やアメリカから吸収する必要があるので、世界のビジネスで鍵を握る知財獲得に集中する中国は、アメリカから知財の不当な入手を可能にする法律の改正を迫られても変えるわけにはいかないというのが中国事情でしょう。
中国の合理性は、最小限の努力で最大限の利益を得ることです。ノーベル賞を取るような地味な基礎研究よりは、盗めるものは全部盗み、それもなるべく手段を選ばず、短期間に努力も最小限で入手するというのが中国式です。今回、米中貿易協議で交渉を難航させている知財問題は、中国の合理性からいって飲むことができない内容です。
それにアメリカの要求通りにすれば、アメリカに屈伏したことになり、非常に内向きの中国共産党としては内政上、非常にまずい状況に陥る可能性がある。関税をもとに戻す唯一の道は、米朝交渉で北朝鮮が完全非核化要求を飲めないのと同じで、中国もアメリカの要求を飲む合理性がないといえます。
長期戦が予想される米中貿易摩擦で、中国から生産拠点を他のアジア諸国に移す企業は続出するでしょう。しかし、今度は中国が他のアジア諸国からの輸入品に高い関税をかけるかもしれません。中国市場に魅了される外国企業には行き場がなくなる可能性もあります。
アメリカは反トランプの民主党でさえ、中国へ圧力をかけることでは合意しており、世界経済は不透明感が高まっており、日本企業も読み間違いは許されない状況です。
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