Aerial_view_of_Dalian,_China
     日本企業誘致に熱心な中国東北部大連市

 米中貿易戦争がヒートアップし、今度の大阪のG20首脳会議で、米中協議の進展の噂も流れ、日本が仲介役で立ち回る期待もあるとされています。しかし、専門家の間では早期収拾より長期戦突入の予想が上回っています。

 そんな状況の中、好転し改善が進む日中関係を見据え、中国の地方都市が日系企業優遇に動き出していることが、現地日系企業から漏れ伝えられています。政治外交的には、アメリカの同盟国である日本は、アメリカ寄りであることは確かですが、今のところ、貿易戦争でアメリカに日本が加担するとは思われていません。

 ロシアもそうですが、冷戦終結以降の中ロは、アメリカとは厳しく政治的緊張関係を持ちながら、欧州、日本とは経済関係重視で使い分けてきました。米中貿易戦争が長期化の根底に中国覇権主義とセットになっている社会主義の拡大をアメリカが阻止したい政治的意図があるため、中国にとっては体制問題とも繋がる深刻な状況です。

 逆に何かといえば人道主義や人権に口うるさい欧米と違い、日本は中ロにとっては、はるかに付き合いやすい相手です。裏を返せば信念のない八方美人的商人とも思われがちですが、日本の経済的存在感は、まだまだ、中ロには重要です。特に中国の地方自治体は、原則にうるさい欧米より、日本企業のつなぎ止めに必死です。

 そこで思い出すのは1980年代後半から1990年代初めにかけ、アメリカのジャパンバッシングが激しかった時期のアメリカで遭遇した連邦政府と州政府の極端な温度差です。私は当時、日本の自動車メーカーの進出が本格化したミシガン州に始まり、フロリダ州、イリノイ州、ユタ州などを取材しました。

 そこで見たものは、アメリカの連邦政府やニューヨークタイムズのような全国紙の報道とは裏腹に、州政府が日本企業誘致に必死だった姿です。ミシガン州など州政府によっては東京事務所を開設し、取材するよう頼んでくるケースもありました。取材中はリムジンかーまで手配する歓待ぶりで、各州の知事にもインタビューしましたが、彼らも日本企業誘致に必死でした。

 今、トランプ政権は中国に強い脅威を感じ、中国封じ込めに躍起になっていますが、州が一つの国家のようなアメリカでは、州によって対中国感情は一枚岩ではありません。すでに中国企業に買収されたアメリカ企業は、製造業からIT、サービス業に拡がっており、中国人リーダーがアメリカ人部下を使う例は増えています。

 トランプ政権としては、技術など知的財産の中国への流出をくい止めたいために、さまざまな方策を出していますが、私の知る限り、州によっては中国企業と抜き差しならない関係になっているケースもあると思われます。税収が増え、雇用が創出されるなら、中国企業の進出を有り難く思う州は少なくないからです。

 同じことが、日中関係にもいえます。無論、中国は政治システム上、日本や欧米とは比べられない中央集権の政治体制なので、中央政府の影響は大きいわけですが、これまでも日中関係が政治的に冷え込んだ時期でも地方都市への日本企業誘致は確実に増えてきました。

 つまり、中央政府と地方都市には、特にビジネスにおいては大きな温度差が存在するということです。今、中国が恐れるのは米中貿易戦争を嫌って、日本企業が大挙してベトナムやタイ、インドネシアなどに生産拠点を移すことです。大連などで日系企業への破格の待遇を行っているニュースも流れているのはそのためです。

 グローバルビジネスでは、カントリーリスクを含め、政治状況の分析は重要です。しかし、自治体レベルで異なった状況もあることは、歴史的対日感情も含め、常に認識しておくべきでしょう。

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